不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
目的物に関する重要な事項(宅地・建物の法的規制 その1)
Q
Q:私は、最近、気に入ったマイホーム(新築戸建住宅)を見つけましたので購入しようと考えています。しかし、最近の二ユース等を見ていると、軟弱地盤や液状化現象等により住宅が傾いたとか、ゲリラ豪雨や大量の豪雨による河川や道路の氾濫や水没、地域一帯の水害や土砂災害、更には、巨大な地震や津波による住宅等の崩壊や流失等の自然災害による甚大な被害の報道が繰り返されています。私は、購入しようとするマイホームに、こうした住宅の傾きや自然災害等の脅威を受ける可能性があるのではないかと不安を感じています。こうした不安を調査する機会はあるのでしょうか?
A(軟弱地盤、自然災害や防災に関する情報提供)
1 回 答
「①あなたは、マイホームを購入する際に、仲介業者から、マイホーム自体のリスク、及び、その周辺から生じる可能性のある様々な災害やその危険性等に関する情報の提供を受けることができます。
②仲介業者は、媒介契約上、及び、宅建業法上の重要事項説明義務等の一環として、あなたが購入しようとするマイホーム自体のリスク、及び、その周辺から生じる可能性のある災害やその危険性等に関する様々な情報を収集し、あなたに対し詳細な説明を行う法的義務があります。
③従って、あなたは、仲介業者のその情報提供や説明に基づいて、あなたが購入しよとするマイホームが有する様々なリスクや自然災害等の危険性を考慮しながら、マイホームの価値を正しく評価して購入を検討すべきです。」
2 宅地の抱えるリスク問題
(1)宅地は、地上に住宅等の建物を建築して生活に利用する土地ですから、安全な土壌であると共に、地上建物の荷重に耐えられるだけの地盤の強度が必要です。
(2)又、その住宅で安全に生活するには、その宅地を含む周辺一帯の地域が自然災害等の脅威に対しても安全であることが求められます。
(3)前記(1)が、宅地の土壌汚染の有無や地盤強度等の問題であり、(2)が、宅地を含む周辺地域の自然災害等の脅威の予見性と対応策の問題です。
(4)いずれも、当該宅地が抱えているリスクの問題と考えられています。
3 土壌汚染と地盤強度
(1)土壌汚染
①宅地は、元の利用形態が工場などであった場合に、その工場が長年に亘り排出した廃液などが地中に浸透することで土壌が有害物質に汚染され、その有害物質を摂取することで人の健康に悪影響を与える危険性が存在することがあります。
②土壌汚染対策法は、そうした健康被害を防止する目的で、土地の所有者等に対し一定の場合に土壌汚染状況の調査義務を課し、その調査の結果、汚染状態が指定基準を超えた場合には、汚染除去などの措置が必要な「要措置区域」の指定を行い、汚染除去等の措置を指示し、土地の形質変更を原則禁止します。汚染の除去が行われた場合には、その指定を解除します。
③前記の土壌汚染状況の調査義務は、有害物質使用特定施設(有害物質の製造、使用、処理等の施設)の使用廃止時、3000平米以上の土地の形質変更の届出の際に土壌汚染のおそれがあると知事が認める時、又は、土壌汚染による健康被害が生じるおそれがあると知事が認める時に生じますが、自主的な調査による場合もあります。
④比較的大規模な宅地造成の場合には、販売業者が、自主的に土壌汚染調査を行う場合が見られますが、小規模な宅地造成や既存の宅地の販売の場合には、必ずしも、土壌汚染調査が行われているとは限りません。従って、購入するあなたが、売主や仲介業者と協議して、土壌汚染調査を行うことを検討する必要があります。
⑤土壌汚染が認められる場合には、その除去等の対応に、費用と時間を要しますので、土壌汚染の事実が認識されずに売買契約が行われますと、宅地の隠れた瑕疵となり、売主の瑕疵担保責任の問題に発展することがあります。
