不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
目的物に関する重要な事項(宅地・建物の法的規制 その2)
Q
Q:私は、ある中古の戸建住宅を購入しようと思い現地を見に行きました。その住宅は、「私道」に面した一番奥にあり、静かで、住宅の前で子どもを遊ばせても交通事故の心配がなく安心と気に入りました。しかし、偶々、隣地の住人と話をしたところ、この私道には、この住宅や近隣の住宅が利用している水道管が埋設されており、近々、古い水道管を新しいものに取り替える工事を行う予定なので協力をお願いしますと言われました。
(1)私は、「私道」を通行する権利があると思いますが、どのような権利なのでしょうか?
(2)私道に埋設されている水道管の取り替え工事を行う場合、なぜ、私に協力を要請する必要があるのでしょうか?
(3)私がこの住宅を購入する際に、仲介業者は、前記(1)(2)に関する情報提供をしてくれるのでしょうか?
A(私道、水道管等設備の整備状況に関する情報提供)
1 回 答
「①この住宅を購入した場合、あなたは、当然、この私道を通行する権利を持ちます。しかし、私道を通行する権利には様々なスタイルがあり、権利内容も様々ですので、あなたの権利を良く確認しておく必要があります。
②私道に埋設された水道管の取り替え工事は、私道を掘削し、水道管を取り替え、再び埋設する等の作業が伴います。この工事は、私道の形状に変化を与える行為であり、一種の処分行為にあたります。その為、私道に権利(所有権、共有持分)を有している方の同意が必要になるのです。
③仲介業者は、売買の仲介に際し、私道の権利やガス管・水道管の埋設状況等に関する調査を行い、「重要事項説明書」等に記載し、あなたに説明を行いますので安心して下さい。」
2 私道を通行する権利
(1)建築基準法上の「道路」
①建物を建築するには、原則、その敷地が、建築基準法上の「道路」に2m以上接することが必要です(建築基準法43条)。
②建築基準法上の「道路」は、道路法などの「公道」や幅員が4m(又、6m)以上の位置指定を受けた「私道」を含みます(同法42条)。
③従って、この住宅が面している「私道」は、建築基準法上の「道路」に該当すると思われます。
(2)私道の権利
①「私道」は、国や地方自治体が所有する「公道」と違い、私人が所有する「道路」です。しかし、「道路」である場合、所有者は「私道」内に擁壁などの建築や築造が禁止されます(同法44条)。
②「私道」の形態は、大別すると「私道」に面した各土地所有者が共有する場合と単独所有(含、私道が数区画に分筆され隣接者が各所有、私道負担)の場合があります。
<共有の場合>
ⅰ「私道」が共有の場合は、「私道」は「共有物」であり、各共有者は「共有持分」に基づき「私道」を利用・管理・処分します。
ⅱ本来「共有物」の利用・管理・処分は、共有者の協議(各自、多数決、全員の同意)で行います(民法249条、251条、252条)。
ⅲしかし「私道」の利用については、建築基準法上の「道路」ですので、既に「道路」として利用する合意が存在していると考えます。
<単独所有の場合>
ⅰ「私道」に面する隣接地を分譲した売主が、分譲後も「私道」を単独で所有する場合があります。
ⅱこの場合、売主は、隣接地の購入者との間で、順次、「私道」に「通行地役権」を設定したと考えます。この契約は、有償、無償を問いません。又、必ずしも契約書によらず、口頭や暗黙の合意により認められることがあります。なお、有償の場合には対価(使用料)を支払う義務を負担します(私道の負担)。
ⅲこの「通行地役権」は、隣接地の各購入者の「準共有」ですので、「通行地役権」の所有・利用・管理・処分は、前記<共有の場合>と同じです。
ⅳ又、「私道」が数区画に分筆され隣接者が各所有する場合には、各隣接者が自己の区画を承役地として、他の区画を要役地とする「通行地役権」を交互に設定したと考えられます。
