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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

不動産売買契約で起こり得るトラブルに関してQ&A形式で解説します。

契約不適合責任

Q
売買契約条項にある「契約不適合責任」とは、どのような責任でしょうか?
A

1 契約不適合責任とは

 売買契約において引渡された目的物が「種類」・「品質」・「数量」に関し、契約内容に適合しないものであるときには、買主は売主に対して、追完請求・代金減額請求・損害賠償・契約解除を請求することができます。この売主の責任を「契約不適合責任」と言います(民法562条、563条、564条)。
 不動産売買契約では、売主は契約で定めた「品質」の不動産を引渡すこと、及び、買主は契約で定めた売買代金を支払うこと、を双方の対価的な義務として合意します。従って、引渡された不動産が、売買契約で定めた「品質」に適合しない状態(契約不適合)である場合には、売買代金との対価性が崩れているため、買主は、売主に対して、追完(修補)請求・代金減額請求・損害賠償・契約解除を求めることができます。

2 「契約不適合」とは

 不動産売買契約で問題となる「契約不適合」には、①建物の構造上の欠陥や軟弱地盤等の「物理的欠陥」、②建物内で発生した自殺や事件等の「心理的な事情」、③土地建物の利用に制限をかける「法令上の制限」、④近隣に存在する嫌悪施設・騒音等の「周辺環境」等が考えられます。
 また、「契約不適合」の判断は、売買契約書の記載、契約の性質・目的、及び、契約締結までの一切の事情に基づいて、売買契約締結時に、どのような「品質」を前提とした合意がされたのかを判断します。

3 「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ

 民法改正前(2020年4月1日施行以前)においては、引渡された目的物(特定物)に「隠れた瑕疵」が存在する場合、売主は無過失責任である「瑕疵担保責任」を負い、買主は売主に対して「瑕疵担保責任」に基づき損害賠償や契約解除を求めることができました。
 民法改正(2020年4月1日施行)により、「瑕疵担保責任」は債務不履行責任の一種とする「契約不適合責任」に名称が改められ、損害賠償請求と契約解除の他、追完請求と代金減額請求も規定されました。「契約不適合責任」に改められたことで、契約締結の際には、契約内容として合意する不動産の「品質」について、より意識して契約を結ぶことが大切になります。

Q
7年前に購入した住宅に欠陥がみつかりました。
「契約不適合責任」はいつまでに請求することができますか?
A

1 「契約不適合責任」

 買主が売主に対して「契約不適合責任」に基づく責任追及をするためには、①「不適合を知ったときから1年以内」に「不適合が存在する旨」の「通知」を行った上で、②責任追及権(損害賠償請求権など)の「消滅時効」の期間内に具体的請求権を行使する必要があります。
 但し、「契約不適合責任」は任意規定であり、特約において期間や責任範囲を修正することが可能であり、多くの不動産売買契約では「契約不適合責任」に関する特約が行われていますので、その特約が有効であるのかよく確認する必要があります。

2 「契約不適合責任」の期間制限

(1)

「契約不適合」の通知
買主が、契約不適合責任に基づき責任追及(修補請求や損害賠償請求等)の権利行使をするためには、原則、「不適合を知ったときから1年以内」に「不適合が存在する旨」の「通知」を売主に対して行う必要があります。これを懈怠すると「契約不適合責任」を追及する権利を失います(民法566条)。但し、売主が引渡し時に不適合を知り、又は、重大な過失で知らなかったときは、通知を懈怠しても権利は失われないとされています。

(2)

消滅時効
買主は、前記通知を行った上で、売主に対する「契約不適合責任」の責任追及権利が消滅時効にかかる前に責任追及(修補請求等)の具体的な権利行使を行う必要があります。なお、法改正により、債権の請求権は、①権利を行使できることを知った時(不適合を知った時)から5年、又は、②権利を行使できるとき(引渡しを受けた時)から10年の早い時期に消滅時効によって消滅すると改正されていますので、これらの期間内に権利行使を行う必要があります。

3 「瑕疵担保責任」

 改正前民法では、売主に対する「瑕疵担保責任」の権利行使の期間制限について、買主が「瑕疵を知った時から1年以内」に「瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償をする旨、損害額の算定の根拠を示し、担保責任を明確に問う意思を告げて」権利行使をすることが求められていました。また、不動産売買契約の買主の「瑕疵担保責任」に基づく損害賠償請求権は、建物引渡しから10年間の消滅時効にかかります。なお、改正民法施行日(2020年4月1日)より前に締結された売買契約には、改正前民法の規定が適用されますので注意してください。

