専門家執筆Q&A
不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

不動産売買契約で起こり得るトラブルに関してQ&A形式で解説します。

宅地建物取引業者の役割・媒介契約

Q
媒介業者

「媒介業者」は、不動産売買においてどのような役割を果たしているのでしょうか。

A

1 宅地建物取引業者の役割

(1)

宅地建物取引業者は、国土交通大臣や都道府県知事から宅地建物取引業の免許を与えられた有資格者であり、不動産売買取引では「売主」「買主」となる場合がある他、「媒介」や「代理」の立場で関与します。

(2)

宅地建物取引業者は「媒介業者」として関与する場合、売主と買主の間に入り、以下の手続きが円滑に進むように尽力することを業務としています。

売買契約成立に向けた準備・交渉業務
資料収集、物件調査、価格査定、現地案内、取引条件の交渉・調整等

売買契約締結の補助業務
重要事項説明書の交付・説明、売買契約書の作成・交付、売買契約の立会い

売買契約の履行の補助業務
代金決済・登記手続き・引渡し

2 宅地建物取引業法

 宅地建物取引業者は、同法により、以下①②の義務を負担しています。

売買契約成立までの間に重要事項説明書を作成し、「宅地建物取引士」が同書面に記名して買主に交付し重要事項の説明を行うこと

売買契約成立後に契約内容を書面にし「宅地建物取引士」が記名して当事者に交付すること(取引実務では、売買契約書の作成・交付を行っています)

 「宅地建物取引士」は、「宅地建物取引士」の資格試験に合格し、「宅地建物取引士」の登録を行っている不動産取引の専門的知識を有する資格者です。
 これらの「媒介業者」の業務は、不動産取引経験の少ない一般消費者が取引物件に関する情報・法規制・取引条件等を十分に理解し、正確な情報をもとに契約締結の意思決定をするために重要な役割を果たしています。

Q
重要事項説明

重要事項の説明とは、どのような内容を説明するのでしょうか。

A

1 重要事項説明とは

 一般の消費者は、通常、取引しようとする物件の権利関係や法規制等を調査する能力や取引条件を理解する能力を持ち合わせていないため、不動産取引の専門家である宅地建物取引業者が取引に関与し、重要事項説明を通じて、物件に対する法規制や取引条件を調査・説明することが、後のトラブル防止のために重要になります。
 そのため、宅地建物取引業法は、売買契約が成立するまでの間に、宅地建物取引業者が下記の(1)「対象物件に関する事項」、(2)「取引条件に関する事項」、(3)「その他契約締結の判断に影響を与える重要事項」について重要事項説明書を作成し、宅地建物取引士が同書面を買主に交付して説明することを義務付けています。

(1)

対象物件に関する主な事項

登記記録に記録された事項(不動産の所有者、権利関係等)

都市計画法、建築基準法等の法令に基づく制限の概要

私道に関する負担等に関する事項

飲用水・電気・ガスの供給施設および排水施設の整備状況

宅地造成又建物建築の工事完了時における形状、構造等(未完成物件の場合)

一棟の建物またはその敷地に関する権利およびこれらの管理・使用に関する事項

建物状況調査の結果の概要(既存の住宅のとき)

建物の建築および維持保全の状況に関する書類(原本)の保存の状況・耐震診断の内容

建築確認済証等の発行年月日・番号

住宅性能評価を受けた新築住宅である場合等

石綿使用調査の内容

当該宅地建物が造成宅地防災区域内か、土砂災害警戒区域内か、津波災害警戒区域内か

水防法の規定により市町村の長が提供する図面(水害ハザードマップ)における当該宅地建物の所在地

その他関係法令等

(2)

取引条件に関する主な事項

代金及び交換差金以外に授受される金額の金額・目的

契約解除事項

損害賠償額の予定・違約金に関する事項

手付金等の保全措置

支払金・預り金の保全措置

金銭貸借のあっせんに関する措置

契約不適合責任の履行に関する措置

割賦販売に係る事項等

(3)

その他契約締結の判断に影響を与える重要事項

 その他の取引建物内で生じた過去の歴史的な事情や周辺環境等、売買契約締結の判断に影響を与えうる事項等

 以上の重要事項説明により、不動産に関する客観的状況、過去の歴史的な事情、将来の状況、取引条件の注意点を認識することが出来ます。
 なお、重要事項の説明は、宅地建物取引士が買主に対し宅地建物取引士証を示して、売買契約成立までに行う事とされていますが、売買契約締結直前の場合には、一般消費者が正しく理解することができない場合も想定されますので相応の時間的余裕のあるできるだけ早期に行うことが望ましいでしょう。