ⅴ更に、「私道」が4m未満の「道路」の場合、「私道」の中心線から2m後退して建物を建築しなければならず(建築基準法42条2項)、「道路」の境界線から後退した敷地の部分は「私道の負担」として「道路」と同じ制約を受けます。
③あなたは、住宅の購入に伴い、前記②の「私道」の「共有持分」、「通行地役権」、「私道の負担」を承継します。
④では、あなたは「私道」を「車両」で通行することができるでしょうか?この判断は、「車両」での通行を認める合意の存在、又は、長年に亘り車両の通行を認めてきた実態の存在の有無により分かれます。
⑤従って、あなたは、この住宅の購入に際し、「私道」に関する権利義務は何か、又、私道の負担の有無、更には、「車両」通行を許容しているかを確認することが大切です。
3 水道管の埋設工事
(1)水道管を埋設する権利
①「私道」の地中に水道管を埋設する工事は、水道事業者(市町村)が「私道」の近隣住人に水道水の供給を行う為に、「私道」を掘削し、水道事業者が所有管理する水道管(公管)を地中に埋設し埋め戻す作業です。
②水道事業者が「私道」に水道管を埋設する工事を行う為には、「私道」の所有者(全共有者)の同意が必要です。この掘削・埋戻し作業は、「私道」の「形質変更」に該当するからです。
③水道事業者は、前記②の同意を得ることにより、「私道」の地中に水道管(公管)を設置する「私道」の利用権を取得します。その利用権に基づき、「私道」に埋設した水道管(公管)を介して、近隣住人への水道供給事業を行う事が出来るのです。
④一方、「私道」の所有者(全共有者)は、前記③の利用権の設定者として、水道事業者が「私道」の地中利用を行い、所有者(全共有者)らを含む近隣住人への水道供給事業を行うことを受忍する義務を負担します。
⑤従って、あなたが住宅購入ともに「私道」の所有者(共有者)を承継した場合、あなたは、前記④の義務を承継します。
(2)水道管の取替工事
①「私道」に埋設した水道管の取替えや近隣住人への水道供給事業の為に再度、「私道」の掘削、埋戻を行う作業は、新たな「私道」の「形質変更」に該当する作業と考えられます。
②水道事業者が前記①の「私道」の掘削、埋戻の作業を行うには、改めて「私道」の所有者(全共有者)の同意が必要と考えられます。
③従って、あなたが住宅購入ともに「私道」の所有者(共有者)を承継した場合、前記①の「私道」の掘削、埋戻の作業には、あなたの同意も必要となります。
④なお、「私道」の所有者(全共有者)は、前記(1)④の義務を負担しているので、前記②の同意を不当に拒否することは権利の乱用となります。
※私道の地中に埋設された水道管には、前記の公管の他に私設管となっているケースがあり、この私設管の管理については、「私道」所有者(この私設管から敷地内に水道を引き込んでいる者)が行うことになります。
4 仲介業者の説明義務
(1)あなたが購入する予定の住宅の売買契約に関与する仲介業者は、媒介契約上の義務、及び、宅建業法に基づく「重要事項説明義務」として、必ず、「私道」及び「水道管の埋設工事」の整備状況を調査し説明を行います。
(2)仲介業者が使用する「重要事項説明書」には、「私道に関する負担に関する事項」や「飲用水・電気・ガスの供給施設及び排水施設の整備状況」の欄が設けられています。
①「私道に関する負担に関する事項」
ⅰこの欄は、「負担の有無、負担の内容としての面積や負担金、備考」を記載しますが、前記2(2)記載の「私道の負担」に関する事項だけでなく「私道」の権利関係も記載されているか確認してください。。
②「飲用水・電気・ガスの供給施設及び排水施設の整備状況」
ⅰこの欄は、この住宅のインフラ状況に関する事項で「直ちに利用が可能か否か、施設の整備予定、施設整備の特別負担金、備考」を記載します。
ⅱ「私道」の地中には、水道管だけでなく、下水管、ガス管、地中電線などが埋設されている場合があります。これらの状況も重要事項説明書に記載され、仲介業者から説明がありますが、各事業者が保有する各台帳に記載されていますので、あなたご自身で確認することも可能です。