不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
土砂災害警戒区域等にある土地の購入
【Q】
私は、別荘を建設するための敷地として、見晴らしの良い傾斜地にある一画の土地(以下「本件土地」)の購入を検討しています。本件土地の周辺一帯は、眺望は素晴らしいのですが、仲介業者Aから「土砂災害警戒区域等の指定のための基礎調査の対象地になっている」と説明を受けました。
今後、基礎調査の結果、本件土地が土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域に指定された場合、別荘の建築にどのような影響がでるでしょうか。今後、本件土地を購入する上で、どのような点に注意すべきでしょうか。
【回答】
本件土地が土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域(以下「土砂災害警戒区域等」)に指定された場合、下記1(2)のような規制が課せられます。特に土砂災害特別警戒区域に指定された土地には、特定開発行為に対する許可制、建築物の構造規制、建築物の移転勧告等の規制がされるため、あなたの計画通りの別荘を建築することができない場合もあります。基礎調査の結果を受け、今後、本件土地が土砂災害警戒区域等に指定されるのかを注視し、本件土地で計画している別荘が建築可能かどうかを事前に確認する必要があるでしょう。
【解説】
1.土砂災害防止法
(1)土砂災害防止法
近年、記録的な集中豪雨による大規模な土砂災害が日本各地で発生しており、土砂災害を最小限に抑えることが各自治体の緊急の課題となっています。平成13年4月1日に施行された土砂災害防止法(「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」)は、土砂災害から国民の生命・身体を守るため、土砂災害(急傾斜地の崩壊、土石流、地すべり)のおそれのある区域(土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域)を指定し、下記(2)の通り、区域に応じて、危険の周知、警戒避難体制の整備、特定開発行為の制限、建築物の構造規制、既存住宅の移転促進等の対策を義務付けています。
(2)土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域
ア)土砂災害警戒区域は、土砂災害が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域であり、危険を周知し早期避難を実現するため、①市町村地域防災計画への記載、②要配慮者利用施設における警戒避難体制整備、③土砂災害ハザードマップによる周知の徹底等が自治体等に義務づけられます。
イ)土砂災害特別警戒区域は、土砂災害警戒区域のうち、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域であり、①特定開発行為(他人のための住宅・宅地分譲・社会福祉施設等)に対する許可制、②居室を有する建築物の構造の規制、③建築物の移転等の勧告及び支援措置等が義務付けられます。
(3)基礎調査から指定まで
これらの土砂災害警戒区域等の指定は、各都道府県が行う基礎調査(土砂災害のおそれのある地域について地形・地質・対策施設の整備状況・利用状況等を調査)の結果に基づき、関係市町村の意見を踏まえ、都道府県知事が指定します。しかし、基礎調査の対象地は広範囲に及ぶため、多くの自治体では、基礎調査及び区域の指定が追い付いていないのが現状です。
これらの基礎調査の結果は、各市町村へ通知するとともに、これを公表することが義務付けられています。そのため、土砂災害警戒区域等の指定前においても、自治体のホームページ等で基礎調査の結果を知ることができます。
(4)重要事項説明
前記(2)の通り、土砂災害警戒区域に指定された土地は、他の土地よりも土砂災害発生のリスクが高いと認められるエリアであり、さらに特別警戒区域の指定を受けたエリアでは特定開発行為の許可制等の規制が義務付けられます。このような土砂災害発生のリスクの存在や特定開発行為等への規制は、当該土地を購入するか否かの判断に重大な影響を与える事項に該当するため、宅建業法では、宅建業者に対して、土砂災害警戒区域等の指定の有無及び規制内容について、売買契約の重要事項として説明することを義務付けています(宅建業法35条1項2号)。
また、前記(3)の通り、土砂災害警戒区域等の指定前においても、公表された基礎調査の結果において、土砂災害警戒区域等に相当するエリアに対象物件が含まれる場合には、その旨を重要事項として説明することが必要とされています。
また、本件ケースのように、対象物件が基礎調査の対象となっていることを宅建業者が認識していた場合には、対象物件が基礎調査の対象地に含まれており、基礎調査の結果によっては警戒区域等の指定を受ける可能性がある旨を説明することも必要と考えられます。
(5)本件土地の場合
仲介業者Aの説明によれば、本件土地は基礎調査の対象地となっているため、今後、土砂災害警戒区域等の指定がされる可能性があります。前記の通り、本件土地が土砂災害警戒区域等に指定された場合には、土砂災害発生のリスクが高い区域であること、また特別警戒区域の指定を受けた場合には特定開発行為の許可制等の規制が及ぶ可能性があることを前提として、別荘の建築計画が実現可能であるのかを検討する必要があります。
2.まとめ
土砂災害警戒区域等の指定のための基礎調査は、おおむね5年ごとに行われるとされています。したがって、現時点において土砂災害警戒区域等に指定されていないエリアでも、気象条件や地形・利用状況等によって、警戒区域等の指定を受ける可能性はあります。自己の生命・財産を守るために、常に最新の情報を入手し、想定外の自然災害に備えることが必要です。