不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
所有者不明土地と財産管理制度(民法・不動産登記法改正)
【Q】
数年前に父から相続した土地の売却を予定していますが、売却に際しては隣地との境界確認が必要となると聞きました。しかし、隣地所有者は所在不明の可能性があり、境界確認ができていません。また、隣地は長年管理されておらず、竹木が生い茂り倒壊の危険もあります。
(1)隣地所有者が所在不明で連絡が取れない場合、どのように境界確認を行えばよいのでしょうか。また、隣地の適切な管理を求める方法があるでしょうか。
(2)隣地所有者の所在が判明した場合、どのように隣地の適切な管理を求めればよいでしょうか。また、隣地所有者に隣地の適切な管理を求めても状況が改善しない場合、何か方法があるでしょうか。
【回答】
(1)現行民法の下では、不在者財産管理人制度を利用し、選任された不在者財産管理人との間で境界確認や隣地の管理を求める方法が考えられます。また、2021年4月に成立した改正民法では、新たに所有者不明土地管理制度が創設されました。改正民法施行後は、この所有者不明土地管理制度を利用することが考えられます。
(2)現行民法の下では、隣地や隣地上の建物が適切に管理されないことによって自己の権利が侵害され又は侵害されるおそれがある場合に、所有権に基づく妨害排除請求等によって是正措置を求めることが考えられます。また、前記の改正民法では、管理不全土地・建物を対象とした管理不全土地管理制度等が設けられました。改正民法施行後は同制度を利用することも考えられます。
【解説】
1 所有者不明土地と改正民法・不動産登記法
前回(2021年8月号)のコラムでは、2021年4月に改正民法・不動産登記法が成立し、所有者不明土地問題への対策の一つとして、民法における共有制度の一部が見直されたことをご紹介しました。
今回のコラムでは、同様に改正民法・不動産登記法において、財産管理制度の見直しが行われ、新たに設けられた所有者不明土地管理制度等についてご紹介します。
2 不在者財産管理制度等
所有地の売却をすすめるに際し、売主となるあなたは、土地の面積・形状及び隣地との境界を確定するため、全ての隣地所有者の立会いのもと境界確認を行い、境界確認書を作成した上で、確定測量図を作成する必要があります。隣地との境界が曖昧な状態で売却した場合、土地売却後に隣地所有者と買主との間で境界をめぐる法的問題に発展する可能性があり、また、これは終局的に売主(あなた)と買主との間の法的問題にも波及しうるため、通常、売主は隣地所有者との境界確認を行った上で土地の売却を行います。
しかし、本件設問のように、相続等を原因として隣地所有者が不明または所在不明となっている場合、隣地所有者との間で境界確認を行うことができません。このような場合、現行民法においては、不在者財産管理人制度や相続財産管理制度を利用し、選任された財産管理人との間で境界確認を行う方法がとられています。
しかし、現行法上の財産管理制度は、不在者等の財産全般を管理する制度であるため、財産全般を対象とした管理作業が必要となり、これに要する費用・時間もそれ相応にかかるため、本設問のように特定の不動産についての財産管理人を申立て、迅速に処理したいとの要望には沿わないものでした。
3 所有者不明土地管理制度等
そこで、今回の改正民法では、所有者不明(所有者を知ることができず、又は所在を知ることができない)である土地・建物という特定の財産を対象とした財産管理制度として、所有者不明土地管理制度・所有者不明建物管理制度が設けられました。同制度では、裁判所は、利害関係人の請求によって、所有者不明土地管理人等による管理を命ずることができるとされています。これにより、選任された所有者不明土地管理人等は、所有者不明土地等について専属的な管理処分権を有し、保存行為及び性質を変えない範囲の利用・改良行為を行うことができ、これを超える売却等の処分行為については裁判所の許可を得て行うことができます。したがって、これまでの不在者財産管理人制度よりも迅速に低い費用で財産管理を求めることが期待されます。
本件設問の場合においても、改正民法施行後(公布の日から2年以内に施行、一部の規定は3年ないし5年以内に施行)においては、隣地について所有者不明土地管理制度を利用し、選任された所有者不明土地管理人との間で、境界確認や隣地の管理を求めることが考えられます。
4 管理不全土地管理制度等
また、今回の改正法では、所有者の所在が判明している場合においても、裁判所は、所有者による土地・建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要と認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人等により管理を命ずる処分をすることができる管理不全土地管理制度等が設けられました。同制度による管理不全土地管理人は管理不全土地の管理・処分権限を有しますが、管理人の専属権ではなく、土地所有者も管理・処分権を有するとされています。
現行民法においても、土地や建物が適切に管理されないことによって自己の権利が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合に、所有権に基づく妨害排除請求等の是正措置を求めることはできましたが、継続的な管理が必要なケースや是正措置の内容を特定することが困難なケースでは柔軟な対応ができないという問題がありました。特に、本件設問のように継続的な管理が必要となる竹木等の管理の場面では、管理不全土地管理制度の適用が考えられます。
5 まとめ
所有者不明土地問題に関連し、改正民法において設けられた新たな財産管理制度をご紹介しました。今回の改正民法では、その他、相隣関係に規定も改められ、水道管やガス管の設置に関する規定や隣地の枝が所有地に侵入している場合に一定の要件のもとで隣地の枝を切り取ることが認められる等の改正も行われています。所有地を売却する際には、隣地との問題を切り離すことはできません。新たな制度を利用して、柔軟な解決が図られることが期待されます。