不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
代理人による不動産契約の注意点
【Q】
私は、売主Aさんの土地を購入する予定ですが、Aさんが高齢とのことで、息子Bさんが代理人となって土地の売買契約をすることになりました。代理人による売買契約では、どのような点に注意すべきでしょうか。
【回答】
あなたは、売主Aさんから息子Bさんに付与された代理権の性質・範囲を委任状等により確認の上、可能な限り、事前に売主Aさんと面談を行う等して、代理権の有効性を確認の上で売買契約を締結する必要があります。
1 代理制度
売買を始め各種の契約締結の場面では、本人に代わって、代理人が契約締結行為を行う代理制度が利用されることがあります。
代理制度は、代理人が、契約の当事者本人から付与された代理権限に基づき、法律行為(契約)の効果を本人に生じさせる目的で、本人に代わり契約締結の意思表示を行います。
代理人による契約が有効に成立するためには、①有効な代理権限の授与、②代理人が本人のために代理行為を行うことを示す「売主Aの代理人B」との顕名を行い、③代理人Bが契約書に署名(記名)捺印を行うこと、が必要となります。
代理人による法律行為を行う場合、前記①~③の要件のうち、特に①代理人に授与された代理権の有効性、性質、範囲等を慎重に確認する必要があります。
なぜなら、代理権が無効である場合や代理権の範囲を超える契約である場合、代理人による契約締結の効果を、原則、本人に帰属させることができないからです。なお、有効な代理権が存在しなかった場合でも、状況如何により(代理権授与の表示の行為、権限外の行為、代理権消滅後の行為)、契約の相手方が有効な代理権が存在すると過失なく信頼した場合には契約が有効となる場合があります(表見代理)。
2 任意代理と法定代理
代理制度には、本人の意思により代理権を授与する任意代理と、法律上の要件に基づき代理権が付与される法定代理の2種類があります。
任意代理では、本人が遠隔地にいる等の理由により、本人自らが法律行為を行うことが難しい場合に、本人の意思によって代理人に任意代理権が付与されます。
一方、法定代理では、未成年者や成年被後見人等の制限行為能力者を保護する趣旨から、本人の意思にかかわらず、親権者、未成年後見人、成年後見人等に法定代理権が付与されます。
(1)未成年の法律行為
未成年者(18歳未満)は、未だ判断能力が不十分な面があるため、単独で法律行為を行うことは原則できません。(ただし、単に権利を得る・義務を免れる行為等、未成年者が単独で法律行為を行うことが例外的に認められている場合もあります。)
そのため、未成年者が法律行為を行う場合には、法定代理人の同意を得て行う、若しくは、法定代理人である親権者や未成年後見人による代理行為を通じて行う必要があります。なお、令和4年4月施行の民法改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
(2)成年被後見人等
成年後見制度では、認知症、知的障害、精神障害等により判断能力が十分でない者の保護者として、裁判所の審判により、判断能力の程度によって、成年後見人、保佐人、補助人が選定され、成年後見人らに代理権や同意権等が付与されます。
ア.成年後見人
成年後見人は、判断能力を欠く常況にある成年被後見人の保護者として、成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為につき法定代理権が付与されます。
但し、成年被後見人の住居となっている不動産の売却等の処分行為を行う場合には、家庭裁判所の許可が必要となります。また、成年後見人と成年被後見人が利益相反関係にある場合には、特別代理人の選任が必要となります。
イ.保佐人
保佐人は、判断能力が著しく不十分な者の保護者として、被保佐人の重要な財産行為について同意権や取消権等を有し、また、本人の同意のもと、審判により、特定の法律行為について代理権が与えられます。
ウ.補助人
補助人は、判断能力が不十分な者の保護者として、被補助人の特定の法律行為について、本人の同意のもと、審判により、同意権や代理権が付与されます。
3 本件の場合
本件の場合、高齢の売主Aさんに代わり、その息子Bさんが代理人となって、売買契約を行うようですが、この息子Bさんに授与された代理権の内容(任意代理権なのか、法定代理権であるのか、代理権の範囲)をまず確認する必要があります。
息子Bさんに授与された代理権が任意代理権である場合には、委任状や印鑑証明書を確認の上、代理権の真否を確認する必要があるでしょう。また、高齢のAさんの意思能力がある状態で代理権が授与されたものかを確認をする必要があります。Aさんの意思能力がない状態での代理権授与行為は無効であり、息子Bさんは有効な代理権を有しておらず、これに基づく息子Bさんとあなたの売買契約も無効となります。
また、息子Bさんの代理権が成年後見制度に基づく成年後見人としての法定代理権である場合には、これらの登記事項証明書を確認の上、本件売買契約が代理権の範囲に基づく行為であるかを確認する必要があります。また、本物件が売主Aさんの住居となっている不動産である場合には、家庭裁判所の許可を得ているか否かも確認する必要があります。さらに、本件売買契約が、A・B間の利益相反に該当しないかについても確認する必要があるでしょう。
4 まとめ
取引社会では、個人・法人に限らず、代理人を通じた契約行為はよく行われています。しかし、代理権の真否、代理意思の有無等、代理権の有効性を確認することは容易なことではありません。一度、代理権自体の有効性に問題が生じると、売買契約の有効性にも直接的な影響があるため、可能なかぎり、事前に、本人との面談等を試みて、代理権の有効性を確認の上、契約締結行為を行う必要があります。