2 ITを活用した重要事項説明

 重要事項説明は、宅地建物取引士が対面で行う事が原則でしたが、2021年3月30日より、テレビ電話等のITを活用したオンラインによる重要事項説明が開始されました。オンラインによる重要事項説明は、取引関係者の同意を得た上で下記①~④の要件を満たす必要があります。
[オンライン重要事項説明の要件]

宅地建物取引士と重要事項説明を受ける者が映像・音声において双方向にやりとりできるIT環境が整っていること

宅地建物取引士が記名した重要事項説明書等を、説明を受ける者に対して事前に送付していること

重要事項説明を受ける者が重要事項説明書等を確認しながら説明を受けることができる状況にあること並びに映像及び音声の状況について、宅地建物取引士が重要事項開始前に確認していること

宅地建物取引士が宅地取引士証を提示し、説明を受ける者がこれを画面上視認できたことを確認していること

Q
媒介契約

不動産の売却の「媒介」を宅地建物取引業者に依頼する予定ですが、媒介契約を結ぶ際にどのような点に注意する必要があるでしょうか。

A

 媒介契約には、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類があり、各契約は下記の表の通り、他業者への媒介依頼・自己発見取引・業務処理の報告義務・指定流通機構への登録義務等に関して違いがあります。媒介契約の内容によっては、他の宅建業者への媒介の依頼や自己発見取引(自分で契約相手を見つける)によって売買契約を成立させることは禁止されています。禁止された他業者への依頼や自己発見取引によって契約を成立させた場合には、費用償還や違約金の請求を受ける場合もあるため注意が必要です。これらの注意点を下記の表にまとめてみましたのでご覧ください。

一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
他の業者への依頼 依頼できる 重ねて依頼できない 重ねて依頼できない
自己発見取引 認められる
(通知義務あり)
認められる
(通知義務あり)
認められない
指定流通機構への
登録義務
登録することを合意した場合のみ登録義務あり 登録義務あり
(媒介契約締結の日の翌日から7日以内)
登録義務あり
(媒介契約締結の日の翌日から5日以内)
業務処理の報告義務 原則:なし 2週間に1回以上の報告義務あり
(文書又はメールの方法による)
1週間に1回以上の報告義務あり
(文書又はメールの方法による)

 なお、宅地建物取引業者は、媒介契約を締結する場合に、依頼者に対して媒介契約書を交付することが義務付けられています。宅地建物取引業者から交付された媒介契約書を精査し、媒介契約の種類・依頼する業務内容・双方の義務内容・媒介報酬・支払い時期・有効期間等をよく確認する必要があるでしょう。

Q
媒介報酬

媒介業者への媒介報酬はいつ支払いますか。また、売買契約が途中で解除等により消滅(不成立)した場合にも、媒介報酬を支払う必要があるのでしょうか。

A

1 媒介報酬の上限額

 媒介(代理)の報酬(消費税等相当額を含む総額)は、国交大臣の告示(省令)により上限額が下記のとおりに規制され、上限額を超える部分の約定は無効とされます(最高裁判例)。従って、媒介契約締結時に、この規制額の範囲内で媒介報酬額を決める必要があります。

売買価格(消費税等を含まない価格) 媒介報酬料率 交換・代理報酬料率
200万以下の金額 100分の5.5 100分の11
200万円を超え400万円以下の金額 100分の4.4 100分の8.8
400万円を超える金額 100分の3.3 100分の6.6

2 媒介報酬の支払い時期

 媒介業者は、売買契約が成立した場合に媒介報酬を請求できますが、広告、現地案内、媒介契約、重要事項説明を行った場合でも売買契約が不成立となった場合には媒介報酬の請求ができません(成約主義)。
 媒介の依頼者は、売買契約成立に伴い媒介報酬の支払い義務を負担しますが、報酬の支払い時期については、売買契約成立時に半額、売買契約の履行が完了した際に残額を支払うとする合意が多くみられます。

3 売買契約成立後の解除等

 では、売買契約の成立後に解除等により途中で売買契約が不成立となった場合には、媒介報酬を支払う必要があるでしょうか。
 売買契約が成立した以上媒介報酬を支払うべきとの考え方がありますが、一方で、ローン解除の場合には、売買契約時のローン解除の特約に基づく契約の不成立なので媒介報酬を支払う必要はなく、手付解除、合意解除や債務不履行による解除の場合には、売買契約成立後の当事者の帰責(新たな合意、契約の債務不履行など)による契約の不成立なので、売買契約が一旦成立した以上媒介報酬を支払う必要があるとの考え方があります。勿論、媒介報酬を支払う必要がある場合でも、媒介業務の履行状況により報酬額の減額を検討することが適切とされています。媒介契約の締結時に、この点を明確にしておくことも大切です。