不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
共用排水管等が地中に埋設された土地の売買
【Q】
私(宅建業者)は、分譲して転売する目的で、売主A(個人)から本件土地及び地上建物を購入しました。しかし、本件不動産の引渡を受けた後、調査したところ、本件土地の地中には、本件土地の中央部を横切る形で、隣人(売主Aの親族)との共有共用排水管及び浄化槽が埋設されていることが明らかとなりました。このままの状態では、本件土地を分譲して転売することは難しい状況です。
本件土地の売買契約では、本件不動産を現状有姿のまま引き渡すことを前提に、契約不適合責任を雨漏り等の一定の事由に限定する特約が付されていました。また、売主Aは、本件土地を相続により取得したものであり、排水管等が埋設されていたことを知らなかったと言っています。
私は、売主Aに対して責任追及をすることができるでしょうか。
【回答】
分譲して転売することを目的とした本件土地・建物の売買契約において、本件土地の中央部を横切る形で、隣人との共有共用配水管及び浄化槽が地中に埋設されていることは、契約不適合状態にあると考えられます。ただし、本件売買では、契約不適合責任を雨漏り等に限定する特約が付されており、地中埋設物に関する責任は免責されていると考えられます。本件売買契約において、売主Aは共用排水管等が埋設されていることを知っていた等の事情が存在する場合には、あなたは、売主Aに対して、契約不適合責任を追及することができる可能性がありますが、そうした事情が認められない場合には、免責が認められるでしょう。
1 地中の埋設物と契約不適合責任
(1)土地の地中には、従前の土地の利用形態によって、コンクリート塊や埋設基礎、浄化槽、井戸、文化財等、土以外の異物が存在することがあります。これらの異物の存在が、直ちに、売買契約上の問題に発展するわけではありませんが、地中埋設物の存在により、予期せぬ除去費用・地盤改良費用が生じる、土地購入後の利用計画に支障が生じる場合には、通常有すべき性状を備えないものとして、契約不適合責任等の法律問題に発展します。
売買契約に基づき引き渡された目的物が、種類、品質、数量に関し、契約内容と適合しない(契約不適合)状態である場合には、買主は、売主に対して、契約不適合責任に基づく責任追及(追完請求、代金減額請求、損害賠償、契約解除)をすることが出来ます。
本件設例のように、分譲地として転売する目的で売買された土地の地中に、排水管等が埋設されており、当初予定していた分譲ができない事態となった場合には、本件土地は契約不適合に該当し、売主Aには契約不適合責任が生じる可能性があります。
一方、契約不適合責任は任意規定であり、免責特約によって、責任の範囲を限定することも可能です。宅建業法及び消費者契約のもと、売主が宅建業者や事業者であり、買主が非宅建業者や消費者である売買契約においては、契約不適合責任を免責する特約には制限がありますが、売主・買主双方が個人(非宅建業者や消費者)である場合には、契約不適合責任の範囲や期限を制限する特約、全部免責とする特約を付すことが見られます。
但し、契約不適合責任を免責する特約が付されている場合でも、売主が契約不適合状態について悪意・重過失である場合には、売主は契約不適合責任を免れることはできません。
(2)本件設例と同様の事案の裁判例(東京地裁平成16年10月28日判決)では、買主は排水管等が隣人との共有共用であることを知らなかったこと、本件土地の地表面からは排水管等の存在を確認できないこと、重要事項説明書には本件排水管等が共有共用である旨の記載がないこと、隣人が排水管等の撤去に反対していること等の事情のもとでは、本件土地は瑕疵(契約不適合)に該当すると判断しました。
一方、同裁判例は、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の範囲を制限する免責特約の存在は認めた上で、排水管等の存在は通常重要な関心事であること、売主が浄化槽の維持費等の支払いをしてきたこと等の事情のもとでは、売主は、排水管等の存在を知っていた(悪意)と認定し、売主の瑕疵担保責任(契約不適合責任)を認める判断をしました。
2 まとめ
土地の地中には、土地の過去の利用形態によって、様々な埋設物が存在し、予期せぬ除去費用や地盤改良費が生じる場合もあります。本件設例では、売主は排水管等の存在を知っていたもの(悪意)と認定され、売主の責任が認められましたが、転々譲渡された土地の場合には、売主が埋設物の存在を知らないケースも考えられます。埋設物は地表から目視で確認することは難しいですが、土地の使用履歴、周辺土地との利用関係、排水管等の設置状況等について、事前に調査確認することが大切です。