不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
目的物に関する重要な事項(建物の法的規制 その2)
Q
Q:私は、仲介業者の紹介するリフォーム済の中古の住宅の購入を検討しています。しかし、大規模な地震による建物の倒壊や建物内部の老朽化が社会的な関心事となっています。新築の住宅の購入と比較した場合、どのような点に注意すべきでしょうか?
A(耐震基準とインスペクション)
1 回 答
「①一般的に中古住宅は、新築住宅に比較すると安価で購入しやすいと考えられています。
②しかし、中古住宅の中には、新築住宅と異なり、最新の耐震基準を充たしていない建物や、築年数に応じた経年劣化が生じているものが見られます。
③従って、リフォーム済の中古住宅であっても、そのリフォーム内容を詳細に確認する必要があります。リフォームにより最新の耐震基準を充足する建物となっているのか、又、経年劣化に伴う補修がどの程度行われたのか更には、今後の補修の必要性の有無についても詳細な確認を行った上で購入することが大切です。
④なお、これらの調査・確認作業は、かなりの専門的な知識と経験を必要としますので、仲介業者の助力は勿論のこと、第三者の建築の専門家による建物状況調査(インスペクション)を利用することなども検討すべきでしょう。」
2 建物の耐震基準
(1)建物の構造耐力
建築物は、自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造基準に適合する必要があります(建築基準法20条)。
(2)耐震基準の変遷
①現在の建物の耐震基準は、昭和56年6月1日以降に建築された建物に適用されている耐震基準(新耐震基準)と、それ以前に建築された建物に適用されている耐震基準(旧耐震基準)に大別することができます。
②新耐震基準
阪神淡路大震災の発生を受けて、現在の新耐震基準は、一次設計(損傷限界)と二次設計(安全限界)の概念を導入し、建築物の構造計算法として従来の「許容応力度等計算」(中小地震で大きな損傷を生じさせない材料レベルの耐力計算、「荷重による応力<許容応力度」の確認)に加え、「限界耐力計算法」(大地震を想定した構造物全体+部材レベルの耐力計算、「破壊確率<許容破壊確率」の確認)を用いることが認められています。
(3)旧耐震基準の中古住宅
①中古住宅が昭和56年5月31日以前に建築された建物である場合には、新耐震基準を充足していない建物である可能性が否定できません。旧耐震基準の建物は、違法建築物ではありませんので所有することに法的な問題はありません。しかし、大規模地震に伴う倒壊の危険性は否定できません。
②従って、先ず、中古住宅の建築確認済証、又は、建物登記記録情報の表示・保存登記の年月日を確認することで、新耐震基準の建物か否かの確認をする必要があります。
②更に、中古住宅の耐震診断を行うことで、安全性に関する確認が得られます。この場合、所管行政庁に対し、地震に対する安全性に係る基準に適合している旨の認定申請を行い、認定を受けると中古住宅にその認定を受けている旨の表示を行うことができます(建築物の耐震改修の促進に関する法律)。
3 中古住宅のリフォーム
①中古住宅には、築年数に応じた経年劣化が生じているのが一般的です。
②一般の住宅は、基礎、床、屋根、柱、壁面等の主要な構造部分と、ガス、水道、給湯器、浴槽、照明等の諸設備の部分に区別できますが、いわゆる水回りと称する構造部分や諸設備は、比較的短期間に経年劣化が進行すると考えられています。
③一般的なリフォームは、経年劣化が顕著な部分を中心に行われます。その結果、経年劣化が生じていながらリフォームの対象にならなかった部分や設備について、中古住宅の引渡し直後に、補修の必要性が出てきた場合、中古住宅の隠れた瑕疵として売主の「瑕疵担保責任」の問題となる場合があります。
④又、旧耐震基準の中古住宅の場合には、耐震補強を行う場合もありますが、補強費用が比較的高額なことから必ずしも行われているとは限りません。リフォーム内容の確認に際しては、耐震補強の有無も確認して下さい。
