不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
区分所有建物の共用部分の欠陥に関するトラブル
【Q】
約半年前、私は、売主業者Aさんから新築マンションの一室(以下「本物件」)を、購入しました。本物件はバルコニーが広いことを売りにしており、私もその点を気に入って購入しました。売主業者Aは、本件マンションの分譲業者から本物件を新築未使用の状態で購入し、私に売却したようです。
入居後、本物件のバルコニーの手すりが緩んでおり、落下する危険があることが発覚しました。その後の調査によって、施工業者Bの施工ミスにより、バルコニーの手すりの接合が不十分な状態となっており、管理組合で補修工事を行うことが決定されました。補修工事が完了するまでには数か月程度かかる見込みとなり、手すりの応急処置が施されましたが、手すりが落下しないか不安で、十分にバルコニーを使用できません。
私は、売主業者Aに対し、修繕工事完了まで、バルコニーを安全に使用できない損害を契約不適合責任に基づき賠償請求することができるでしょうか。
【回答】
バルコニーの手すりに施工不良がある状態は、本物件の欠陥(契約不適合・瑕疵)に該当すると考えられます。あなたは、売主業者Aに対し、売買の目的物に契約不適合があるとして、契約不適合責任に基づく損害賠償を追及できると考えられます。
【解説】
1 区分所有建物における専有部分・共用部分
区分所有建物は、区分所有権の対象となる専有部分と、区分所有者全員の共有に属する共用部分に区別されます。専有部分と共有部分の詳細な区分けは、区分所有建物の管理規約によって規定されているはずですが、多くの場合、各住戸内部が専有部分とされ、それ以外の外壁・建物躯体・玄関ホール等は共用部分に属すると考えられています。
本件設問で問題となっているバルコニーは、共用部分に属しますが、バルコニーが設置された部屋の各区分所有者に専用使用権が与えられていると考えられます。
2 共用部分の契約不適合責任(瑕疵担保責任)
(1)本件設問のケースでは、共用部分に属するバルコニーの手すりが緩み、補修工事が必須な状態であり、バルコニーが本来備えるべき品質・性能・安全性を欠き、契約内容に適合しない状態と考えられます。したがって、売主業者Aは契約不適合責任を負うとも考えられます。
一方で、前記1の通り、バルコニーは共用部分であり、区分所有者全員の共用に属するため、バルコニーの維持・管理・処分等については、管理組合による決議が必要となり、区分所有者が単独で決定することはできません。このように単独での管理・処分権限を持たない共用部分について、売買の目的物の契約不適合があるとして、売主に契約不適合責任を負わせることはできるのでしょうか。
(2)旧民法下において、共用部分の瑕疵について売主の瑕疵担保責任
(現行民法の契約不適合責任)が争われた裁判例が複数あり、これを肯定するものと否定するものと判断は分かれています。
ア、東京地裁平成25年3月11日判決では、本件設例と類似の事案において、バルコニーの手すりが施工不良によって緩み落下の危険性があったことは、通常備えるべき品質・性能を欠いていたものとして「瑕疵」に該当する。また、バルコニーは共用部分であるけれども、規約上、区分所有者が専用使用権を有することに照らせば、本件建物に付随するものとして、売買の目的物に含まれる。したがって、売買の目的物に瑕疵があったものとして、売主の瑕疵担保責任を肯定しています。
イ、一方、東京地裁平成13年11月14日判決では、マンションの外壁や屋上の欠陥に起因して専有部分に漏水が生じた事案において、外壁等の共用部分はそもそも売買の対象になっておらず、区分所有者は建物の構造部分について、管理組合法人の立場を別とすれば、なんら権限もないのであり、当該部分の性状の瑕疵について、売主に瑕疵担保責任を負担させる根拠はない、として、売主の瑕疵担保責任を否定しています。
ウ、このように、裁判例では、共用部分の瑕疵に関する売主の瑕疵担保責任について、判断は確定していません。しかし、上記ア、イ以外の裁判例においても、専有部分と隣接した躯体(共用部分)の欠陥について、当該部分の欠陥により、専有部分の利用に支障が生じていることに照らせば、売買の目的物の瑕疵に当たるとして、瑕疵担保責任を認めているもの(東京地裁平成20年3月27日判決)、また、外壁タイル(共用部分)の剥離という欠陥によって建物全体の価値が低下したとして、売主の瑕疵担保責任を肯定しているものもあります(福岡高裁平成18年3月9日判決)。
したがって、裁判例では、共用部分の欠陥により、専有部分の利用に支障をきたしているか、また、専有部分を含めた建物全体の価値に影響を与えているか等の各事案の個別事情を踏まえ、売主の瑕疵担保責任の有無を判断しています。
エ、本件設問のケースにおいても、本物件のバルコニーには本物件所有者に専用使用権が認められており、また、売買契約の際に、本物件にバルコニーが付属していることを売りにして販売していたこと等の事情を考慮すると、バルコニーは本物件の売買の目的物に含まれ、売主業者Aは瑕疵担保責任を負う可能性が高いと考えられます。
3 まとめ
以上の通り、区分所有建物に欠陥が存在し、それに伴う責任追及をする場合、当該欠陥が専有部分なのか、共用部分なのかは、誰にどのような法的構成で責任追及をするのかを判断する上で、重要な要素となります。したがって、当該欠陥が専有部分なのか、共用部分なのかを、管理規約でよく確認することが必要です。また、共用部分に欠陥が存在する場合には、売主へ契約不適合責任(瑕疵担保責任)の他、管理組合に対する修補請求や施工業者への不法行為責任等、いくつかの責任追及の方法が考えられますので、各事情に沿った方法を選択する必要があるでしょう。