不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
目的物に関する重要な事項(建物の法的規制 その1)
Q
Q1:私は、中古の戸建住宅を購入し、将来、子ども家族と同居できる二世帯住宅に改修(改築)することを考えています。私がこの戸建住宅の購入をする場合、どのようなことに注意すべきでしょうか?
Q2:又、仲介業者は、私に対し、どのような助力をしてくれるのですか?簡潔に教えてください。
A(建物の法的規制 その1)
1 回 答
「①あなたが、将来、二世帯住宅に改修(改築)する目的で中古の戸建住宅を購入する場合には、現状の戸建住宅が適法な建物であり、かつ、あなたが予定する規模の建物の改修(改築)が適法にできるかの確認をすることが必要です。
②これらの確認をするには、専門的な知識と経験に基づく各種の調査が必要ですので、専門家の仲介業者の協力を求めるべきでしょう。
③一方、協力を求められた仲介業者は、現状の戸建住宅の適法性の調査確認を行い、又、あなたから改修(改築)計画の概要を聞き取り、その計画に基づく建物の建築(改築)が可能か否かの調査・判断を行い、それらを「重要事項説明書」に記載して、あなたに判りやすく説明する媒介契約上の義務を負担します。」
2 戸建住宅等の適法性
(1)建物の適法性
①適法な建物とは、特定行政庁が、その「敷地」や「建物」が都市計画法や建築基準法等で定める法的規制に適したものと確認(「建築確認」)し、又、建物の建築が「建築確認」に従って適性に行われことの検査を受けた建物です。適法な建物には「建築確認済証」や「検査済証」が交付されます。(なお、古い住宅では、「検査済証」がないものもみられますので、対応を仲介業者と協議して下さい)
②「建築確認」を得ずに建築を強行した場合、その建物は違法な建物となり建物の除去(解体)等を命ぜられることになります。又、違法な建物は、その後の「改築」もできません。
③ところで、適法な建物でも、その後の法規制の変化に伴い、現在の法規制に適さない場合もあります(「既存不適格建築物」)。この場合、建物の除去(解体)を命じられることなく使用が継続できますが、現状と同じ建物の再築はできず現在の規制に適した建物の建築を行う必要があります。
④あなたは、先ず、この戸建住宅の「建築確認済証」や「検査済証」を確認し、この戸建住宅が適法な建物であることを確認し、次に、この敷地上の建築規制を調査して予定する規模の二世帯住宅の建築が可能かの確認を行って下さい。
(2)建築規制の概要
①建物を建築するには、その「敷地」が、建築を禁止する「区域」や「地域」に該当せず、かつ、「道路」に2m以上接していることが必要です(接道義務)。更に、建築する「建物」の用途、形態(規模、高さ、日影等)などが、その「敷地」の法的規制に適することが必要です。
②敷地の法的規制
ⅰ都市計画法は、「都市計画区域」を「市街化区域」「市街化調整区域」「非線引区域」等、「都市計画区域外」を「準都市計画区域」と「その他」に区分し、市街化の促進と抑制を行っています。「市街化調整区域」では、原則として建物の建築を禁止しています。又、建築基準法も「災害危険区域」(条例が指定)での建築を禁止しています。
ⅱ又、「市街化区域」内の「地域」や「地区」に「地域地区」(「用途地域」など26種類)を定めて、各地域の建物の用途、形態(規模、高さ、日影等)などを規制しています。なお、「用途地域」は、住居系の「第1種低層住居専用地域」「第2種低層住居専用地域」「第1種中高層住居専用地域」「第2種中高層住居専用地域」「第1種住居地域」「第2種住居地域」「準住居地域」、商業系の「近隣商業地域」「商業地域」、工業系の「準工業地域」「工業地域」「工業専用地域」に区分し、各「地域」での建物の規制を行っています。
ⅲ宅地造成等規制法
「宅地造成規制区域」(市街地などで宅地造成に伴い災害が生じるおそれが大きい土地の区域)での宅地造成工事(2m超の切土、1m超の盛土等)は、知事等の許可が必要であり、「造成宅地防災区域」(一団の造成宅地で宅地造成に伴う災害が相当数の居住者に及ぶおそれが大きい区域)の宅地所有者は、災害防止の為の擁壁などの設置義務を負担します。
ⅳ土砂災害防止法
「土砂災害警戒区域」(土砂災害のおそれがある区域)では、自治体が警戒避難体制を整備するとともに、「土砂災害特別警戒区域」(土砂災害で建築物に損壊が生じ、住民等の生命、身体に著しい危害が生じるおそれがある区域)では、特定の開発行為の許可制や建築物の構造規制(構造耐力の基準が厳しくなる)が行われます。
ⅴ津波防災地域づくり法