⑤中古住宅の中には、アスベスト建材を用いている建物も存在します。現在は、人体に悪影響を与える可能性があるとしてアスベスト建材の使用が禁止されており新築住宅には使用されていませんが、中古住宅の中には使用されているものもあります。アスベスト建材の解体作業は、特別な方法を用いた作業で比較的高額な費用が見込まれます。従って、中古住宅の購入に際しては、必ず、アスベスト建材の使用の有無を確認するようにして下さい。
①中古住宅の売買に際しては、必ず、仲介業者が中心となり、契約時における中古住宅の客観的な状況を詳細に調査確認し、その結果を売主、買主の双方に確認し、その状況を書面などに記録しておくことが大切です。
②仲介業者は、媒介契約上の義務と共に重要事項説明義務の一環として、中古住宅の客観的な状況を調査確認し、買主に報告説明する責任があります。特に、アスベスト建材については、使用の有無の調査が行われているか否か、調査が行われている場合には、その内容を説明する義務があります。(宅建業法35条)。
5 建物状況調査(インスペクション)
①契約時における中古住宅の客観的な状況の調査は、売主と買主の間に立ち、公正中立な立場で行なわれる必要があります。又、その調査には、建物に関する専門的な知見を要する場合があり、建築に関する専門家の助力が必要不可欠と考えられるようになってきました。
②そこで、国土交通省も、建物に関する専門家が、売買契約の当事者(売主又は、買主)から依頼を受けて、建物の基礎・外壁などに生じたひび割れや雨漏りなどの劣化や不具合を調査する制度(建物状況調査、インスペクション)を推奨し「既存住宅インスペクション・ガイドライン」(2013年)を公表して望ましい検査項目を示すなどの普及に努めています。
③又、宅建業法の一部改正の結果、仲介業者には、中古住宅の売買の仲介にあたり、次の義務が生じます。
ⅰ依頼者に対し、インスペクション業者のあっせんの可否を書面で示す。
ⅱ中古住宅のインスペクションが行われているか否かを確認し、行われている場合には、その結果を買主に説明する。
④なお、インスペクションの調査料金は、調査の内容にもよりますが、調査時間が2~3時間程度の内容の場合5万円~6万円程度から行うことが可能と思われます。この費用を買主が負担する場合、中古住宅の取得費用がその分割高になる面がありますが、安心して購入できる面を重視すれば、検討に値するものと思料します。
6 新築住宅の瑕疵担保の保証
①ところで、新築住宅(完成後1年以内、かつ、未使用)の場合には、売主の瑕疵担保責任やその履行責任が加重されています。
②新築住宅の基本構造部分等の一定部位の瑕疵担保責任期間を引渡から10年以上としています(住宅の品質確保の促進に関する法律)。他の部位の瑕疵担保責任の期間は、売主の住宅販売会社(宅建業者)が新築住宅を引渡から2年以上ですので(宅建業法)、加重されています。
③又、瑕疵担保責任の履行を確保する狙いから、住宅販売業者に対し、一定基準日の間に販売した新築住宅の戸数に応じた一定額の住宅瑕疵担保保証金の「供託」、又は、一定の「保険契約の締結」を義務付けています(住宅瑕疵担保履行法)。
7 比 較
①近時、新築住宅の供給戸数が横ばいから下降傾向となることが予測される中で、中古住宅の市場は、拡大の傾向にあります。あなたは、次の比較の上で選択を行って下さい。
②新築住宅は、一般的に瑕疵の存在する可能性が低く、仮に、瑕疵が存在した場合でも前記の瑕疵担保の保証の制度が存在し安心感がありますが、売買価格は、高額と思料されます。
③中古住宅は、耐震性の不足や経年劣化による瑕疵の可能性があり、又、瑕疵が存在した場合の瑕疵担保の保証は、特別な保証制度を活用しない限り約定に従うか、約定がない場合には、瑕疵の存在を知ってから1年以内に限り瑕疵担保責任を負担します。なお、約定の一般的な内容には、売主が個人の場合は、 雨漏り・シロアリの害・建物構造上主要な部位の木部の腐蝕・ 給排水管(敷地内埋設給排水管を含む)の故障について引渡完了日から3ヶ月以内に請求を受けたもの。又、売主が宅地建物取引業者の場合は、引渡完了日から2年以内に請求を受けたものについて売主が瑕疵担保責任を負うとするものがみられます。しかし、前記のインスペクションを活用することで、瑕疵の有無などを調査することができ、中古住宅の品質や性能に対する適切な評価が可能となり、紛争の予防に役立ちます。又、売買価格が低額と思料されます。