⑥その為、仲介業者は、前記③の一定の場合にかかわらず、その宅地に土壌汚染が生じる可能性のある使用の履歴がないかを調査します。又、土壌汚染の調査がされている場合には、その結果を確認し、媒介契約上の調査義務、及び、重要事項の説明義務として宅地の履歴調査や土壌汚染の調査結果の報告と説明を行う義務があります。
⑦なお、宅地の売主も、土壌汚染の可能性のある土地利用の事実を認識し得た場合には、信義則上の附随義務として宅地の来歴や従前の利用方法について説明をする義務があるとの裁判例もあります。
(2)地盤強度
①宅地の地盤強度が軟弱な場合、時間の経過とともに宅地の各部の沈下量が異なり、不均等に沈下する不同沈下の現象が発生し、地上の建物が傾斜したり、各部が歪んで損傷する場合があります。
②宅地の地盤軟弱性は、元々、池、沼、河川、海岸、畑等の軟弱性の高い土地を埋立造成した宅地に多く見受けられます。
③その為、仲介業者は、宅地の従前の利用状況まで遡り調査確認し、その地盤の軟弱性の有無の予見を行い、その事実と対応策をあなたに説明します。
④なお、宅地が軟弱地盤であっても、地盤改良工事を行い、更に、地上建物の基礎工法の工夫等(地中の固い岩盤まで基礎杭を埋設)により、不同沈下をある程度防止することが可能です。
⑤宅地の売買を安全に行うには、当該宅地の地盤調査を行い、地盤強度を確認し、必要な補強工事を行うことを前提にした契約の取組が必要です。
⑥最近は、大規模な地震の発生に伴い地上建物の地盤面に液状化現象が生じ、地上建物の傾斜や倒壊、損傷が生じる被害が発生しています。
⑦土地の液状化現象は、土粒と水分が結合している全ての土地が有するリスクと言われ、地震の規模如何によりますが、かなりの広範囲に発生する可能性があると言われています。又、元々、池、沼、河川、海岸、畑等の保湿性が高い土地であった宅地は、液状化が発生し易い土地と言われており、各地域に存在する液状化マップ等により、液状化が生じやすい地域を調査することができます。こうした調査を行うことも仲介業者の重要な義務です。
⑧宅地の売買に際し、こうした地盤強度等が想定していたものより軟弱であり、又、地盤補強の程度が不十分であった場合には、宅地の隠れた瑕疵として瑕疵担保責任の問題となる場合があります。
⑨従って、仲介業者は、その宅地の来歴、液状化マップ、地盤調査結果等を確認し、地盤の軟弱性の可能性を予見し、又、地盤補強工事が必要な場合には、その補強工事の具体的な内容などについても調査確認して、買主等に具体的な説明を行う必要があります。最近、こうした具体的な説明義務を求める判決例も見られますので注意して下さい。
4 自然災害等の脅威
(1)最近、各地の住宅において、宅地造成地内の崖崩れや地滑りなどの災害周辺地域の急傾斜地の崩壊、地滑り、土石流などの土砂災害、大規模な津波による津波災害、更には、河川の氾濫やゲリラ豪雨による洪水や浸水被害など、様々な自然災害の報道に接することが多くなりました。
(2)あなたが購入しようとするマイホームが、こうした自然災害の脅威から安全な位置にあるのか、又は、危険な位置にあるのかを事前に確認することは、マイホームの価値評価においても、とても重要なことです。
(3)そのため、仲介業者は、あなたに対し、媒介契約上の義務、及び、宅建業法上の重要事項説明義務として、次項以下(4)から(7)に関する説明を行います。
(4)造成宅地防災区域内の宅地か否かの説明
①宅地造成等規制法は、宅地造成に伴う災害が生ずるおそれが大きい土地の区域に「宅地造成工事規制区域」を指定して、その地域の宅地造成工事を知事等の許可制にすることで崖崩れや地滑りなどの災害を防止することにし、又、その地域の宅地の所有者等に、崖崩れ等の災害が生じないよう、常に安全な状態を維持する責務を与えました。
②更に、同規制法は、「宅地造成工事規制区域」以外の区域(含む・付帯する道路等)に存在する一団の造成宅地についても、災害による相当数の居住者に危害が発生するおそれが大きいと知事などが判断する場合には、「造成宅地防災区域」の指定を行い、同区域内の宅地の所有者等に災害防止の為の擁壁等の設置等の措置を講ずる責務を与えました。
