不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
所有者不明共有地の売却に関するトラブル(民法・不動産登記法改正)
【Q】
約10年前に父Aが他界し、亡父Aが知人Bと各2分の1の持分で共有していた土地の持分権を私が単独相続しました。持分を相続した共有地を売却したいと考えていますが、共有者であるBとは、面識もなく、所在不明で連絡がとれません。
(1)共有地の共有者Bが所在不明である場合、当該共有地を売却することはできるでしょうか。
(2)また、近年、共有に関する規定の改正があったと聞きました。どのような改正内容でしょうか。
【回答】
(1)現行民法において、共有者の中に所在等不明共有者がいる所有者不明共有地を売却するには、家庭裁判所へ不在者財産管理人を選任の申立てを行い、選任された不在者財産管理人の同意のもと、家庭裁判所の許可を得て、所在等不明共有地の売却を行うことになります。
(2)一方、令和3年4月21日に成立した民法等の一部を改正する法律では、所在等不明共有者の同意がない場合においても、裁判によって、共有地への変更・管理を認める制度、所在等不明共有者の持分を他の共有者に取得させる制度、所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡する権限を他の共有者に付与する制度等が設けられ、共有地の利用・管理の円滑化が図られました。本件設例においても、改正法施行後において、これらの制度を利用して本件共有地を売却できる可能性があります。
【解説】
1 所有者不明土地
近年、相続登記がされないまま長期間放置されることを原因として、不動産登記簿によっても所有者が直ちに判明せず、又、判明しても連絡がつかない所有者不明土地が増加し、円滑な土地の利用・管理に支障が生じることが問題とされてきました。この所有者不明土地問題への対策の一つとして、平成30年6月6日「所有者不明土地の利用の円滑化等の特別措置法」(令和元年6月1日全面施行)が成立し、公共的目的における所有者不明土地の収用や利用権の設定について定められたことは2020年5月号のコラムでご紹介した通りです。この所有者不明土地が共有地である場合には、共有地の変更・管理を行うために必要となる所在等不明共有者の同意を巡り、問題が顕在化します。
2 現行法における所有者不明共有地の売却
現行民法では、共有物の管理行為には各共有者の持分価格の過半数の同意が必要となり、また、共有物の変更行為には共有者全員同意が必要となります。共有地の売却は変更行為に該当し、共有者全員の同意が必要となりますが、共有者の一部に所在等不明共有者(共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない)がいる場合には、所在等不明共有者の同意が得られない為、売却が困難となります。
このような場合、現行民法においては、家庭裁判所への申立てにより不在者管理人を選任し、不在者財産管理人のもと、家庭裁判所の許可を得て共有地売却する方法、又は、共有物分割訴訟を提起し、分割後の土地を売却するという方法が考えられますが、このような手続きを経るには、時間と労力を要し、迅速な共有地の利用・管理に支障が生じていました。
3 改正民法における共有物の管理・変更
今回の改正法では、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、所在等不明共有者の同意なしに、裁判によって、共有地の管理・変更を認める制度や、所在等不明共有者の持分を他の共有者へ取得させる制度や、所在等不明共有者の持分を第三者へ譲渡する権限を他の共有者に付与する制度が設けられました。これにより、円滑な共有地の管理・利用が実現されます。これらの改正法は、公布の日(令和3年4月28日)から2年以内に施行されます(周知の必要な一定の規定については、3年ないし5年以内に施行)。
(1)共有物の管理・変更
ア、共有物の変更
共有物の変更行為に共有者全員の同意が必要となることは現行民法と同様ですが、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、裁判所は、共有者の請求により、所在等不明共有者以外の同意を得て変更(持分の譲渡等は除く)をすることができる旨の裁判をすることができます(改正民法251条第2項)
イ、共有物の管理
共有物の管理行為に各共有者の持分価格の過半数の同意が必要となることは、現行民法と同様ですが、共有者の中に所在等不明共有者及び催告によっても管理行為への賛否を明らかにしない共有者(所在等不明共有者・賛否不明共有者)がいる場合、裁判所は、共有者の請求により、所在等不明共有者・賛否不明共有者以外の共有者の持分価格の過半数で決する裁判をすることができます(改正民法252条第4項)。
(2)所在等不明共有者の持分取得制度
改正民法では、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができます(改正民法262条の2第1項)。裁判所は、持分取得許可決定に際しては、申立共有者に対して供託を命じます。また、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合には、相続開始から10年を経過する前までは、所在等不明共有者の持分取得決定をすることはできません。
(3)所在等不明共有者の持分の第三者への譲渡権限付与制度
改正民法では、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、裁判所は、共有者の請求により、所在等不明共有者以外の共有者全員が自己の持分を第三者へ譲渡することを停止条件として、その共有者に所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡する権限を付与する裁判をすることができることができます(改正民法262条の3第1項)。
この裁判により、共有地が第三者へ売却された場合には、所在等不明共有者は、譲渡した共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た金額の支払いを請求することができます。また、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合には、相続開始から10年を経過する前までは、裁判所は、持分の譲渡決定をすることはできません。
(4)本件設例
本件設例においても、改正民法施行後において、所在等不明共有者の持分取得制度や所在等不明共有者の持分譲渡制度を利用して、本件共有地全体を売却することができる可能性があります。
4 まとめ
今回の改正民法では、共有の規定の見直しの他、相隣関係や相続財産の管理制度、遺産分割に関する規定の見直しも行われています。また、関連する不動産登記法の改正では、相続登記の義務化が決定しています。相続した土地や共有地の管理・利用に際しては、改正内容を注視する必要があります。