不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
建築条件付土地売買のトラブル
Q
私は、気に入ったデザインの戸建住宅を建てようと土地を探していたところ、不動産業者Aが販売する土地がありました。Aの説明では、私が土地を購入する場合、3ヶ月以内にAの指定する建設業者Bに戸建住宅の建築を発注する必要があるとのことで、複数の戸建住宅の設計プランを見せてくれました。私は、この立地が気に入り、Aとの土地の売買契約を締結し手付金を支払いました。
その後、Bと設計プランの協議をしていますが、予算内で私の希望するデザインを実現することは難しいようです。
①この場合、戸建住宅の発注を他の業者に依頼することができるでしょうか?
②私は、Bに戸建住宅の発注をした後に、設計プランが気に入らないことを理由に発注を取消すことができるでしょうか?
③Bとの設計プランの協議中に、他の良い土地が見つかった場合、私は、Aとの土地売買契約を止めることができるでしょうか?
④この契約と建売住宅の売買との違いは何ですか?
A
①Aとの土地売買契約は、3ヶ月以内にBに戸建住宅の建築を発注することを条件とする建築条件付土地売買契約です。あなたは、B以外の他の業者に建築を発注することができません。もし、他の業者に発注した場合、Aは、土地売買契約を解除するでしょう。
②設計プランの不満を理由に発注を取消すことは、あなたの自己都合による建築請負契約の中途解除にあたります。自己都合による建築請負契約の中途解除は可能ですが、Bに損害を賠償する必要があります(民法641条)。その場合も、Aは、土地の売買契約を解除するでしょう。
③他の良い土地が見つかったことを理由として土地売買契約を解消することは、あなたの自己都合による売買契約の解除です。あなたは、手付解除(手付金を放棄する解除)(民法557条1項)を行なうか、又は、Aと合意解除をする必要があります。
④建売住宅の売買は、売主が建築した戸建住宅とその敷地の双方を目的物とする売買契約です。この土地の売買のように、戸建住宅の建築請負は予定されません。
解説
1.建築条件付土地売買契約
(1)建築条件付土地売買契約は、買主が、指定期間内に、土地の売主又は売主の指定する業者との間で建物の建築請負契約を行なう条件が付いた土地の売買契約です。この条件には、建築請負契約の成立により売買契約の効力が発生する停止条件と、建築請負契約の不成立により売買契約を解除できる解除条件があります。
なお、買主は、この建築請負契約を強要されませんが、建築請負契約が不成立の場合、Aあるいはあなたは、土地売買契約を解除できます。この土地の契約は、建築請負契約と一体化しているのです。
(2)本件の契約も、あなたが、3か月以内に、Bと建築請負を行なう条件の土地の売買契約ですから建築条件付土地売買契約に該当します。従って、あなたは、B以外の他の業者に建築請負を発注することはできません。
もし、他の業者に発注した場合、Aは、この土地売買契約を解除するでしょう。
(3)Bとの建築請負の協議は、Aが指定した期間内で行う必要があります。
この期間は、あなたとBが戸建住宅の設計デザインや建築予算等の協議を行なう期間であり、土地売買契約の締結後、相応の期間を置くべきです。本件の3か月程度としているのが一般的です。又、戸建住宅の設計デザインや建築予算等は、予め提示された複数の設計プランから選択することもできますが、あなたとBとで自由に決めることができます。
しかし、この指定期間内に協議が成立しない場合、請負契約の不成立となります。その結果、Aあるいはあなたは、この土地の売買契約を解除することができます。
もちろん、Aとの間で、この指定期間の延長を合意する場合があります。あなたは、延期された期間内で、Bとの協議を継続することができます。
(4)建築請負契約の締結後に、あなたが設計プランの不満を理由に請負契約を解消することは、前記(3)の指定期間内に協議が成立しない場合と同視されるので、Aは、土地売買契約を解除するでしょう。
(5)なお、請負契約の不成立による建築条件付土地売買契約の解除の場合、Aは、あなたに対し手付金や受領済の売買代金を返還します。この解除は、相手方の債務不履行を理由とする法定解除(民法541条1項)でなく、建築条件付土地売買契約の中で規定した無条件の合意解除だからです(民法540条1項)。
(6)しかし、あなたの他の良い土地を見つけたことを理由とする解除は、法定解除や無条件の合意解除でもなく、単なる、あなたの自己都合による解除に過ぎません。
あなたが土地売買を解除するには、手付解除(民法557条1項)か、Aとの合意解除が必要です。
なお、Aから土地の引渡等を受けている(履行に着手)場合には手付解除ができません。又、Aは、合意解除に応じる義務がなく、あなたの債務不履行を理由に損害賠償の請求ができます。
従って、Aとの合意解除には、相応の違約金の支払いが必要となるでしょう。いずれにして、手付金等の返還を求めることはできません。
2.建売住宅の売買契約
(1)建売住宅の売買契約は、売主業者が、自らの設計デザインで建築した戸建住宅とその敷地(土地)を売買する契約です。売主業者が自ら戸建住宅を建築する点は、建築条件付土地売買契約との大きな違いです。
(2)建売住宅の売買には、戸建住宅が未完成な状態での売買契約があります。
この契約も、完成後の戸建住宅の売買ですから、売主業者は、売買契約締結後に戸建住宅を完成し完成後の戸建住宅を買主に引渡します。
なお、売主業者は、未完成な状態の戸建住宅の売買契約を行なう場合、各種の法的制約を受けます。この戸建住宅の販売広告や売買契約の締結は、戸建住宅の建築確認取得後にしなければなりません(宅建業法33条、36条)。売買契約の手付金が売買代金の5%(又は1000万円)を超える場合には、保全措置が必要となります(同法41条、41条の2)。
又、売買契約締結前に行う重要事項の説明では、戸建住宅の完成後の状態の説明が必要となります(同法35条)。この説明により、買主は、完成後の戸建住宅を前提とする売買契約を行うことができるのです。
(3)なお、近時の建売住宅の売買では、売主業者が、買主に対し、複数の販売する戸建住宅の設計プランを提供して選択させ、又は、買主の希望に応じて一部の修正を行って建築し販売する方法も見られます。この場合、戸建住宅の建築確認の変更が必要となる場合もあります。
この販売方法も、売主業者が建築した戸建住宅の売買契約ですが、買主が気に入った戸建住宅を取得できる点では、建築条件付土地売買契約に類似します。
まとめ
気に入った土地に好きなデザインの戸建住宅を建築するには、本件のような気に入った土地の建築条件付土地売買契約や、気に入った敷地(土地)の建売住宅の売買契約でも実現できます。
好きなデザインの戸建住宅の建築は、土地の建築条件付土地売買契約ではその指定建設業者との綿密な協議合意により、又、戸建住宅の売買では、販売される戸建住宅のデザインなどを事前に確認し、修正が可能であれば修正を求めることで実現できます。
このように見てくると、あなたの希望を実現するには、どちらの方法においても、気に入った土地か否かを慎重に検討し、戸建住宅の設計やデザイン、並びに建築予算などを協議することが大切です。