不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
目的物に関する重要な事項(売主の瑕疵担保責任 その1)
Q
(1)私は、A業者の仲介を受けて、B社が分譲をしていた一区画を、自宅を建築する目的で購入し、その宅地の引渡しを受けた後に、C社に自宅の建築工事を発注しました。
(2)C社は、建築工事に着手する前に、その宅地の地盤調査をしたところ、地盤の長期地耐力が弱く、このままの状態で自宅の建築を行うと、自宅の荷重により不同沈下が発生し、自宅が傾斜し、各部が歪んで損傷する可能性が高いので地盤改良工事を行う必要があるとの結果が出ました。しかも地盤改良工事費用は、数百万円程度とのことで、宅地の売買代金の1割強もすることが解りました。
(3)私は、この土地を購入する際に、A業者及びB社から、一部の地盤に軟弱なところがあるかもしれませんとの説明は聞きましたが、地盤改良工事まで必要とは考えていなかったので、この結果に驚きました。
(4)私は、この宅地に地盤改良工事を実施してもらい、無事、自宅の建築を完了しましたが、しかし、この地盤改良工事の費用を私が負担することに納得が行きません。
(5)売買契約が終了してから既に1年半が経過していますが、私は、売主Bや仲介業者Aに対し、この地盤改良工事に要した費用の負担を求めることができるでしょうか?
A(宅地の軟弱地盤の瑕疵)
1 回 答
「①あなたは、この宅地の地盤が軟弱であり地盤改良工事が必要な状態と知らずに売買契約をした場合には、売主Bに対し、売主の瑕疵担保責任に基づく損害賠償として地盤改良工事に要した費用を請求することができる場合が考えられます。
②又、A業者の説明が、地盤改良工事の必要性や工事費用額等に全く触れていなかった場合には、A業者に対し、媒介契約上の債務不履行に基づく損害賠償として地盤改良工事に要した費用を請求できる場合が考えられます。」
2 売主の瑕疵担保責任
(1)瑕疵担保責任の概要
①売買契約の目的物である宅地に「隠れた瑕疵」があった場合、買主は、売主に対し損害賠償請求ができます。又、売買の目的が達成できない程の瑕疵の場合には、買主は、売買契約を解除し、売買代金全額の返還を求めることができます(民570条、566条)。
②瑕疵担保責任は、通常は、売買契約の条項に明記されますが、仮に、明記されない場合にも、民法に基づき生じる責任です(法定責任)。なお、新築建物(含・マンション)の売買契約では、売主が瑕疵ある建物の修理を行う瑕疵修補責任の条項を加えることが見受けられます。
③なお、民法の改正案では、この法定責任を、売買契約の合意により生じる責任(契約責任)に変更を予定しています。
(2)瑕疵担保責任の発生要件(隠れた瑕疵)
①買主が、売主に前記(1)の瑕疵担保責任を追及するには、この宅地に「隠れた瑕疵」があることが必要です。
②「隠れた瑕疵」が存在するとは、以下の状態を指します。
ⅰこの宅地の数量、品質、性能などが、売買契約締結時に想定したよりも低下しており(「欠陥」状態)、宅地の客観的な価値が、想定よりも低額な状態です。
ⅱ「買主」は、前記ⅰの状態を知らず、かつ、その状態を知らないことに過失がなく売買契約を締結したことです(買主の善意)。
ⅲつまり、「買主」から見て、売買契約締結時に、宅地の「欠陥」が「隠れている」(表面化していない)状態をいいます。
ⅳなお、売買契約締結時に宅地の「欠陥」が「隠れていない」(表面化する)状態では、「買主」は、その「欠陥」を考慮した売買代金額で合意するので、「買主」が取得した宅地の客観的な価値は、想定時より低額とならないので「売主」の瑕疵担保責任は生じません。
③売主の無過失責任
ⅰ「売主」は、前記②の状態を知らなかった場合でも、瑕疵担保責任を負担します。
ⅱ「売主」は、宅地の「欠陥」の原因に責任がない場合でも、瑕疵担保責任を負担します。但し、宅地の「欠陥」の原因の責任が「買主」にある場合には、「売主」の瑕疵担保責任がありません。
ⅲ従って、「売主」は、前記②ⅳ記載のように、売買契約締結時に、宅地の「欠陥」が「隠れていない」(表面化する)状態にすることで、瑕疵担保責任が生じないようにする努力が大切です。
(3)瑕疵担保責任の期間
①瑕疵担保責任の期間は、通常、売買契約の条項で自由に定めることができます。但し、「売主が宅建業者で買主が非業者」の場合には、宅地を引渡してから2年未満の期間の約定が無効となりますので(宅建業法40条)、宅地の引渡をしてから2年と定めることが一般的です。
②この期間の定めがない場合には、「売主」は、「買主」が宅地の「欠陥」の存在を知ってから1年以内に限り、瑕疵担保責任を負担します(民法566条3項、570条)。但し、「買主」が、宅地の引渡を受けて10年が経過した後に宅地の「欠陥」の存在を知った場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権が消滅時効により消滅するので「売主」の瑕疵担保責任も消滅すると考えるのが判例です。
(4)瑕疵担保責任を制限する特約
①「売主が宅建業者で買主が非業者」の場合には、「売主」の瑕疵担保責任を免責、又は、責任範囲を一部に制限する特約(契約解除権を認めない等)は、無効となります(宅建業法40条)。
②前記以外の場合には、「売主」の瑕疵担保責任を免責、又は、責任範囲を一部に制限する特約も有効です。但し、「売主」が「欠陥」を知りながら「買主」に告げなかった場合には、その「欠陥」について免責や制限の効果は生じません(民法572条)。
3 B社の瑕疵担保責任
(1)宅地の欠陥性
①一般的に、宅地は、建物を建築する用途の土地ですから、予定する建物の建築に耐えられるだけの地盤強度を保有することが求められます。
②従って、その宅地が、予定する建物の建築に耐えられる地盤強度を有しない軟弱地盤であり、又、建物の建築の為には地盤改良工事が必要となる状態は、前記2(2)②の宅地に「欠陥」が存在する状態と考えられます。
(2)「隠れた欠陥」か?
