不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
共有不動産に関するトラブル(共有物の管理・処分と共有物分割請求)
共同相続により共有となった住居の管理・処分をめぐり共有者間で意見が対立した場合、どのような解決手段があるのでしょうか。
Q
私は、父の家に同居していましたが、数年前に父が亡くなり、私が居住を継続することを前提に、その家を、私と弟が各2分の1の持分で共有する遺産分割協議を行いました。その後、私は、この家で生活を続けていますが、昨年、弟が急に亡くなり、弟の妻が、弟の共有持分を相続しました。私はこれまで通り、この家で生活を続けたいのですが、弟の妻は、この家を売却し代金を分配して欲しいと主張し意見が対立しています。又、売却処分するまでの間の持分に応じた使用料の支払いも求めています。
(1)私は、弟の妻が主張するように、この家を売却しなければならないのでしょうか?又、妻に対し使用料を支払う必要があるのでしょうか?
(2)もし、私が、この家の売却を拒否し居住を続けた場合、弟の妻は、この家の分割を請求できるのでしょうか?又、その場合、妻に対し使用料を支払う必要があるのでしょうか?
A
(1)共有不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。あなたは、この家の2分の1の共有持分を有していますので、弟の妻は、あなたの意思に反してこの家を売却できません。又、この家の遺産分割協議の内容を見る限り、あなたは、この家の使用料を支払う必要がないと考えられます。
(2)仮に、あなたが、この家の処分を拒否し居住を続ける場合には、弟の妻は、この家の共有物分割請求訴訟を提起することができます。その訴訟の中で、この家の共有状態を解消するか否かが決められることになるでしょう。又、使用料の支払の必要性の有無も判断されるでしょう。
解説
1.共有物の保存・管理・処分と遺産分割協議
(1)家が単独所有の場合には、所有者は、法令の制限内において、家を自由に使用、収益、処分できる権限を持っています(民法206条)。しかし、共有物の場合には、各共有者は、共有物の全部について自己の持分に応じた使用(民法249条)、及び、保存行為(修繕等の共有物の現状を維持する行為)を単独で行うことができますが、管理行為(賃貸借契約等の共有物を利用・改良する行為)を行なうには、共有持分の過半数の同意が必要であり、また、変更や処分行為(売却等の共有物の性質に変更を加える行為)を行なうには、共有者全員の同意が必要です(民法251条、252条)。
(2)ご質問の家は、亡父の共同相続により、あなたと弟の共有物、又、その後弟の死亡により、あなたと弟の妻の共有物となっています。従って、家を処分するには、共有者全員の同意が必要であり、あなたが売却に同意しない限り、弟の妻の意思だけで売却することはできません。ただし、共有者は、自己の共有持分を自由に処分することができるため、弟の妻は、家の2分の1の共有持分を第三者に売却することが可能です。その場合、家は、あなたとその第三者との共有物になり共有状態が続きます。
(3)ところで、あなたの居住する権利について考えてみます。この家はあなたと弟(その後は妻)の共有物ですから互いに家を利用する権利があります。しかし、家を共同利用しない場合には、両者間でどの様に管理・利用するかを合意する必要があります。これを「共有物の管理・利用に関する合意」といい、前記の共有物の管理行為に該当する合意です。
あなたと弟が行った家の遺産分割協議は、あなたが居住を継続することを前提にした共同相続の合意ですので、「家(共有物)の管理・利用に関する合意」を含むものと考える余地があります。この場合、あなたと弟は、あなたが家を単独で無償利用する使用貸借契約の合意を行ったものと考えることができます。又、この合意に基づく弟の地位(権利義務)は、弟の死亡に伴い妻に承継されます。従って、あなたは、家の無償使用が終了するまでは使用料の支払をする必要がないと考えることができます。
2.共有物分割請求
(1)本件のように共有物の管理や処分をめぐり、共有者間で意見が対立し、事態が硬直化することを回避するため、共有者は、他の共有者に対し、いつでも共有物の分割請求を行い、共有状態の解消を求めることができます。ただし、共有物分割禁止特約がある場合には、特約で定めた期間は分割をすることができません(256条但書)。
(2)共有物の分割請求は、共有者間の協議によりますが、協議が調わない場合には、共有物分割請求の調停や訴訟を提起し裁判手続の中で行うことができます。共有物の分割方法には、①現物分割(共有物を物理的に分割する)と②競売による換価分割(共有不動産を競売手続によって売却し、その売却代金を分割する)が規定されていますが(民法258条2項)、裁判実務上は、③全面的価格賠償による分割(代償金分割、特定の共有者の単独所有とし、他の共有者に金銭を支払うことで精算する方法)があります。
<最高裁判例 平成8年10月31日>
「共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況、及び、分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望、及び、その合理性の有無等の事情を総合的に判断して共有者のうち特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払い能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害さないと認められる特段の事情が認められるときは、全面的価格賠償による分割の方法も認められる」
(3)本件の家は、物理的な分割が不可能ですので現物分割はできません。従って、全面的価格賠償による分割か競売による換価分割が考えられます。しかし、全面的価格賠償による分割は、あなたや妻に他の共有者の持分を買い取るだけの資金力が必要であり、それがない限り困難な方法です。又、競売による換価分割は、家の競売価格が市場価格よりも低い価格となり最終的な分配額が減少する短所がありますが、他の分割方法が不可能な場合には最終的な方法となります。
(4)ところで、あなたが家の居住を継続している場合に、弟の妻からの共有物分割請求が認められるか、又、使用料の支払義務があるかについては、慎重な判断が必要です。裁判の実務では、「共有物分割の方法としての競売の命令が、共有取得する前提とした家(共有物)の使用関係(使用者が存命中家を使用する)を合理的な理由なく覆すものであるときは権利の濫用に該当する」として共有物分割請求を認めません(東京高裁判決平成25年7月25日)。
また、「被相続人の住居に同居する相続人は、被相続人との間で、住居に関する使用貸借契約の存在が推認され、相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間の住居の利用は、法律上の原因によるもので不当利得に該当せず、他の共同相続人からの不当利得返還請求(使用料の請求)を認めない」としています(最高裁判決 平成8年12月17日)。
本件の遺産分割協議は、あなたが家に居住を続けることを前提に成立し又、現に利用を継続してきた事実を見れば、あなたと弟の「家の使用貸借」の合意を含むものと考えることができます。その場合、妻からの共有物分割請求が、あなたの家の使用関係を合理的な理由なく覆すものであるか否かを検討し、共有物分割請求の成否が判断されるでしょう。一方、妻からの使用料の請求については、あなたに「住宅の使用貸借」関係が認められる限り不当利得には該当せず支払う必要はないでしょう。
まとめ
共有不動産の管理や処分をめぐり、共有者間で意見が対立した場合、最終的には共有物分割請求により共有状態を解消することで紛争解決を図る必要があります。しかし、共有物分割請求にも上記の様々な問題が生じます。従って、本来は、共有者全員が、共有状態となる際に共有物を誰がどの様に管理・処分するのかを明確に合意しておくことが大切です。遺産分割協議や不動産の共同購入に際しても、同様の配慮を行って下さい。