不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
土地区画整理事業の仮換地の売買のトラブル-賦課金
事例
私は、郊外の区画が整備された土地に自宅を建築する目的で、約5年前に売主業者Aから土地区画整理事業の施行区域の仮換地指定された土地を購入しました。その後、区画整理事業内の保留地の分譲が開始されたようですが、その販売状況が不振であることを理由として、最近になり、土地区画整理組合から100万円の賦課金徴収を受け、驚いています。本件土地の売買契約締結の際には、売主業者Aから、土地区画整理法に基づく清算金や賦課金の負担が課せられる可能性があるとの一般的な説明はありましたが、今回の賦課金徴収についての説明はありませんでした。
賦課金の負担は、本件土地の「瑕疵」であるとして、売主Aに対して瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることはできるでしょうか。
回答
本件売買契約を締結した時点で、今回の賦課金徴収が既に議決されており、賦課金が徴収される可能性が具体化していたにもかかわらず、売主業者Aがその説明をせずに売買契約が締結されていた場合には、買主に課された賦課金の納付義務は「隠れた瑕疵」に該当し、売主Aに対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を追求できると考えられます。
一方で、売買契約締結の段階では、いまだ、保留地の売却が開始されておらず、賦課金が徴収される可能性が何ら具体化していなかった場合には、「瑕疵」は存在せず、売主業者Aの瑕疵担保責任は否定される可能性が高いと考えられます。
解説
1.土地区画整理事業とは
(1)土地区画整理事業
土地区画整理事業とは、個人、土地区画整理組合、行政庁などが主体となり、道路や公園等の公共施設が未整備な区域において、これらの公共施設を整備し、これに沿って宅地を再配置することで、整備された新たな街並みを作る事業をいいます。
土地区画整理事業では、地権者から権利に応じて土地の提供を受けて(減歩)、道路や公園等の公共施設を配置し、残余の土地を宅地として区画を整理しながら、地権者に対して従前の所有地の位置、地積、土質、環境等に応じた土地を再配置(換地)します。
(2)仮換地の売買
では、このような土地区画整理事業において、仮換地の売買とはどのようなことをいうのでしょうか。
土地区画整理事業の施行区域内の地権者は、土地区画整理事業の工事が開始されると、従前の所有地を事実上使用することができなくなる不利益を受けるため、区画整理事業が長期間に及ぶ場合には、将来的に再配置(換地)予定の土地を仮に指定する仮換地の指定処分が行われます。仮換地指定の効力が発生すると、地権者は仮換地上に従前地と同様の使用収益権を取得しますが、それと当時に従前地の使用収益権が停止されます。その後、区画整理事業の工事が完了し、換地処分がされると、地権者は、換地指定を受けた土地(多くの場合、仮換地指定を受けていた土地)が従前地とみなされ、従前地に存在した権利は換地に移行します。これにより、従前地の地権者は、換地の所有権を取得し、同時に従前地の所有権を失う事になります。
このように、仮換地指定処分を受けた地権者は、仮換地の使用収益権を取得すると同時に、従前地の使用収益権を失いますが、従前地を売却処分する権利は失いません。したがって、仮換地指定を受けた地権者は、従前地の売買により、仮換地の使用収益権を売却することができます。仮換地の段階で従前地を購入した買主は、従前地の所有権とともに仮換地の使用収益権を取得し、後の換地処分によって、換地の所有権を取得することが出来ます。
(3)賦課金
土地区画整理組合が施行者である土地区画整理事業の事業資金は、地権者から権利に応じて提供を受けた土地の一部(保留地)の売却金のほか、土地区画整理組合の組合員から賦課徴収する賦課金を財源とします。この賦課金の納付義務は、賦課金徴収時の組合員が負います。区画整理事業施行区域内の地権者は、その意思に関わらず当然に土地区画整理組合の組合員となるため、組合員から従前地を購入した買主は、所有権取得と同時に組合員となり、賦課金の納付義務を負うことになります。
2.賦課金の負担は「隠れた瑕疵」に該当するか
では、従前地を購入後、土地区画整理組合から賦課金の納付義務が課された場合、賦課金の納付義務は、従前地の売買の「隠れた瑕疵」にあたるとして、売主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることができるでしょうか。
(1)瑕疵担保責任(契約不適合責任)
現行民法において、売買契約の目的物に「隠れた瑕疵」(売買契約締結時に予定された種類・品質、性能がない状態)が存在する場合には、買主は、売主に対し瑕疵担保責任に基づき損害賠償請求や契約解除(目的不達成の場合)を行うことができます(民法570条)。なお、この責任は、2020年4月1日からは契約不適合責任となります(改正民法415条、541条、562条、563条)。
(2)賦課金の負担は「隠れた瑕疵」か?
「賦課金の負担」が従前地の売買の「隠れた瑕疵」となるかに関する、判例(最高裁平成25年3月22日判決)は以下の点を理由として、「隠れた瑕疵」を否定するとともに、売主の瑕疵担保責任を否定する判断を示しています。
①賦課金を課される一般的・抽象的可能性の存在
土地区画整理法のもとでは土地区画整理組合はその事業に要する経費に充てるため、組合員に賦課金を課すことができるとされているため、区画整理事業区域内の土地の売買においては、買主は売買後に土地区画整理組合から賦課金を課される一般的・抽象的可能性は常に存在しているものである。
②賦課金を課される具体的可能性の欠如
売買契約締結当時は、いまだ保留地の分譲が開始されておらず、組合員へ賦課金を課すことが具体的に予定されておらず、その可能性は一般的・抽象的なものにとどまっており具体性を欠いていた。
③結論
売買契約締結当時に、賦課金が課せられる一般的可能性が存在していただけでは、本件土地が売買において予定されていた品質・性能を欠いていたということはできず、瑕疵担保責任における「隠れた瑕疵」があるということはできない。
(3)あなたの賦課金の納付義務は?
このような判例の立場を前提とすると、あなたの賦課金の納付義務は、売買契約締結時に、すでに賦課金徴収の決議が存在し、賦課金徴収の可能性が一般的・抽象的可能性の範囲を超え、現実的に具体化していたにもかかわらず、あなたにこの事実が明らかにされていなかった場合には、「隠れた瑕疵」に該当し、売主の瑕疵担保責任が肯定される可能性があると考えられます。
一方で、あなたの売買契約締結時に、未だ保留地の分譲すら開始されておらず、財源不足による賦課金徴収が必要となるか否かが不確定な段階であった場合には、組合員に賦課金が課される可能性は一般的・抽象的なものにとどまっており、従前地の売買の「隠れた瑕疵」には該当しないため、売主の瑕疵担保責任は否定される可能性が高いと考えられます。
3.まとめ
土地区画整理事業は、事業が完成すると整備された新たな街並みとなり、一定の人気を博していますが、極めて長期間に亘る土地の整備事業であるため、経済状況の変化に伴い事業資金が保留地の売却金だけでは財源不足となり、多くのケースで賦課金徴収がされています。したがって、土地区画整理事業施行区域内の土地を購入する際には、賦課金徴収の具体的可能性について十分に調査確認の上、その費用負担について、売主と明確に取り決めをする必要があります。