不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
購入した借地権付建物の借地契約の更新
【Q】
私は20年以上前に借地権付建物を購入し、借地上の建物で生活してきました。数年後に借地契約の更新の時期を迎えますが、地主Aから、更新時に定期借地権への切り替えを要請されています。私はこれに応じる必要があるのでしょうか。
【回答】
あなたは、地主Aからの定期借地契約への切り替え要請に応じる義務はありません。
しかし、今の普通借地契約から定期借地契約に切り替えるメリットがあるのであれば検討する価値はあるでしょう。先ずは、今の普通借地契約と定期借地契約におけるあなたの借地権にどの様な違いが生じるのかを検討してみてください。
1 普通借地権と定期借地権
あなたと地主Aさんとの借地契約は、借地借家法の下で締結された普通借地契約のようです。すなわち、契約期間が30年以上で、更新時に更新請求ができ、地主Aは正当事由がない限り更新拒否ができず、更新後の借地契約期間が10年以上となる普通借地契約です。一方、居住を目的とする定期借地契約は、契約期間が50年以上ですが、更新請求ができず、地主Aの正当事由の有無にかかわらず期間満了により確定的に借地契約が終了します。その他の定期借地契約には、公正証書により締結する事業用定期借地権(存続期間10年以上50年未満)や借地期間経過後に地上建物を地主に譲渡する建物譲渡特約付借地権(存続期間30年以上)の契約があります。
2 普通借地契約から定期借地契約への切り替え
(1)地主Aさんは、普通借地契約を定期借地契約に切り替えることを提案しているようです。普通借地契約を合意解約後、新たに定期借地契約を締結すること自体を制限する規定はなく法律上可能といえます。
しかし、前記1の通り、普通借地契約は、あなたが更新を希望する限り、地主Aが更新を拒絶するには正当事由が必要とされ、正当事由が存在しない場合、あなたの建物が存続する限り借地契約は更新され、あなたを厚く保護する契約と言えます。但し、更新時に更新料を支払う合意があれば、その負担は残ります。一方で、定期借地契約は、契約期間が50年以上と長期ですが、期間満了により確定的に契約が終了するため、あなたにとって不利な側面があります。但し、更新料の問題はなくなります。
(2)したがって、地主Aが提案する普通借地契約を合意解約後、定期借地契約を締結して切り替えを行う場合には、定期借地権への切り替えによって、あなたに不利な面が生じる点を十分に検討し十分な理解を行った上での真の合意をすることが必要です。
(3)なお、裁判実務では、普通借地契約から定期借地契約への切り替えに借地人に合理性があることが必要とされています。本件設問と同様に、従前から締結されていた普通借地契約を合意解約後、新たに締結された定期借地契約の有効性が争われた裁判例では
「更新が認められる借地権と更新が認められない定期借地権とでは、一般には賃貸人にとっては後者の方が有利な制度であり、従前から借地関係が存在している当事者間においては、相応の合理的理由があり、その中で、当事者間で真に合意されたといえる場合でなければ、別途契約を締結し直すことにより定期借地権に切り替える旨の合意が有効とはならない」とし、「賃貸人の説明会の実施や賃借人の契約書の署名捺印等の事実をもって合理的理由があったとはいえない」として定期借地契約の合意は無効であり、普通借地契約の合意であると判断しています。(東京地裁平成29年12月12日判決)
(4)このように、借地人に不利な側面のある定期借地契約に切り替えるだけの合理的理由があり、その中での真の合意がなければ、定期借地契約の合意が無効と判断される可能性があります。
3 まとめ
以上の通り、普通借地契約から定期借地契約に切り替える際には、契約内容の変更によるメリット・デメリットを借地人が十分理解した上で、契約を締結することが必須となります。本来であれば、地主・借地人間で十分な相互理解があれば、後から定期借地契約の有効性が争われ問題となることはないはずです。しかし、紛争に発展する多くのケースでは、契約内容について十分な説明・理解のないまま、契約書に署名・捺印をしてしまう場合や、立場の強い地主の要請を拒否できずに署名・捺印してしまった場合等に合意の有効性が問題となります。
本件設問のケースでも地主Aさんの要請によって、契約内容(期間・地代)等がどう変わるのかをよく理解した上で、対応を判断すべきでしょう。