不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
土地上空を高圧送電線の通過する土地の売買
【Q】
私は、新居の敷地として郊外にある宅地の購入を検討していますが、その土地の上空を含め近隣には高圧送電線が通っています。このような高圧送電線の通過する土地の購入に際して注意すべきことはあるでしょうか。
【回答】
土地の上空や近隣を高圧送電線が通過する場合、高圧送電線の電圧、電線と土地との距離によって、土地の利用に一定の制限が課せられることがあります。あなたが購入を検討している土地に一定の利用制限が課せられていないか、当該土地の高圧送電線通過を目的とする地役権等の権利設定の有無を確認し、課された制限内容の中で、計画中の新居が建築可能か確認する必要があるでしょう。
【解説】
1.土地上空への電線設置を目的とする地役権
(1)電気事業者が他人の土地の上空を通過させて電線を設置する場合、電気事業者と当該土地所有者との間で、電線の設置を目的とする地役権等の権利設定が行われます。これは、土地の所有権は土地上空にも及ぶため、土地上空に電線を通過させることに関し、土地の所有者の承諾が必要となるからです。特に、電圧が高圧となる場合には、安全上の理由から、高圧送電線と建物との間に一定の隔離距離をとる等、土地上での工作物の設置や植物の植栽等について一定の利用制限が課されるため、土地所有者との間で土地利用に関する合意を締結し、電線設置を目的とする権利設定を行うことが必須となります。
(2)土地上空への電線設置を目的とする権利設定行為として、地役権や賃貸借権の設定が考えられますが、登記を備えることで土地の転得者(第三者)への対抗力を備えることができる地役権を設定することが多いでしょう。
地役権とは、設定行為で定めた目的の範囲において、他人の土地(承役地)を自己の土地(要役地)のために利用する権利をいい(民法280条本文)、通行を目的とした通行地役権や上下水道管埋設を目的とした地役権等、様々な目的で設定されます。前記の通り、地役権は用益物権であるため、登記を備えることで、第三者対抗力を有します。
したがって、仮に本件土地に電線設置を目的とする地役権が設定され、地役権の登記が備えられている場合には、本件土地(承役地)の転得者であるあなたに対しても対抗力を有し、承役地の転得者(あなた)は地役権設定登記に定められた利用制限の範囲内で本件土地を利用することができ、その制限の範囲内で建築可能な新居を建築することになるでしょう。
また、仮に地役権の登記が備えられていない場合でも、本件土地売買契約締結時に本件土地上空に電線が設置されていることが客観的に明らかであり、これをあなたが認識し、又、認識可能であった場合には、特段の事情のない限り、あなたは登記の欠缺を主張する第三者にあたらないため、あなたは地役権で設定された利用制限のもとで土地を利用せざるを得ない可能性があります(最高裁平成10年2月13日判決)。
(3)このように土地上空に電線が設置されている場合には、土地利用に一定の制限が課せられる場合があるため、本件土地にどのような権利設定がされているのか、仲介業者へ依頼し調査する必要があるでしょう。
過去の裁判例(東京地裁平成27年12月25日)では、土地の近隣に高圧送電線が存在し、これにより土地の一部が高圧送電線の振れ幅下地にかかるため、一定の土地利用制限が課せられる土地であることは「瑕疵」に該当し、これを説明しなかったとして、売主に対する瑕疵担保責任に基づく契約解除・損害賠償請求、仲介業者に対する説明義務違反に基づく損害賠償請求の裁判が提起されました。同裁判では、土地の一部が高圧送電線の振れ幅下地にかかり、一定の利用制限が課せられることは「瑕疵」に該当すると認めたものの、高圧送電線の振れ幅にかかる面積がごくわずかであること、高圧送電線による土地利用制限が行政上の利用制限をしたまわるものであること、土地の価格が送電線の存在を反映し安く設定されていること等から、売主への瑕疵担保責任に基づく契約解除・損害賠償請求は否定されましたが、仲介業者に対する説明義務違反を一定の範囲で認めています。
なお、現行民法(2020年4月1日施行)では、旧民法における「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へと改められたため、同裁判例で争われた「瑕疵」は、現行民法のもとでは「契約不適合」の問題となります。本件設問における本件土地売買も現行民法が適用されるため、「契約不適合責任」の問題となります。
2.まとめ
本件土地においても、電線設置を目的とする地役権が設定されている可能性が高いと考えられます。仮に地役権の登記が設定されていない場合でも、電線の存在が明らかである以上、あなたは登記の欠缺を主張できない可能性があるため、近隣を含め、周辺一帯の土地利用の状況をよく調査し、計画中の新居が建築可能か否かを確認する必要があるでしょう。