①あなたは、A業者及びB社から「一部の地盤に軟弱なところがあるかもしれません」との説明を受けていますので、「この宅地の一部が軟弱地盤である可能性」を認識していたと考えられます。
②あなたの前記①の認識が、前記(1)②の認識と同視できるかが問題となり、判決例も見解が分かれています。
ⅰ買主は、この宅地が軟弱地盤である可能性が高いことを甘受して本件宅地を購入しており、宅地の地盤強度は想定範囲内であるとして「欠陥」の認識があったことを認め、売主の瑕疵担保責任を否定する判決例があります。
ⅱしかし、A業者及びB社の説明は、内容が曖昧であり、地盤改良の必要性が高いことを窺わせるものでもなく、買主に地盤調査を行うよう要請し、地盤改良が必要な場合の費用が買主負担となること、その為に売買価格を低額にしていること、瑕疵担保責任の放棄などの具体的な説明がされていない状況から見ると、前記(1)②の認識はないとして、売主の瑕疵担保責任を認める判決例があります。
③結局、A業者及びB社のこの説明を聞いて、あなたが、前記(1)②のどの範囲までを認識することができたのかが問題と思われます。
ⅰ「一部の地盤に軟弱なところがあるかもしれない」との説明だけでは、一般の買主が、宅地の地盤改良工事まで必要であると認識することは、困難と思われます。
ⅱ地盤改良工事の費用額は、売買代金額と比較すると軽視できない金額と考えられます。
ⅲ従って、この「欠陥」を持つ宅地の客観的な価値は、売買契約時に想定した価値よりも、低額と考えられので、売主は、瑕疵担保責任を負担すべきと考えます。
(5)責任の期間
①この宅地の売買契約の瑕疵担保責任の期間がどのように定められているのかは不明ですが、売主B社は宅建業者と思われます。従って、この売買契約では、宅地の引渡しから2年間と定めていると思われます。
②従って、この宅地の売買契約が終了後1年半を経過しましたが、未だ上記期間の範囲内であり、あなたは、B社に対し、瑕疵担保責任の損害賠償請求として地盤改良工事に要した費用を請求できると思われます。
4 「瑕疵担保責任」に関する説明義務
(1)仲介業者及び売主業者は、買主に対し、「重要事項説明書」に記載して「瑕疵担保責任」に関する説明を行う義務を負担しています(業法35条)。
①一般的な説明内容は、宅地に「隠れた瑕疵」が存在した場合の買主の売主に対する損害賠償請求権や契約解除権に関する事項です。
②しかし、本来は、「隠れた瑕疵」は、どのようなものであり、今後どのような対応が必要となるかをより具体的に説明することが期待されます。
(2)仲介業者は、媒介契約上の説明義務として、又、売主は、売買契約に基づく信義則上の附随義務として、「隠れた瑕疵」について前記(1)と同様の説明を行う義務があります。
5 A業者の責任
(1)A業者は、仲介者として、買主のあなたに対し、前記4の「瑕疵担保責任」に関する説明義務を負担しています。
(2)しかし、A業者の「一部の地盤に軟弱なところがあるかもしれません」との説明だけでは、この宅地の「欠陥」の重大性、危険性、今後の対応策の説明としては極めて不十分と思われます。
(3)従って、あなたは、A業者に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求として地盤改良工事に要した費用を請求することができると思われます。
6 宅地の地盤調査の時期
(1)ところで、もし、宅地の地盤調査を、「売買契約」締結前に行っていたら今回のような問題が生じなかったと考えられます。
(2)宅地の地盤調査は、手間と費用が掛かることから、「比較的大規模な宅地売買」の場合には、「売買契約」締結前又は締結直後に行うことが見受けられますが、「小規模な宅地の売買」の場合には、「売買契約」完了後か建築請負工事の前に行うことが見受けられます。
(3)このように「小規模な宅地の売買契約」では、必ずしも、「売買契約」締結前又は締結直後の宅地の地盤調査を前提にしていない為、買主に対する地盤調査の要請や地盤改良工事の必要性並びにその費用等に関する説明が不十分となる傾向が見受けられます。
(4)しかし、宅地の地盤調査は、宅地の「欠陥」の発見による購入の可否の判断に影響を与えるだけでなく、その後の建築建物の基礎や構造を決める重大な要素としても機能しますので、可能な限り早期に行うことが適切です。
(5)又、地盤調査の費用の負担は、売主・買主間の売買代金額の調整(代金額の増減)により柔軟に対応をすべきものと考えます。