③従って、あなたのマイホームが、「宅地造成工事規制区域」内にある場合には安全な状態を維持する責務が、「造成宅地防災区域」内にある場合には擁壁等の設置等の措置を講じる責務がありますので注意して下さい。
(5)土砂災害警戒区域内の宅地か否かの説明
①急傾斜地の崩壊、地滑り、土石流などの土砂災害から人命や財産を守る対応策は、土砂災害の発生の危険箇所に安全な状態にする対策工事を行うとともに、危険性のある区域を明らかにして、警戒避難体制の整備や危険箇所への新規住宅等の立地の抑制としています(土砂災害防止法)。
②同法は、都道府県に、基礎調査を実施し、土砂災害の発生により住民等の生命や身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域を「土砂災害警戒区域」に指定し、土砂災害ハザードマップによる危険の周知と、市町村地域防災計画において、土砂災害に関する情報の収集、伝達、予警報の発令、警戒避難体制の整備を行うように定めています。
③又、土砂災害の発生により、建築物の損壊が生じ住民の生命、身体に著しい危害が生じるおそれが認められる区域を「土砂災害特別警戒区域」に指定し、特定の開発行為の許可制や建築物の構造規制を行っています。
④従って、あなたのマイホームが「土砂災害警戒区域内」内にあるか否かは、土砂災害ハザードマップで確認することができ、仮に、区域内にある場合には、土砂災害に関する予警報の発令に注意するとともに、警戒避難体制を確認しておく必要があります。
(6)津波災害警戒区域内の宅地か否かの説明
①東日本大震災は、巨大な地震による津波によって、広域に亘る大規模な被害を発生させました。今後発生が予測される大規模な津波による災害から国民の生命、身体、財産の保護を図る目的で「津波防災地域づくりに関する法律」が平成23年12月に制定されました。
②同法では、知事が、津波が発生した場合に住民の生命、身体に危害が生じるおそれがあると認められる土地の区域を「津波災害警戒区域」に指定し、市町村地域防災計画において、津波に関する情報の伝達方法、避難施設や避難経路の周知を行うことを定めました。
③更に、知事は、津波が発生した場合に住民の生命、身体への著しい危害の発生のおそれがあると認められる地域を「津波災害特別警戒区域」に指定し、その区域での開発行為や建築行為を制限することができます。
④従って、あなたのマイホームが「津波災害警戒区域」内にある場合には、津波に関する情報の伝達、避難施設や避難経路の確認を注意する必要があります。
(7)洪水、雨水出水、高潮の各浸水想定区域、浸水被害対策区域の確認
①水防法では、国交大臣や知事は、河川等の氾濫による洪水や浸水被害発生時の円滑な避難や浸水防止を目的に洪水・浸水被害のおそれがある地域を「洪水浸水想定地域」に指定します。
②又、知事や市長は、ゲリラ豪雨等により各施設や道路等の各排水施設の処理能力を超える降雨が発生した場合に、雨水出水特別警戒水位に達した旨を水防管理者に通知するとともに、一般にも周知させます。又、浸水が想定される区域を「雨水出水浸水想定区域」に指定します。
③更に、知事は、高潮による相当な損害を生じるおそれがある海岸について、高潮特別警戒水位に達した旨を水防管理者に通知するとともに、一般にも周知させます。又、高潮の氾濫による浸水が想定される区域を「高潮浸水想定区域」に指定します。
④下水道法では、都市機能が集積し、公共下水道の整備だけでは浸水被害の防止が困難で著しい浸水被害が発生するおそれがある区域を「浸水被害対策区域」と定め、民間による雨水貯留施設の整備を促進しています。公共下水道管理者は、民間施設の「管理協定」を締結し自ら管理を行うことができます。
⑤従って、あなたのマイホームが、こうした区域内にある場合、洪水、雨水、高潮などの災害被害の危険性が存在します。又、あなたの雨水貯留施設が「管理協定」の対象であれば、公共下水道管理者の指示に従う必要性が生じます。あなたは、事前にこれらを確認する必要があります。