不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
土地の購入と法令上の制限
【Q】
店舗兼事務所を建築するための土地を探しています。立地の良い土地が見つかり、宅建業者(媒介業者)に建築計画を伝えたところ、用途地域や容積率・高さ制限等の法令上の制限を確認する必要があるとの話でした。
用途地域や容積率・高さ制限等の法令上の制限とはどのようなものなのでしょうか。
【回答】
用途地域や容積率・高さ制限等は、後記の通り、土地に及ぶ法令上の制限の一つです。
これらの法令上の制限によって、土地上に建築できる建物の用途・規模・高さ等に制限が及びます。あなたが、一定の建築計画をもって土地を購入する場合、その計画が実現可能かどうか、本件土地に及ぶ法令上の制限を事前に確認する必要があります。
1 法令上の制限
我が国では、自己所有地といえども、全く自由に好きな規模・高さ・形態の建物を建築することはできません。土地には、都市計画法や建築基準法をはじめとする様々な法令上の規制が課されており、これらの規制によって、整備された街並みや安全で快適な生活環境が形成されています。特に都市計画区域の土地には、用途地域が定められ、各用途地域に応じて、土地上に建築できる建物の用途・規模・高さ等に関する様々な規制が及びます。本件土地に適用される規制によっては、あなたの希望する建築計画が実現できない可能性もあるため、事前に制限の内容を確認する必要があります。法令上の制限の具体的内容については、宅建業者に調査を依頼し、重要事項として説明を受けることができます。
(1)用途地域
用途地域とは、都市計画法に基づき指定された都市計画区域内の土地について、利用用途によって、下記の通り、13種類に分けられた地域を言います。13種類の地域は、(ア)住居系(住環境を保護するための地域)、(イ)商業系(商業の利便を増進するための地域)、(ウ)工業系(工業の利便を増進する地域)と大きく3つに分類にされます。
[13種類の用途地域]
(ア)住居系:①第一種低層住居専用地域、②第二種低層住居専用地域、③第一種中高層住居専用地域、④第二種中高層住居専用地域、⑤第一種住居地域、⑥第二種住居地域、⑦田園住居地域、⑧準住居地域
(イ)商業系:⑨近隣商業地域、⑩商業地域
(ウ)工業系:⑪準工業地域、⑫工業地域、⑬工業専用地域
(2)用途規制
建築基準法では、前記(1)の用途地域に応じて、建築できる建物の用途が定められています。最も規制の厳しい第一種低層住居専用地域では、住居・小中高等学校・保育所・図書館、寺院等は建築できますが、大学、店舗、飲食店、ホテル、劇場、工場等は建築できません。兼用住宅は、店舗や事務所部分が一定規模の場合には、建築が可能となります。
(3)建蔽率・容積率・高さ制限
建築基準法では、防災性・日照・通風・採光・インフラ等を確保し良好な環境を形成するため、用途地域や前面道路の幅員等に応じて、建物の建蔽率・容積率・高さ制限、建築の形態を制限しています。
(ア)建蔽率
建蔽率とは、建物の建築面積の敷地面積に対する割合のことをいいます。
建蔽率によって、敷地に一定の空地を確保し、防災性・日照・通風・採光を確保することを目的としています。建蔽率は、防火地域内の耐火建築物・角地等の建築物について緩和される場合もあります。
(イ)容積率
容積率とは、建物の延べ面積(各階の床面積の合計)の敷地面積に対する割合のことをいいます。この容積率によって、建物の規模・ボリュームが制限されます。容積率によって、利用人口を制限し、道路や下水道等のインフラを適切に管理し、採光・日照・通風等を確保することを目的としています。容積率は、用途地域に応じて定められるもの、前面道路の幅員によって定められるものがあり、その小さい方が適用されます。容積率も一定の要件のもと緩和される場合があります。
(ウ)高さ制限
建築基準法の規定する建物の高さ制限には、用途地域、前面道路の幅員、隣地からの距離等に応じて、絶対高さ制限・道路斜線制限・隣地斜線制限・北側斜線制限・日影規制があります。
(4)その他の法規制
都市計画法・建築基準法以外にも、景観法、宅地造成等規制法、土砂災害防止法等、様々な法令の制限が存在します。本件土地にその他法令の適用がある場合には、当該法令の規制を受ける可能性もあります。
2 まとめ
一定の規模の店舗兼事務所を建築する計画の場合、本件土地の用途地域や道路の幅員等によっては建築計画を実現できない可能性もあります。本件土地の法令上の制限を確認した上で、購入の是非を判断する必要があるでしょう。また、上記の通り、建築基準法以外の法令によって、建築制限や構造制限が課される場合もあるため、注意が必要です。