不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
土地の購入と生産緑地
【Q】
私は新居を建築するため土地を売主Aから購入する予定です。仲介業者Bによると、この土地は、生産緑地の指定を受け農地として使用されてきたとのことです。農地として使用されてきたこともあり、軟弱地盤の可能性があるとの話です。
(1)生産緑地とはどのような土地なのでしょうか。
(2)このような土地を購入する際、どのような点に注意すべきでしょうか。
【回答】
(1)生産緑地とは、市街化区域内の農地のうち、生産緑地地区の指定を受けた農地をいいます。生産緑地所有者は、営農義務や建築制限等の義務を課される一方で、税制上の優遇措置を受けることができます。
(2)このような土地を購入する際には、生産緑地解除及び農地転用の手続きが完了しているか確認する必要があるでしょう。また、地盤の軟弱性について、事前調査の上、責任割合を明確にした上で契約を締結する必要があります。
【解説】
1 生産緑地制度
(1)生産緑地とは
生産緑地法に基づき、市区町村長は、市街化区域内の農地のうち良好な生活環境の確保に効用があり、公共施設等の敷地として適している500㎡以上の農地がある区域を生産緑地地区に指定します。
(条例により300㎡まで引き下げ可能)。その指定を受けた地区の農地を生産緑地といいます。
生産緑地の所有者は、①生産緑地を農地として管理すべき営農義務、及び、②農業用施設以外の建築や宅地造成等を禁止する行為制限が課されます。一方で、生産緑地は、固定資産税が農地評価・農地課税となり、相続税納付猶予の適用対象となる等、他の市街化区域の土地よりも税負担が軽減されます。
このように生産緑地は、税制優遇措置を受ける一方で、営農義務や建築制限等の行為制限を課されるため、そのままでは宅地として使用することができません。この行為制限を解除するためには、生産緑地の指定日(都市計画告知日)から30年経過したとき、若しくは、主たる農業従事者の死亡等が生じた場合に、市区町村長に対して生産緑地の買取りを求める買取り申出手続きを行います。買取り申出を受けた市区町村長は、買取る旨、または、買取らない旨の通知をします。買取らない旨の通知をした場合には、他の農業従事希望者への斡旋に努めますが、買取り申出から3か月以内に所有権移転が行われないときには、生産緑地の行為制限が解除されます。これにより、生産緑地の所有者は、宅地として使用・売却することが可能となります。(別途、農地転用の手続きが必要となります。)一方で、生産緑地の行為制限が解除されると、固定資産税が宅地並み課税となり、相続税納付猶予の適用が受けられなくなります。
(2)特定生産緑地
生産緑地の多くは、令和4年以降に指定日から30年が経過し、行為制限解除のための買取り申出手続きが可能となります。多くの生産緑地が買取り申出によって、行為制限が解除され、税制優遇措置を受けられなくなることによる影響を抑えるため、平成29年生産緑地法改正によって特定生産緑地制度が創設されました。
市区町村長は、生産緑地の指定日から30年経過するまでに、生産緑地所有者の同意を得て、特定生産緑地として指定することができます。特定生産緑地の指定を受けた農地所有者は、営農義務・建築制限等の行為制限が引き続き課される一方で、税制優遇措置を維持することができ、買取り申出時期が10年延長されます。
(3)本件ケース
本件売買土地は、生産緑地の指定日から30年を経過した後、市区町村長への買取り申出の手続きを経て、行為制限が解除されたものと考えられます。あなたが当該土地を宅地として購入し、住宅を建築するためには、生産緑地の行為制限が解除され、農地の宅地転用の届け出がされていることが必要となります。これらの手続きが完了しているかについて仲介業者Bに確認する必要があります。仮に、手続きが進行中であり、手続きが完了していない場合には、生産緑地の行為制限の解除や農地転用の手続きが完了したことを停止条件とする契約条項を付けるべきでしょう。
2 軟弱地盤の可能性のある土地
宅地として売買される土地は、土地上に建物が建築されることが予定されているため、建物の存立を維持できる機能、崩落、陥没等のおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有していなければならない、と考えられています(仙台高裁平成12年10月25日)。
したがって、一般的に、宅地として売買される土地は、建物の存立を維持できる、安定した支持機能を有している事が契約上有すべき品質と考えられ、これを欠く地盤の軟弱性は契約内容に適合しないとして、売主は契約不適合責任を負う可能性があります。
もっとも、農地や地下埋設等の土地の履歴によっては、地盤が軟弱であることがあらかじめ想定される場合があります。事前に地盤調査を行い、地盤強度を明らかにし、地盤改良工事の要否、地盤改良費の負担等について明示した上、地盤の軟弱性を考慮した売買価格を設定した場合には、軟弱地盤であることが契約内容として合意されており、売主はこの点について契約不適合責任を負わないと考えられます。
したがって、本件ケースにおいても、事前に地盤調査の上で、地盤改良工事の要否、地盤改良工事費用の負担等について、双方の責任割合を明確にした上で売買契約を締結すべきでしょう。
3 まとめ
近年、生産緑地の行為制限解除後の土地の売買に伴う相談も増えています。前記の通り、宅地として使用するために必要な手続きを経た上で、地盤強度や土壌汚染等に配慮した契約内容とすべきでしょう。