4 契約不適合責任に関する特約

(1)

契約不適合責任は任意規定であり、当事者間の合意によって、期間や責任範囲を修正・免責する特約をすることができます。個人間の売買では、契約不適合責任の期間を3ヵ月以内とする特約を設けることが一般的です。

(2)

しかし、契約不適合責任の免責については、宅地建物取引業法や消費者契約法、住宅の品質確保に関する法律(品確法)等による制約があります。

宅地建物取引業法では、売主が宅地建物取引業者、買主が一般の方の場合には、契約不適合責任を全部免責する特約は無効であり、又、契約不適合責任の責任期間を「物件の引渡しの日から2年以上」とする特約を除き、買主に不利となる期間短縮の特約をすることも出来ません(宅建業法40条)。

消費者契約法では、売主が事業者、買主が消費者である場合には、契約不適合責任を全部免責する特約は無効となります(消費者契約法8条)。

品確法では、新築住宅の売主は、主要構造部分等について引渡しから10年間契約不適合責任を負う義務があり、これに反する買主に不利な特約は無効となります(品確法95条)。

5 本件の売買契約

 7年前に購入したあなたの住宅の売買契約には改正前民法が適用されるので、その住宅の欠陥が「隠れた瑕疵」に該当する場合には、「瑕疵担保責任」の問題となります。しかし、住宅引渡しから7年が経過しているので売買契約に「瑕疵担保責任」の免責や責任期間の制限の特約がある場合には、売主の「瑕疵担保責任」が既に消滅している可能性があります。その特約がない場合には、売主に対する損害賠償請求が可能かもしれません。この点を確認して下さい。

Q
建物状況調査(インスペクション)

中古住宅の購入を検討していますが、老朽化により様々な不具合がないか心配です。中古住宅の売買に際し、建物状況調査(インスペクション)の制度があると聞きましたが、どのような制度でしょうか。

A

1 中古住宅と「契約不適合責任」

 築年数の進んだ中古住宅では、老朽化により雨漏りが生ずる等の不具合が発生することがあります。売買契約締結時に、不具合が生じうる状態の建物であることが契約内容として合意され、それに応じた売買価格が設定されていた場合には、物件引渡し後に不具合が発見されたとしても、それは「契約不適合」に該当せず、売主の契約不適合責任の問題とはなりません。このように不具合の存否を事前に確認し、契約内容として合意することができれば、後のトラブルを防止することができます。

2 建物状況調査(インスペクション)制度

 しかし、築年数の進んだ中古建物では、劣化や不具合を事前に把握することは容易ではありません。このような中古建物は、建物に存在する隠れた劣化や不具合が不安材料となり売買促進の障害となっていました。こうした消費者の不安を解消するため、国交省は建物状況調査(インスペクション)制度を導入しました。
 建物状況調査(インスペクション)制度とは、国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が、既存住宅の基礎、外壁等の建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の有無を目視、計測等により調査するものです。
 建物状況調査制度は、目視・非破壊による検査であり、建物に存在する全ての劣化状態を把握するものではありませんが、建物の主要構造部分等の状況を把握することにより、その後の改修費用等を取引に反映しやすくすることができます。また、住宅瑕疵担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者の検査人が建物状況調査を実施し、建物状況調査の結果、劣化・不具合等が無いなど一定の条件を満たす場合には、既存住宅売買瑕疵保険に加入することができます。

3 宅建業法上の説明義務等

 改正宅建業法(2018年4月1日施行)は、宅地建物取引業者に対し建物状況調査(インスペクション)に関する以下の事項の説明を義務付けました。

媒介契約締結時
媒介契約時に建物状況調査(インスペクション)を実施する者のあっせんの有無、あっせんの要請があればあっせんを行う旨を記載した書面を交付して説明をし、あっせんを「無」とする場合にはその理由を記載する。

重要事項説明時
宅地建物取引士をして、建物状況調査(インスペクション)の結果の概要並びに建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存の状況について記載した書面を交付して説明をする。

売買契約締結時
当事者双方が行った建物の構造耐力上主要な部分についての確認事項を記載した書面(確認書)を当事者に交付しなければならない。

 なお、売買契約締結前に建物状況調査を行う場合には、売主である建物所有者の承諾と共に、建物状況調査費用を誰がどの様に負担するかの協議が必要になります。