不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
購入したマンションの電力供給方法に関する総会決議をめぐるトラブル
質問
私は、1年前に、仲介業者の紹介であるマンションの一室を購入しました。購入の際、仲介業者からは本件マンションの電力供給方法について特段の説明がなかったため、自分で選択した電力会社と個別契約を結んで電気の供給を受けています。ところが、先月に開催された本件マンションの総会において、「今後のマンション全体の電力の供給方法を管理組合と電力会社との間の高圧受電方式に変更する旨の決議、及び、区分所有者の個別契約を禁止する旨の細則を設定する決議」が可決されました。それに伴い、管理組合から各区分所有者に対して現在の電力の個別契約の解約手続きを要請する通知が届きました。しかし、私は、この総会決議に反対しました。電力の供給方法を高圧受電方式に変更すると電気料金が割安になるとの理由でしたが定期的な停電があるとも聞きました。私は本件マンションで仕事をしているため、定期的な停電があると仕事に支障が生じるからです。私は管理組合の通知にしたがって、現在の電力の個別契約を解約しなければいけないのでしょうか。
回答
本件マンションの総会決議の中で「区分所有建物の電力供給方法を高圧受電方式へ変更することに伴い、区分所有者の個別契約を禁止する旨の細則を設定する決議(各区分所有者に対して電力の個別契約の解約を義務付ける決議)」は、本件マンションの専有部分の利用に関する事項の決議であり、無効と判断される可能性が高いと考えられます。
従って、あなたが本件マンションを購入した段階では、本件マンションの電力供給方法は、自分で選択した電力会社と個別契約が可能な状態でしたので、あなたは、管理組合の通知に従い、現在の電力の個別契約を解約する義務はないと考えられます。
解説
1.専有部分・共用部分の利用・管理・処分
本件マンションのような区分所有建物は、各区分所有者が所有する居室などの専有部分と、ロビーや、エレベーター、廊下、電気設備などの共用部分から構成されています。
専有部分の利用・管理・処分は、本来、各区分所有者が区分所有権に基づき単独で行いますが、区分所有建物が多数の区分所有者の共同生活の場でもあることから、その利用が騒音や悪臭などを生じさせ他の区分所有者の平穏な生活を妨げる場合には、一定の制限を受ける場合があります。例えば、管理規約に基づき、各居室内でのペットや動物などの飼育制限や楽器の使用制限を行うなどです。これらの制限は、区分所有者間において専有部分の利用や管理の調整を行う必要がある相当な事項(「区分所有者相互間の事項」)として管理規約に定められた場合に認められます(区分所有法30条1項)。
共用部分は、各区分所有者の共有物であり、その利用・管理・処分(変更)は、区分所有者の多数決に基づく総会決議、及び、総会決議に基づき定めた管理規約に従い行われます(区分所有法17条1項、18条1項、30条1項)。
このように、区分所有者の総会決議は、区分所有権者が共有する敷地、及び、共用部分の利用・管理・処分について決議するものであり、専有部分については、前記の「区分所有者相互間の事項」に該当する場合を除き原則として決議することができません(区分所有法30条1項)。したがって、仮に、区分所有者の総会決議が、専有部分に関して行われ、その事項が「区分所有者相互間の事項」に該当しない場合には、決議の効力は無効と考えられます。
2.高圧受電方式への変更及び個別解約を義務付ける決議の効力
では、本件ケースにおける、「今後のマンション全体の電力の供給方法を管理組合と電力会社との間の高圧受電方式に変更する旨の決議、及び、区分所有者の個別契約を禁止する旨の細則を設定する決議」は、共用部分の利用・管理・処分(変更)に関する決議でしょうか。
区分所有建物における電力の供給は、共用部分である電気設備を通じて各区分所有者に供給されるため、区分所有建物全体として高圧受電方式に変更すること自体は、共用部分の変更又は管理に関する事項に該当するとも考えられます。一方で、各居室に電力を供給する電力会社を選択することは、区分所有者が有している専有部分の使用に関する事項であり、前記の「区分所有者相互間の事項」にも該当せず、本来、各区分所有者が自由に選択すべき事項とも考えられます。
この点について争われた最高裁判例では、「電力供給方法を高圧受電方式に変更する旨の決議については、共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの、本決議のうち団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない」と判断しています。また、本件決議に基づく細則が個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしてもその部分は、「法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、同項の規約として効力を有するものではない」と判断し、個別契約の解約申入れを義務付ける部分の決議の効力を否定する判断を示しています(最高裁平成31年3月5日判決)。
このように上記最高裁判例では、どの電力会社を選択するかは、本来、各区分所有権者の自由意思によって決せられるべき専有部分の使用に関する事項であって、これによって他の区分所有者の専有部分の使用や共用部分の適正な管理に直ちに支障が生じるものではないため、個別契約の解約を義務付ける部分は、規約によって制限をかすことができる「建物所有者相互間の事項」に該当しないと判断しました。
したがって、このような裁判所の判断を前提とすると、本件ケースにおける総会決議、及び、それに基づく管理組合の細則の中で、個別契約の解約を義務付ける部分は、無効と判断される可能性が高く、あなたは、現在締結している電力個別契約を解約する義務はないものと考えられます。
3.まとめ
電力の自由化によって、電気をガスやインターネット等とセットで申し込むことで、割安な価格となる商品も提供されており、どの電力会社と契約するかの選択権は、区分所有者の権利ともいえるかもしれません。一方で、高圧受電方式を採用することで、マンション全体の電気料金を抑えることができ、区分所有者全体の利益につながるとの考え方もあるでしょう。
上記最高裁判例の判断を前提とすると、特別の事情がない限り、今後、高圧受電方式を採用するためには、区分所有者全員の承諾が必要となるものと考えられます。また、ガス、水道やインターネット等の一括契約についても、同様の判断がされる可能性があるため、一括方式を導入する際には管理組合(理事長)や管理会社等は、各区分所有者へ十分な説明を行う必要があります。