不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
駐車場として賃貸中の土地の売却に関するトラブル
【Q】
私は、自宅に隣接する所有土地を、数年前から、A法人(借主)に対し、Aの社用車10台の駐車及びこの土地の隅に付属設備(プレハブ倉庫)を設置することを認める土地賃貸借契約を行ってきました。しかし、私が高齢となってきたことから、次の契約更新のタイミングで借主Aとの本件土地賃貸借契約を終了させ、本件土地をBに売却したいと考えています。もし、借主Aが本件土地賃貸借契約の契約更新を希望した場合、私はこれを拒否し、期間満了により土地賃貸借契約を終了させ、Bに本件土地を売却することができるでしょうか。
【回答】
あなたの本件土地賃貸借契約は借地借家法の適用を受けない土地賃貸借契約と考えられるため、仮に、借主Aが契約更新を希望した場合でも、あなたはこれを拒否し、期間満了により土地賃貸借契約を終了させることが可能です。従って、買主Bに対し、借主Aの賃借権が存在しない土地として本件土地を売却することができるでしょう。
【解説】
1 土地賃貸借契約と借地借家法
本件土地賃貸借契約の期間満了を迎え、借主Aから契約更新を求められた場合、あなた(貸主)がこれを拒むことができるかどうかは、本件土地賃貸借契約に借地借家法が適用されるか否かによって結論が異なります。
(1)借地借家法の適用のある土地賃貸借契約
借地借家法は、旧借地法、旧借家法を統合した民法の特別法として成立し、平成4年8月1日に施行され、一時使用契約を除く、土地に関する建物の所有を目的とする地上権や賃貸借の設定契約(一般的に借地契約と呼んでいます)、並びに、建物の賃貸借契約について適用され、借地人・借家人の権利を保護する観点から、存続期間、契約更新の要件、効力等に関する規定を定めています。
借地借家法では、借地契約に関し、①存続期間(下限30年)、②契約更新後の存続期間(下限1回目20年・2回目以降10年)を定め、③契約更新の要件(更新拒絶に正当事由必要)等の借地契約の継続性を重視した規定を設けています(なお、借地借家法の施行前に締結され施行後に更新が行われ存続する契約には、旧借地法、旧借家法が適用されます)。
そのため、地主(賃貸人)の立場にたつと、借地借家法の適用のある土地賃貸借契約では、契約を終了させ、土地の返還を求めることが容易ではなく、借地権の存在が大きな負担となる場合があります。
(2)借地借家法の適用のない土地賃貸借契約
一方で、駐車場や資材置場での利用等、建物所有を目的としない土地賃貸借契約は、借地借家法の適用を受けないため、民法の規定に基づき、契約期間を自由に定めることができ(50年以下)、又、更新拒絶に正当事由が必要とされず、契約期間満了により賃貸借契約を終了させることができます。
このように、土地賃貸借契約が借地借家法の適用を受けるか否かによって、土地賃貸人・賃借人双方の立場に大きな違いが生じます。
2 「建物の所有を目的とする」土地賃貸借契約
本件設問では、借主Aは本件土地上に10台の社用車を駐車させ、その隅にプレハブ倉庫を設置して利用しているようですが、本件土地賃貸借契約に借地借家法は適用されるのでしょうか。
借地借家法は前記のように「建物の所有を目的とする」土地賃貸借契約を対象とします。裁判実務では、同法における「建物の所有を目的とする」とは、契約の「主たる目的」が土地上に建物を所有して利用する場合をいい、土地利用の「従たる目的」としての建物の所有はこれには当たらないとしています(東京地裁平成7年7月26日判決)。
したがって、建物所有を目的としない利用(駐車場や自動車展示場等)が「主たる目的」である場合に、それに付帯して付属設備(事務所・倉庫)を建築し利用する行為は、「従たる目的」にすぎず、当該契約は「建物の所有を目的とする」土地賃貸借契約に該当しないと考えられます。
各土地賃貸借契約において、何が「主たる目的」「従たる目的」であるのかは、各事案の契約締結の経緯・契約書の文言、利用状況・建築物の構造等の諸事情により判断されます。
本件土地賃貸借契約では、現実の利用状況や使用面積等から、駐車場としての利用が主たる目的であり、本件土地の隅に設置された付属設備(プレハブ倉庫)は従たる目的にすぎず、本件土地賃貸借契約に借地借家法が適用されないと判断される可能性が高いと考えられます。したがって、あなたは、期間満了により、本件土地賃貸借契約を終了させ、借主Aに対し土地の返還を求めることができ、その結果、予定通り買主Bに本件土地を売却することができるでしょう。
3 まとめ
前記の通り、土地賃貸借契約に借地借家法が適用されるか否かによって、契約期間・契約の終了・契約更新等における地主(土地賃貸人)の立場は大きく変わってきます。
したがって、駐車場・自動車展示場・ガソリンスタンド等、主たる目的遂行のため、付属設備の建築が予定される土地賃貸借契約を締結する場合には、付属設備の詳細(構造・面積・利用目的等)を明確にし、借地借家法の適用の有無を事前に明確にした上で契約を締結することが大切になります。