不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
所有者不明土地に関するトラブル
【Q】
数年前に父から土地を相続しました。相続した土地は過疎化が進む地方にあり、周辺地の多くは空き地になっています。相続した土地を含む周辺一帯では、これまでも事業者が土地を買収し、開発する計画が持ち上がってきましたが、周辺地には長年相続登記もされておらず現在の所有者がわからない所有者不明土地が多く、計画がなかなか進まないようです。このような所有者不明土地の増加が、社会問題化しているため新たな法律が制定されたと聞きました。どのような法律が制定されたのでしょうか。
【回答】
所有者不明土地に関して、平成30年6月6日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が成立し、令和元年6月1日に全面施行されました。同法の詳細については、後記の通りです。
【解説】
1.所有者不明土地
近年、本件事例のように、不動産登記事項証明書等によって調査しても、所有者が判明しない土地や所有者と連絡の取れない土地(所有者不明土地)が全国的に増加しています。所有者不明土地は、少子高齢化や土地所有意識の希薄化等を背景とし、相続登記がされないまま放置されること等が要因と考えられていますが、所有者不明土地が売買や公共事業の対象となった場合に、所有者の探索に多大な労力と時間を要するため、円滑な取引や事業遂行の妨げとなっています。
2.所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置
このような状況を受け、平成30年6月6日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(以下「特措法」という)が成立し、令和元年6月1日に全面施行されました。同法は、後記の通り、(1)所有者不明土地を円滑に利用するための仕組み(所有権の取得・利用権の設定)、(2)所有者の探索を合理化する仕組み(公的情報利用提供の仕組み、長期相続登記等未了土地の特例)、(3)所有者不明土地を適切に管理する仕組み(財産管理制度の特例)を設けています。
(1)所有者不明土地を円滑に利用するための仕組み(所有権の取得・利用権の設定)
所有者不明土地(相当の努力がはらわれたと認められるものとして政令で定められる方法により探索を行ってもなお、その所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいう)のうち、現に建造物(物置その他簡易な構造の建造物で一定規模のものを除く)が存せず、かつ、業務の用その他特別の用途に供されていない土地を「特定所有者不明土地」といいます。この「特定所有者不明土地」について、以下の①、②の仕組みを構築し、土地を円滑に使用することが期待されます。
① 公共事業における収用手続きの合理化・円滑化
「特定所有者不明土地」を国、都道府県知事が事業認定した事業に活用します。その事業認定は、収用委員会に代わり 都道府県知事が裁定します。これにより収用手続きに要する期間が短縮されます。
② 地域福利増進事業の創設
その事業として、「地域福利増進事業」(公園、広場等の整備に関する事業であって、地域住民その他の者の共同の福祉又は利便の増進を図るために行われるもの)を創設し、「地域福利増進事業」を実施する者に対して、都道府県知事が事業の公益性を確認し、一定期間の公告をした上で「特定所有者不明土地」に利用権(上限10年)を設定することを認めます。但し、その「特定所有者不明土地」に所有者が現れ明渡しを求めた場合は、期間終了後に原状回復をしなければなりません。なお、その所有者に異議がない場合は延長することが可能となります。
(2)所有者の探索を合理化する仕組み(公的情報利用提供の仕組み、長期相続登記等未了土地の特例)
① 土地の所有者の探索のために必要な公的情報(固定資産課税台帳、地籍調査票等)について、行政機関が利用できる制度を創設しました。
② 長期相続登記等未了土地に係る不動産登記法の特例
長期間、相続登記等がされていない土地について、登記官が、長期相続登記等未了土地である旨等を登記簿に記録すること等ができる制度を創設しました。
(3)所有者不明土地を適切に管理する仕組み(財産管理制度の特例)
所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、家庭裁判所に対する財産管理人の選任請求を、民法では、利害関係人又は検察官にのみに認めていましたが、地方公共団体の長等も請求することができる制度を創設しました。
このように特措法では、「特定所有者不明土地」について「地域福利増進事業」のための一定の使用権の設定を認めています。本件事例においても、周辺の空き地が「特定所有者不明土地」に該当し、あなたの所有地の周辺一帯で「地域福利増進事業」が計画された場合には、特措法に基づく使用権が設定され、周辺の空き地が活用される可能性があります。その際、あなたが相続した土地についても、あなたとその事業者との契約で「地域福利増進事業」の利用に供することにより、あなたの土地の有効活用が可能となるでしょう。
3.民法・不動産登記法の改正
特措法以外においても、令和元年5月17日に成立し、令和2年11月1日に施行予定の「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」では表題部所有者不明土地の登記の適正化を図るために、登記官に所有者探索のための権限の付与や、裁判所の選任した管理者による管理制度の創設等の対策が講じられています。
さらに、現在、民法や不動産登記法の改正が議論されており、民法では、共有関係にある所有者不明土地の管理・利用や相隣関係の規定の整備、遺産分割の期間制限、土地所有権の放棄制度の新設等が検討されており、また、不動産登記法では、相続登記の義務化等により相続発生を不動産登記に反映させる仕組みが検討されています。
4.まとめ
このように所有者不明土地の増加が社会問題化し、特措法をはじめ、新たな法律が制定され、また民法・不動産登記法の改正も検討されています。前記の通り、民法・不動産登記法の改正の議論では、遺産分割の期間制限や相続登記の義務化等も検討されているところですので、これまでのように相続した土地をそのまま放置することが難しくなる可能性があります。今後の法改正の動向を注視し、土地を適切に管理することが必要となります。