「津波災害警戒区域」(津波発生の際、住民等の生命・身体に危害が生ずるおそれのある区域)では、指定避難施設が設置され、「津波災害特別警戒区域」(津波発生の際、住民等の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれのある区域)での一定の開発行為や一定の建築物の建築や用途の規制があります。
ⅵ仲介業者は、これら一連の敷地の法的規制を「重要事項説明書」に明記しあなたに説明を行う義務がありますので確認して下さい。
③接道義務
ⅰ都市計画区域(準都市計画区域)では、建築物の敷地は、原則として「道路」に2m以上接することが必要です(建築基準法43条)。すなわち、「道路」に2m以上接した状態の「敷地」でないと建物の建築ができません。
ⅱこの「道路」は、原則として、幅員が4m(6m)以上であることが必要です(同法42条1項)。
ⅲなお、幅員が4m(6m)未満の道路でも、一定の要件を充たし特定行政庁が指定したものは、4m(6m)以上の「道路」とみなします(同法42条2項)。この場合には、原則、道路の中心線から2m(3m)後退した位置が、敷地と道路の境界線とみなされます。その結果、建物は、その境界線まで後退した位置に建築する必要がありまし、又、建築の際の敷地面積も、その境界線からの面積となります。
④建物の用途、形態の規制
ⅰ建物の用途、形態(建ぺい率、容積率、高さ、斜線、日影等)などは、その「敷地」の「用途地域」等により定まります。
ⅱ一方、この形態は、その「敷地」の前面「道路」の幅員等や、自治体の条例や建築指導等によって強化や緩和がされる場合もあります。
⑤建築確認の機関
ⅰ建築確認を行う機関は、特定行政庁と呼ばれる「建築主事」ですが、平成11年5月1日から、建築確認の迅速化と違反建築物に対する行政対応の強化を目的に国土交通大臣や知事から指定を受けた民間の「指定確認検査機関」も行うことになりました。
ⅱその結果、「建築確認」の表記は、「建築主事」の場合、年度と番号の記載ですが、「指定確認検査機関」の場合には、固有の記号、西暦、申請番号、区分(確認 変更)などの記載です。
ⅲ従って、あなたは、「建築確認」の表記から、「建築確認の機関」を知ることもできます。
(3)戸建住宅等の適法性の判断
①この戸建住宅の購入を決断するには、現状の戸建住宅、及び、あなたが改築を予定する二世帯住宅が前記(2)建築規制の概要に適することが必要です。この判断には、都市計画法、建築基準法等の広範囲に亘る専門的な知識や経験が必要です。しかし、あなたを含む一般の購入者には、必ずしも知識などがありませんので、仲介業者の調査・説明を聞いて判断をする必要があります。
②なお、その場合でも、あなたは、仲介業者が、前記の建築規制の概要に関する調査・説明が必要十分であるかを検証することが大切です。
3 仲介業者の「建築規制の概要」に関する調査・説明義務
①瑕疵担保責任と媒介責任
あなたや一般の購入者が、「建築規制の概要」の判断を誤り、この戸建住宅の価値を誤解し損害が生じた場合には、戸建住宅に隠れた瑕疵が存在したとして、売主と買主間に瑕疵担保責任の問題が、又、仲介業者には媒介責任の問題が生じます。
②それを防止する為に、仲介業者は、媒介契約上、及び、宅建業法上の義務として、この戸建住宅や改築を予定する二世帯住宅の適法性の有無の調査確認を適正に行い、かつ、「重要事項説明書」に「建築規制の概要」に関する事項を詳細に記載して説明を行う責任を負担します。
ⅰ「都市計画法、建築基準法等の法令に基づく制限の概要」欄
「敷地の法的規制」の確認の目的で、重要事項説明書の「都市計画法、建築基準法」の欄には、その敷地の区域、用途地域、その他の地域・地区・街区、及び、その規制内容を記載します。
ⅱ「建築面積や延べ面積の限度」の欄
「建物の用途、形態の規制」の確認の目的で、重要事項説明書の「建築基準法」の欄に、建築面積の限度(建ぺい率)、延べ面積の限度(容積率)、その他の制限に関する事項を記載します。
ⅲ「敷地と道路の関係、私道の変更や廃止、その他の制限」の欄
「接道義務」等に関する確認の目的で、「建築基準法」の欄に敷地等と道路との関係、私道の変更又は廃止の制限等の事項を記載します。
ⅳ「その他の法令に基づく制限」欄
「建築規制の概要」に関する、「その他の法令、条例、行政指導」等を調査し記載することで、規制の広範囲な確認と説明をすることができます。
③この瑕疵担保責任は、仲介業者に媒介契約上の過失がある場合、あなたや一般の購入者に生じた損害を、「建築規制の概要」の知識を持っていない一般の売主に負担させることになる重大な事態です。仲介業者は、詳細な調査と図面や様々な資料等を用いて、正しく、判りやすい説明を心掛ける必要があります。