

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
共有私道の共有分割請求
【Q】
私は、父から相続した本件土地の売却を予定しています。本件土地は、分譲当時から、本件土地を含む隣接する複数の宅地所有者が持分を持つ共有の私道に接しています。本件土地は公道には接しておらず、この共有私道が公道へ通じる唯一の通路となっているため、本件土地上の建物の建替え等の建築確認を取得する際には、共有者全員の同意が必要となります。
このような制約が本件土地の売却に影響することを懸念しており、共有私道のうち、本件土地から公道へ直接通じる形状となる部分について、私の単独所有となるように共有物分割請求をしたいと考えています。このような共有物分割請求は認められるでしょうか。
【回答】
本件共有私道が、周辺宅地所有者が共有私道の持分を有することで私道の通行等の権利を実質的に保証する趣旨で設けられ、また、共有物分割請求を認めることにより関係者が受ける支障が大きいと判断される場合には、本件共有私道の共有物分割請求は認められない可能性があると考えられます。
1 共有物分割請求
一つの物を複数人で所有することを共有といいます。本件設例の私道は、周辺宅地の所有者が各自持分権を有している通路であり、共有の私道です。
民法は、共有者が共有物について行う行為を「変更」「管理」「保存」に分類し、「変更」(形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)行為には共有者全員の同意が必要とし、「管理」行為には持分価格の過半数の同意が必要とし、「保存」行為は各共有者が単独で行うことができると規定しています(民法251条1項、252条1項、5項)。このように共有物に対する「変更」「管理」の行為には、他の共有者の同意が必要となり、他の共有者と意見が対立する場合には、共有物の自由な利用が制限される結果となります。そのため、共有関係解消の手段として、共有者は原則いつでも共有物の分割を請求することができ、共有者間において共有物分割の協議が調わない又協議ができない場合には、裁判所に対して分割の請求をすることができます(民法256条1項、258条1項)。但し、当事者間において、5年を上限とした分割禁止の合意がされている場合には、合意期間内の共有物分割請求は認められません。
共有物の分割請求を受けた裁判所は、目的物を現実に分割する現物分割又は共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる価格賠償分割による分割を命ずることができ、これらの方法による分割が適さない場合には、競売による代金分割を命じるものとされています(民法258条)。
このように、共有物の共有者には、原則として共有物の分割請求が認められていますが、共有物の性質上、共有物分割請求が権利濫用等により認められない場合があります。
2 共有通路の分割請求
本件設例の様に、共有の通路として利用されてきた共有私道について、共有物分割請求が認められるかについて、下記の通り、裁判所の判断は分かれています。
(1)東京地裁令和2年7月7日判決では、本件設例と類似の事案において、原告土地から公道へ通じる唯一の通路である共用私道について、原告が、他の共有者に対して、原告土地から公道に直接通じる形状となる私道部分を原告の単独所有とすることを求める共有物分割請求をした事案において、下記の通り、共有物分割請求を否定する判断をしています。
裁判所は、「本件共有私道は、当初公衆用道路であった土地を、分譲に際して原告土地を含む隣接する4区画の宅地所有者が各自4分の1の割合で持分を持つ共有とし、各共有者が道路に至る通路として利用することを前提として、私道に関する権限を平等な立場で保有することにより、通路としての利用を実行的に保証する趣旨である」として共有私道設定の趣旨及び必要性を認定した上で、「原告の主張する共有物分割請求を認めれば、他の共有者は通路として利用する権限を有しないことになり、前記必要性に照らして支障を生ずることは明らかである」として、他の共有者が建築確認へ不同意を予告しているといった事情もないことから、共有物分割請求を認める必要性があるとはいい難いと判断しました。また、原告が、分割後の共有通路について、他の共有者に通行権を設定するとした主張に対し、共有物分割請求における裁判所の裁量権は「共有物に係る所有権又は共有持分権の帰属の範囲にとどまるもので、これを超えて当事者の合意を超えて、合意によらず、共有物に新たな権利関係を創設することが許される根拠はない」として通行権の設定も認めず、共有物分割請求を否定する判断をしました。
(2)一方、東京地裁平成4年2月28日判決では、建築基準法上の道路位置指定を受けている共有私道について、共有者の一人が共有物分割請求を行った事案において、「建築基準法四二条一項五号によって道路位置指定を受けた私道は、同法上の公法的規制を受け、道路としての機能を維持し公共の安全の目的のため提供しなければならず、その反面として一般の通行を認めなければならないとされているけれども、この一般通行の利益は右のような公法的規制によって一般人が反射的に享受し得る利益であって、私法上の通行権を生じさせるものではないと解するのが相当であるとともに、あくまで私道であるから、共有物の分割を含めその所有関係に変動を生ぜしめる処分は所有者である私人の自由に任されていることはいうまでもないし、右所有関係の変動によって右公法的規制に直ちに影響が及ぶものでないことも明らかである。」として、共有分割請求は権利の濫用にはあたらないとして、現物分割による分割を認める判断をしました。
3 まとめ
共有土地をめぐる共有物分割請求に関する裁判は、前記のとおり、事案により判断が分かれています。前記(1)の裁判例では、共有私道が設置された趣旨・経緯を踏まえ、共有状態を解消することによる関係者の不利益を総合考慮して判断しています。一方、前記(2)の裁判例では、共有物分割請求を認めたとしても直ちに、位置指定道路としての利用に支障が生じないとの点を考慮し、分割請求を認めていると考えられます。
共有状態にある物件の取引を行う場合には、共有地の性質・設置経緯によっては、共有物分割請求が認められない場合もあることに留意する必要があります。
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