不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産売買のトラブルアドバイス売買契約のしくみと紛争の関係を理解し紛争防止に務めよう(2016年1月号)

不動産売買のトラブルアドバイス

専門家のアドバイス
瀬川徹

不動産売買のトラブルアドバイス

不動産売買のトラブル
アドバイス

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

2016年1月号

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

売買契約のしくみと紛争の関係を理解し紛争防止に務めよう

Q

A

(1)当事者
①不動産等の売買契約を行うと、売主は、買主に不動産等を移転する義務を負担し、買主は、売主にその代金を支払う義務を負担します。逆から見ると、買主は売主に不動産等の移転を求める権利を取得し、売主は買主に代金を請求する権利を取得します。
②ですから、売買契約では、先ず、この権利義務の帰属主体である「売主と買主」を「特定」することが必要です。一般的には、住所、氏名で特定します。法人の場合には、本店所在地、商号、代表者名で特定します。
③又、売主・買主が、この権利・義務を有効に発生させる為には、是非の識別ができる「行為能力」が必要です。行為能力は、成年になれば存在しますが、未成年でも法定代理人の親権者の同意や許可を得れば可能です。
 一方、成年でも後見開始の審判を得た人(被成年後見人)等や法人及び個人で破産宣告(破産開始決定)等を受けると、一定の範囲で行為能力や処分権限が制限されます。
④又、代理人を用いて契約をする場合には、有効な代理権限の付与が必要です。代理人が有効な代理権限を持たなければ、本人に売買契約の権利義務は帰属しません。

(2)目的物
①売買契約は、値段に見合う価値を持った目的物を売り買いする契約です。ですから、売買は、どこに存在する、どのような状態の目的物なのかの「物理的な特定」と、どのような価値を持つ目的物なのかの「価値の特定」を行った上で契約となります。
②不動産売買の目的物は、「宅地」だけのもの、「戸建住宅」のように「宅地」と「建物」の双方を目的物とするものがありますが、一般的には、目的物である「宅地」や「建物」の登記記録情報(いわゆる登記事項)などで「物理的な特定」を行っています。登記記録情報がない場合には、その他の資料(建築確認済資料、実測図、写真等)で特定します。
③一方、「宅地」や「建物」は、全て、法律の定める規制(一般的に「法令上の制限」と呼びます)の範囲の中で利用や建築が可能ですので、「宅地」や「建物」の利用価値を判断するには、その「法令上の制限」を正しく反映する必要があります。又、周辺環境が影響する場合もあります。従って、その「宅地」や「建物」の「法令上の制限」や周辺環境の調査を詳細に説明することで「価値の特定」を行っています。
④仲介業者は、重要事項説明書や売買契約書の目的物の欄に、「宅地」や「建物」の登記記録情報を記載して「物理的な特定」を図ると共に、重要事項説明書の「法令上の制限」欄に、各種の法令上の制限に関する事項を詳細に記載説明することで「価値の特定」を助力しているのです。

(3)契約内容(意思表示)
①「スーパーの商品の売買」では、売買契約を口頭で行ないますが、「不動産売買」では「売買契約書」を作成し、この契約書の中に様々な条項を記載して署名捺印をして契約を行います。
②不動産売買契約書の作成目的は、不動産が高額であり契約を慎重に行わせる為であり、又、誰と誰の間で、どのような目的物について、どのような権利義務を負担する契約なのか、万一、契約を中途で解消する場合にどうするのか、その他、様々な事項を明記して、当事者が契約内容を正しく認識する為のものです。
③安全、安心な売買契約とは、双方の当事者が、約定した契約内容を誠実に履行し合う円満な契約です。誠実な履行を行う為には、契約時に、この権利義務を、何時までに、どこで、どのように行うかを明確に納得して合意することが大切です。
④仲介業者は売買契約の締結前に売買契約書を読み上げますが、これは当事者が売買契約書の内容を正しく理解できるようにする為の助力行為でもあります。

3 紛争の発生場所(原因)
 次に、不動産売買の紛争が、どのような場所(原因)から発生しているのかを、「売買契約のしくみ」に従って見てみましょう。

(1)当事者について
①売買契約により生じた権利義務の帰属主体の「売主と買主」の「特定」が曖昧な場合、帰属主体が不明となり、権利や義務の請求が困難となる紛争が生じます。
②行為能力をもたない当事者の売買契約は、後に取消することが出来るので売買の目的が達成されなくなる紛争が生じます。又、破産者などは、自ら所有する不動産の処分権限を失っていますので、売買契約が無効となる紛争が生じます。勿論、代理人権限を有しない者との売買契約も無効です。
③このように当事者の特定、行為能力、処分権限、代理権限の有無などを曖昧にした売買契約を行うと紛争となる場合があります。ですから、あなたは、売買に際し、これらの点を常に注意する必要があります。

(2)目的物について
①売買契約により生じた権利義務の帰属主体の「売主と買主」の「特定」が曖昧な場合、帰属主体が不明となり、権利や義務の請求が困難となる紛争が生じます。
①目的物の「物理的な特定」を誤ると、売買契約の目的通りの目的物が入手できない紛争となります。物件の勘違いや、目的物の面積の不足などが売買代金の過不足の問題を生じさせる紛争となります。
②目的物の「価値の特定」を誤ると、期待した通りの宅地の利用や建物の建築が出来ず、結果的に低い価値の物件を高い価値がある物件と誤解する紛争となり、損害が生じする問題に発展します。
③そうした紛争が生じないように目的物の「物理的な特定」や「価値の特定」に努力して下さい。

(3)契約内容(意思表示)
①売買契約により生じた権利義務の帰属主体の「売主と買主」の「特定」が曖昧な場合、帰属主体が不明となり、権利や義務の請求が困難となる紛争が生じます。
①内容を曖昧にしたまま売買契約を行うと、売主と買主間に権利義務について認識の相違が生じ必ず紛争となります。当事者、目的物、契約の内容については、詳細に確認をした上で締結をして下さい。
②又、売買契約は、様々な事情から中途で終了(解約や解除)する場合も想定されます。その場合、どのような時期までに、どのような方法で契約を解消するのかを明確にしておくことが大切です。
③仲介業者が使用する標準の売買契約書は、一般的には、こうした予測される様々な状況に対応することが出来る内容となっています。あなたは、売買契約締結前に読み聞かされる契約内容の説明が、どのような状況に対応できるものとなっているかを確認しながら、売買契約の理解に努めてください。

 今回は、売買契約のしくみと紛争の関係を理解していただき、売買契約の三要素のどのような点から紛争が生じる可能があるかを概観してみました。
 次回以降は、順次、具体的な紛争の場面を前提に、掘り下げた各重要な事項を学んで行きましょう。

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