不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
欠陥のある新築住宅の売主が倒産した場合のトラブル
【Q】
私は3年前(2018年)に売主A(宅建業者)から新築住宅を購入し、現在居住しています。約1か月前、1階の柱の一部が傾斜していることに気づきました。売主A(宅建業者)へ修補の連絡をしたところ、「瑕疵担保責任期間は引渡しから2年間であり、すでに3年が経過しているので、応じられない」といわれました。
(1)既に住宅の引渡しから3年を経過していますが、私は、売主A(宅建業者)に対して、柱の修補を請求することはできないのでしょうか。
(2)売主A(宅建業者)は経営状態が非常に厳しいと話を聞いたのですが、仮に売主Aが倒産した場合、私は柱の修補費用を自己負担しなければならないのでしょうか。
【回答】
(1)新築住宅の売主である宅建業者Aは、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」)に基づき、構造耐力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分の瑕疵について、引渡しから10年間、瑕疵担保責任を負う義務があります。したがって、本物件の柱の傾斜が構造耐力上主要な部分の「瑕疵」に該当する場合には、引渡しから10年間は売主Aに修補請求をすることができると考えられます。
(2)本件新築住宅の売買契約に際して、売主A(宅建業者)が瑕疵担保履行法に基づく資力確保措置(住宅瑕疵保険への加入又は供託)を講じている場合には、仮に売主Aが倒産した場合でも、当該措置に基づき、構造耐力上主要な部分等の瑕疵について修補費用の支払いを受けられる可能性があります。
また、売主Aは宅建業者ですので、下記の通り、営業保証金制度等によって修補費用の支払いを受けることも考えられます。
【解説】
1 瑕疵担保責任(契約不適合責任)と品確法
(1)売買契約において、引き渡された目的物に契約で想定していない「欠陥」がある場合には、売主は買主に対して一定の担保責任を負います。旧民法のもとでは、この担保責任を「瑕疵担保責任」と呼び、売買の目的物に「隠れた瑕疵」がある場合に売主は損害賠償や契約解除の責任を負うとされていました。この「瑕疵担保責任」は、2020年4月1日に施行された現行民法においては、「契約不適合責任」へと名称が変更され、売主は買主に対して、修補・代金減額・損害賠償請求・契約解除等の責任を負うとされています。本件設例は旧民法下の2018年に売買契約が締結されているため、「瑕疵担保責任」の有無を検討することになります。
(2)「瑕疵担保責任」(「契約不適合責任」も同様)は原則、任意規定とされており、当事者間で瑕疵担保責任を免除・制限する免責特約を設けることも可能です。一方で、瑕疵担保責任に関する特約は、下記の通り、品確法や宅建業法等の特別法によって一定の制限が設けられています。
品確法では、新築住宅(工事完了から1年以内のもの、かつ、人の居住の用に供したことのないもの)の売主等に対して、構造耐力上主要な部分及び雨水の侵入を防止する部分(以下「構造耐力上主要な部分等」)の瑕疵について、引渡しから10年間、瑕疵担保責任(修補請求を含む)を負う義務を課しており、これに反し買主に不利な特約は無効となります(品確法95条1項、2項)。
宅建業法では、売主が宅建業者、買主が非宅建業者の売買契約において、瑕疵担保責任期間を「引渡しから2年以上」とする特約を除いて、民法の規定より買主に不利となる特約を禁止しており、これに反する特約は無効となります(宅建業法40条1項、2項)。
消費者契約法では、売主が事業者(法人)、買主が消費者(個人)である売買契約においては、瑕疵担保責任を全部免責する特約は無効とされています(消費者契約法8条2項)。
(3)本件設例は、売主A(宅建業者・法人)とあなた(非宅建業者・個人)の間における新築住宅の売買契約であり、品確法、宅建業法及び消費者契約法の適用を受けます。
本件売買契約では、瑕疵担保責任を2年間と規定しているようですが、品確法に抵触する限度で当該条項は無効となり、売主Aは、構造耐力上主要な部分等の瑕疵について引渡しから10年間、構造耐力上主要な部分等以外の瑕疵については引渡しから2年間の瑕疵担保責任を負うことになります。
本件住宅で問題となっている柱は構造耐力上主要な部分であり、本件住宅の柱の傾斜は品確法の対象となる構造耐力上主要な部分の「瑕疵」に該当する可能性があります。
この場合には、売主Aに対して、修補請求をすることができると考えられます。
2 瑕疵担保履行法
前記の通り、品確法により、新築住宅の売主は構造耐力上主要な部分等について10年間の瑕疵担保責任が義務づけられ、一定の買主の保護が図られていますが、売主の倒産等により、現実の修補や賠償が実行されず、買主に多大な不利益が生じたことが問題となりました。そこで、新築住宅の買主・発注者を保護するため、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(以下「瑕疵担保履行法」)では、平成21年10月1日以降に新築住宅を引渡す宅建業者・建設業者に対して、瑕疵担保責任履行のための資力確保措置(住宅瑕疵保険への加入・供託)を講ずることが義務付けられました。これにより、新築住宅の買主等(宅建業者は除く)は、売主が倒産した場合でも、保険法人への直接請求、又は、供託金の還付請求によって、構造耐力上主要な部分等の「瑕疵」の修補費用や損害賠償を受けることが可能となります(なお、住宅瑕疵保険の場合には契約内容に応じた支払い限度額、供託の場合には供託金額が限度額となります)。
本件新築住宅売買契約においても、売主Aが瑕疵担保履行法に基づく資力確保措置を講じている場合には、当該措置に基づき、柱の修補費用の支払いを受けられる可能性があります。
3 営業保証金制度と弁済業務保証金制度
宅建業法では、宅建業者と宅地建物取引をした者が当該取引によって損害を被った場合に、その損害を補填するため、営業保証金制度及び弁済業務保証金制度を設けています。宅建業者は宅建業の営業を開始する前に営業保証金の供託又は弁済業務保証金分担金を納付することを義務付けられており、宅建業者との宅地建物取引によって損害を被った者は、これらの供託金の還付請求や弁済保証を求めることで、損害の弁済を受けることができます(弁済額には供託金額による上限があります)。
なお、宅建業法改正(平成29年4月1日施行)により、営業保証金等から「弁済を受けることができる者」から宅建業者が除外され、より一般消費者の保護が図られることになりました。
本件設例においても売主Aは宅建業者であるため、営業保証金制度等を利用して、柱の修補費用の弁済を受けることも方法の一つと考えられます。
4 まとめ
本件設例のように、売買で購入した住宅に欠陥が判明した場合、売買契約で定めた売主の瑕疵担保責任の内容(期間・対象部位・補修内容等)が重要であると同時に、売主の倒産等に備え、瑕疵担保責任履行のための資力確保措置が講じられているか否かも重要な意義をもちます。前記の通り、瑕疵担保履行法では新築住宅の売買の売主に資力確保措置を義務付けていますが、既存住宅の売買では、資力確保措置の義務付けはありません。既存住宅の売買において瑕疵担保責任が問題となる可能性がある場合には、建物状況調査や既存住宅向けの瑕疵担保保険を利用することも方法の一つかもしれません。