不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
不正確なマンションの方角を記載した広告に関するトラブル
事例
私は、建築中の居住用分譲マンションの新聞広告に「全戸南向き」「全戸南向きで日当たり良好・明るい室内」等と記載されているのをみて、このマンションは、全室が南向きの日当たりのよいマンションであると思い込み、モデルルームを見学後、売主業者Aからこのマンションのひと部屋を購入しました。
先月、このマンションが完成したので、私は、この部屋に入居しました。ところが、入居してみると、この部屋には、期待したような日当たりもなく、日中はほとんど日差しが差し込まないことが判明しました。その理由は、このマンションの窓やベランダなどの開口部がある方角が、真南から70度以上西に向いた方角になっているからでした。この状況は、私がこの部屋を購入する際に抱いた期待を全く裏切るものです。確かに、このマンションのパンフレットや新聞広告には、このマンションの正確な方角の記載はありませんでしたし、売主業者Aからもマンションの方角について特段の説明もありませんでした。しかし、「全戸南向き」「全戸南向きで日当たり良好・明るい室内」等の新聞広告の内容を見れば、誰でも、私と同じような期待を持つのではないでしょうか。この新聞広告の内容は、不正確と思います。このような不正確な新聞広告に問題はないのでしょうか。私は売主業者Aに対して何らかの責任を追求することができるでしょうか。
回答
売主業者Aは、あなたに対して、マンションの方角について正確な情報を提供すべき信義則上の情報提供義務を負っていました。しかし、売主業者Aは不正確な新聞広告等によってあなたに誤解を生じさせており、情報提供義務の債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負うと考えられます。
解説
1.売主の説明義務・情報提供義務
私達が不動産の購入を検討する場合、当該不動産の価格・立地・規模・設備・環境・利便性等さまざまな条件を十分に熟慮した上で、購入するか否かの決断をします。こうした不動産に関する情報を私たちに提供するのが、新聞等の広告、パンフレット、売主や媒介業者の説明であり、これらの情報が購入決定に際して非常に重要な意味を持ちます。特に、未完成物件の売買の場合には、売買契約締結時には当該物件は存在しないため、広告やパンフレットの記載、売主や媒介業者の説明によって判断せざるを得ません。
このように買主(購入予定者)にとって不動産に関する正確な情報が不可欠であるため、売主は、買主に対し、不動産購入の意思決定に関し重要な事項について、正確な表示・説明を行うべき信義則上の説明義務・情報提供義務を負うと考えられています。特に、不動産の専門家である宅建業者には、宅建業法に基づく重要事項に関する説明義務が課せられており、より高度な説明義務・情報提供義務が課せられています。
また、宅建業法では、宅建業者に対し、物件広告において、著しく事実に相違する表示や実際よりも著しく優良・有利であると誤認させるような誇大広告を禁止しています。
また、不動産業界における不動産広告の自主規制ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」では、誤解を生じやすい特定用語を列挙することを禁止する等、宅建業法より詳細な広告表示に関する規制を設けており、これらの規定に抵触する広告表示を行った事業者には、警告処分や違約金が課せられる場合があります。
2.売主業者Aの責任
では、本件分譲マンションの新聞広告や売主業者Aの説明は、上記説明義務・情報提供義務の観点から問題はなかったのでしょうか。
本件マンションの新聞広告は「全戸南向き」「全戸南向きで日当たり良好・明るい室内」等と記載しており、本件マンションは真南から45度以内の方角を向いているとの印象を与える内容となっています。ところが、実際には、本件マンションは、真南から70度以上西を向いたほぼ西向きであり、本件新聞広告は、マンションの方角について明らかに事実と異なる不正確な記載となっています。
マンションの方角は、当該物件の日照時間・明るさ等住環境に大きな影響を与える重要な要素であり、売主業者Aは、購入予定者に対して、マンションの方角について正確な情報を伝えるべき情報提供義務を負っています。ところが、売主業者Aは、新聞広告に不正確な方角を記載したまま、口頭による特段の補足説明もしていないため、売主としての情報提供義務を怠っており、情報提供義務の債務不履行に基づき、これによって生じた損害について損害賠償責任を負うと考えられます。
また、売主業者Aが、故意に、マンションの方角に関する誤った広告をしていた場合には、詐欺に該当し、買主は、詐欺に基づき売買契約を取り消すことができる可能性もあります。
本件事例と同様の裁判例では、売主業者には、マンションの方角についてできる限り正確な情報を伝え、不正確な表示・説明を行わないように注意すべき信義則上の義務があるとし、売主業者に対し一定の慰謝料の支払いを命じた判決があります(京都地裁平成12年3月24日判決)。
このような裁判例を前提とすると、本件事例においては、売主業者Aは、情報提供義務の債務不履行に基づき、あなたに対する一定の損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられます。
3.まとめ
不動産の広告には、不動産の立地・規模・設備・環境・利便性等、不動産に関する重要な情報が記載されていますが、広告という性質上、より良い印象を与えるため、誇張した表現や曖昧な記載をしているため、後にトラブルに発展する場合もあります。特に、未完成物件の場合には、広告の記載通りの物件であるかを実物で確かめることができないため、売主や媒介業者の説明によって補完することが不可欠です。広告において曖昧な記載がある場合には、売主や媒介業者により詳細な説明を求めることが重要です。