不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
不動産の買換えに関するトラブル
【Q】
私は、現在、約10年前に購入したマンションで生活していますが、手狭になってきたため、現在のマンションを売却し、売却代金を利用して新たにマンションを購入したいと考えて、媒介業者Aに対し「不動産の買換え」の仲介を依頼しました。媒介業者Aからは、私が希望する購入予定のマンションは、人気物件のため早々に売買契約を結び手付金を支払う必要があり、他方、私のマンションの売却は、買主がローン付売買を希望しているとの説明を受けました。私は、その説明を了解しました。その結果、媒介業者Aの仲介により、先ず、私のマンションのローン付売買契約を締結し買主から手付金を受領しました。その後、私のマンションの売買代金を利用する予定で、購入予定のマンションの売買契約を締結し売主に手付金を支払いました。そして、私のマンションの売買代金の支払を待っていたところ、買主は、ローン不成立を理由に私のマンションの売買契約をローン解除してきました。そのため、私は、購入予定のマンションの代金の調達が不可能となりました。
(1)私は、私のマンションの売買契約がローン解除されたことを理由に、購入予定のマンションの売買契約を解除することができるでしょうか。
(2)購入予定のマンションの売買契約の解除に伴い私が損害を負担する場合、私は、その損害を私のマンション売買契約の買主に負担させることはできるでしょうか。
【回答】
(1)購入予定のマンションの売買契約に、あなたのマンションの売買契約の不成立を理由とする契約解除を認める特約(買換え特約条項)がある場合には、この特約に従い、あなたは、購入予定のマンションの売買契約を無条件で解除することができます。
しかし、このような買換え特約がない場合には、あなたは、無条件で解除することはできません。購入予定のマンションの売買契約の手付解除期限内(売主が履行に着手する前、又は、約定の手付解除期間)であれば、手付金を放棄して売買契約を解除することができますが、手付解除期限を過ぎている場合には、あなたから売買契約を解除することはできません。違約金を支払って合意解除する必要があります。
(2)上記(1)において、あなたが手付金の放棄、又は、違約金を支払った場合にも、あなたは、あなたのマンションの売買契約をローン解除した買主に対し、その手付金や違約金の負担を損害として請求することはできません。又、あなたのマンションの売買契約で受領していた手付金も返還しなければなりません。
【解説】
1 不動産の買換え
一般消費者にとって、不動産の価格は高額ですので、不動産を購入する場合に、購入代金をどのように調達するかの問題があります。購入代金の調達方法には、金融機関から融資を受ける方法(ローン方式)や、本事例のように、所有物件の売却代金を新たな物件の購入代金に充てる方法(買換え方式)などがあげられます。
ローン方式は、金融機関から融資の審査を受けて調達する方法ですので、融資の審査が通るまでは購入代金の調達が不確定であり、相応の金利負担を伴います。しかも、融資の審査が通らない場合、購入契約を無条件で解除できるローン解除の特約を行なう必要があります。他方、買換え方式は、所有物件の売却代金を利用する自己調達の方法であり、金利負担を軽減することができますが、一方で、所有物件の売買が解除され売却代金が予定どおり入金されない場合、購入物件の代金を支払うことができず、購入契約の債務不履行責任が生じます。従って、このような事態を回避する条項(買換え特約条項)を購入契約の中で合意する必要が生じます。
2 買換え特約条項
買換え方式における前記のリスクを回避するために、購入予定物件の売買契約に際しては、「所有物件の売買契約が解除された場合には、購入予定物件の売買契約を無条件で解除できる」との買換え特約条項を定めることが行われます。購入予定物件の売買契約に買換え特約条項があることで、万一、所有物件の売買契約が解除された場合でも、あなたは、手付解除をすることなく無条件で購入契約を解除することができます。
この買換え特約は、購入予定物件の売買契約の売主と買主間の合意により成立するものです。購入予定物件の売買契約に際し、あなたが、あなたのマンションの売買代金を利用する予定でいただけでは買換え特約は成立しません。上記のように「所有物件の売買契約が解除された場合に、購入予定物件の売買契約を無条件で解除できる」旨を売主と買主で確認合意し契約書の条項として明記することが大切です。
又、「所有物件の売買契約が解除された場合」とは、買換え特約の合意内容による違いがありますが、一般的には、あなたの意思に反して予定した代金の調達ができない場合を想定したものと考えられることから、所有物件の売買契約の買主が、ローン解除や手付解除を行なった場合、及び、買主の代金不払の債務不履行を理由に売主のあなたが所有物件の売買契約を解除した場合など、買主の事情による売買契約の解除の場合と思われます。あなたの自己都合による所有物件の売買契約の解除(手付倍返し解除)の場合には、買換え特約による解除ではなく手付放棄による解除(手付解除)をすべきでしょう。
更に、買換え特約による解除権行使の時期に制限を定める特約内容も考えられます。この定めた時期までに「所有物件の売買契約の解除」が生じない場合、買換え特約による解除ができなくなるとの内容です。購入予定物件の売買契約の確定を目指すものです。
3 まとめ
不動産の買換えにおいては、所有物件の売買契約を先行させる場合と購入予定物件の売買契約を先行させる場合がありますが、いずれの場合も、他方の売買契約の成否が、一方の売買契約の購入代金の支払い債務の債務不履行に直結するため、前記のような買換え特約条項が一般的に定められます。しかし、買換え特約に基づく解除は、双方の売買契約の締結が円滑に機能させる目的で行なわれるべきものであり、解除権行使の要件を売主、買主が相互に正しく確認し合うことが大切です。