不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
決済期限の延長に伴う融資解除特約に関するトラブル
【Q】
私は、今年の2月1日、買主Aとの間で、所有するマンションの一室を売却する売買契約を結び、手付金100万円を受領しました。売買契約では、売買代金を8000万円、決済期限を2月28日、違約金を売買代金の10%とし、融資解除期限(2月27日)までに融資承認を得られない場合には、売買契約は自動的に解除となる旨の融資解除特約期限を定めました。
ところが、代金決済期限の数日前に、買主Aから「決済期限を3月末に延長したい」との決済期限延長の申出があったため、これに応じました。しかし、3月末の決済期限になっても決済は実行されなかったため、私は、債務不履行に基づき売買契約を解除し、買主Aに対して、違約金の請求を行いました。
しかし、買主Aは、融資解除期限の経過により、本件売買契約は自動的に解除されたとして、手付金の返還を求めています。
融資解除特約の付された売買契約において、決済期限延長の合意した場合、融資解除特約の効力をどう考えるべきでしょうか。
【回答】
当事者間において、決済期限延長の合意の際に、融資解除期限の延長について明確な合意がない場合、融資解除特約の効力が失われたと判断される可能性が高いでしょう。したがって、あなたは、買主Aによる手付金返還の要求に応じる必要はなく、逆に、買主Aに対して、違約金の請求を行うことができると考えられます。
1 融資解除特約
不動産売買では、購入代金が高額となるため、購入資金として、買主が金融機関の融資を利用する場合があります。融資を利用する売買契約では、融資が不成立となった場合に、買主が無条件で売買契約を白紙解除することができる融資解除特約条項が設けられます。
融資解除特約には、①融資解除期限までに融資が不成立となった場合、売買契約は当然に終了する「当然失効型」と、②融資が不成立となった場合、買主は融資解除期限内に解除権を行使することができるとする「解除権行使型」があります。
①「当然失効型」では、融資解除期限までに融資が不成立となったことにより、当然に売買契約は解除されるのに対し、②「解除権行使型」では、買主は解除行使期限内に売主に対して解除の意思表示を示し、解除権の行使をすることが必要となります。
融資解除特約における、「融資が不成立」とは、融資が不承認となった場合の他、融資解除期限までに融資承認が未定の場合も含みます。買主は、融資成立に向けた真摯な努力をする義務があり、故意に融資申し込みを行わない等の場合、売買契約義務違反であり、「融資不成立」とは認められません。
売買契約が、融資解除特約によって解除された場合には、売買契約は契約締結日に遡って消滅するため、売主は、受領した手付金を買主へ返還する義務を負います。
2 決済期限延長合意と融資解除特約
売買契約締結後に、当事者間で決済期限延期の合意がされた場合、決済期限延長合意は融資解除特約にどの様な影響を与えるのでしょうか。
この点に関し、東京地裁令和元年6月11日判決では、決済期限が3度にわたり延長合意された事案において、「融資解除特約は、売主の売却の機会を失い、売主にとって不利な特約であることは明らかである。」そうすると「買主の都合により決済期限が延長された場合に、融資解除特約の期限も同様に延長されるかどうかは、改めて、売主から明確な合意があったといえる場合でなければ、融資解除特約については効力を失うとみるのが相当である」とし、決済期限延長の合意により、「融資解除特約は効力を失った」と判断しました。
本件設問の事案においても、決済期限延長合意の際、融資解除期限の延長について当事者間において明確な合意がない場合には、融資解除特約の効力は失われたと判断される可能性が高いと考えられます。したがって、買主Aによる手付金返還の請求に応じる必要はなく、買主Aに対して違約金の請求を行うことができると考えられます。
3 まとめ
不動産の売買契約では、融資承認が間に合わない等の理由により、決済期限が延長されることが見受けられます。決済期限の延長は、決済期限直前に急遽合意されることも少なくありませんが、決済期限の延長の他、融資解除期限も延長するのか、その他契約内容の変更点の有無について、書面において明確に定めておくことがトラブル予防のために必要となります。