不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
購入した区分所有建物の漏水に関するトラブル
【Q】
約半年前、私は、売主業者Aから新築の投資用ワンルームマンション(以下「本物件」)を購入しました。現在、本物件を、私が賃貸人として、賃借人Bに賃貸しています。
先月、管理会社から「本物件内の給水管の故障により漏水が発生し、賃借人Bが水道を使用できない状態であり、また、下階の部屋(所有者C)に漏水被害が生じた」との報告がありました。その後の調査により、施工業者Dの給水管設置時の施工不良による漏水との報告を受けました。故障した給水管は、本物件の付属設備であり、私の所有物です。
(1) 私は、賃借人Bに対して、どのような責任を負うのでしょうか。
(2) 私は、下階の所有者Cに対して、どのような責任を負うでしょうか。
(3) 私が自費で給水管を修繕し、また、下階の所有者Cへの被害賠償を行った場合、売主業者Aや施工業者Dに対して、責任追及をすることができるでしょうか。
【回答】
(1)あなたは、賃借人Bに対して、賃貸借契約に基づき給水管を修繕する義務を負っています。賃貸人の修繕義務に基づき、給水管を速やかに修繕する必要があります。
(2)あなたは、下階の所有者Cに対して、不法行為責任(工作物責任)に基づき、漏水被害を損害賠償する責任があります。
(3)あなたは、修繕費用や賠償費用等の損害に関し、売主業者Aに対して、契約不適合責任に基づく損害賠償請求を、また、施工業者Dに対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると考えられます。
【解説】
1 区分所有建物における漏水事故
区分所有建物で漏水事故が発生した場合、各区分所有者間、賃貸物件の場合には賃貸人と賃借人間、管理組合、区分所有建物の売主と買主間、給水管の施工業者等様々な関係者の中で誰がどのような責任を負担するのかが問題となり、各当事者間の権利・義務関係を整理した上で、適切に対応をする必要があります。
本件設問では、本物件に設置された給水管の施工不良に起因し、給水管の故障による漏水が発生し、賃借人Bは水道を使用できず、下階の区分所有者Cに漏水被害を生じさせています。したがって、まず、あなたと被害者である賃借人B、下階の区分所有者C、それぞれとの法律関係を整理した後、あなたと施工不良のある給水管を含む本物件を売却した売主業者Aとの関係、また、施工不良を行った施工業者Dとの関係を整理してみたいと思います。
2 賃借人Bへの責任
あなたは、本物件の所有者であると当時に、賃借人Bとの関係では、本物件の賃貸借契約上の賃貸人の立場にあります。したがって、賃貸人であるあなたは、賃借人Bに対して、本物件を契約通りに使用収益させる賃貸借契約上の義務を負っています。
したがって、本物件に故障や不具合が生じ、使用に支障が生じた場合には、あなたはこれを速やかに修繕する義務を負います(但し、賃借人Bに帰責性のある故障や不具合の場合は除きます)。この賃貸人の修繕義務は、施工業者の施工ミスや自然災害等、賃貸人と無関係に生じた不具合であっても、賃貸借契約が存続する場合には免れることができません。
本件設問では、施工業者Dの施工不良に起因する給水管の故障のようですが、あなたは、賃借人Bに対して、給水管の修繕義務を負担しており、速やかに修繕する必要があります。
3 下階の区分所有者Cへの責任
あなたは、本物件の区分所有者として、本物件から漏水被害等が発生しないように適切に維持管理する義務を負っています。これを怠り、漏水被害を発生させた場合には、あなたは、維持管理義務違反に基づく損害賠償責任(不法行為責任・工作物責任)を負う可能性があります。特に、工作物責任における所有者の責任は、無過失責任と考えられています。本件区分所有建物は「工作物」に該当し、その付帯設備である本件給水管も工作物の一部ですので、本件給水管の故障や不具合が「工作物」の「設置・保存の瑕疵」と認められる場合には、本件区分所有建物の所有者であるあなたには、下階の所有者Cに対し、工作物責任に基づく賠償責任を負うと考えられます。
4 売主業者Aへの責任追及
本物件は、新築マンションとして売買されており、売買契約当時から給水管に施工不良が存在することは、売買目的物の契約不適合に該当すると考えられます。
したがって、あなたは、売主業者Aに対して、契約不適合責任に基づき、あなたが負担した本物件の修繕費用や下階の所有者Cへの賠償費用等の損害賠償を請求することができると考えられます。
5 施工業者Dへの責任追及
本件漏水被害は、施工業者Dの給水管の施工不良を起因として生じたものです。給水管の施工不良が施工業者Dの故意または過失に基づく場合には、あなたは、施工業者Dに対してあなたが負担した修繕費用や下階の所有者Cへの賠償費用等の損害を不法行為に基づく損害として賠償請求できる可能性があります。
6 まとめ
区分所有建物において漏水被害が発生した場合、複数の関係者の中での権利関係が複雑になります。実際には、区分建物所有者、入居者が加入している保険によって賠償が実現されるケースが多いと考えられますが、事故発生によって、法律上の権利・義務が、誰に、どのような内容で帰属するのかを整理・理解することは、適切な対応を行う上で重要です。