

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
確定測量図の交付義務
【Q】
私は、売主Aとの間で、Aの所有する土地を購入する売買契約を結びました。売買契約では、売主Aが残代金支払日までに隣地所有者の境界確認を得た確定測量図を交付すること、これが不履行の場合には買主は売買契約を白紙解除できる旨を契約条項に明記しました。
しかし、隣地の所有者の一人が境界確認を拒否しており、残代金決済日までに約定した確定測量図を作成できないが、当該隣地の前所有者との間で境界立会を得て作成された確定測量図があるので問題ないとの連絡が売主Aからありました。
私は、現在の隣地所有者の境界確認を得た確定測量図の交付を求めており、このまま、売主から残代金決済日までに確定測量図の交付されなかった場合、私は売買契約を解除できるでしょうか。
【回答】
売買契約において、特段の留保なく、隣地所有者の境界確認を得た確定測量図を交付することを売主の義務として定めている場合には、全ての現在の隣地所有者の立会を得て作成された確定測量図の交付義務が売主にはあると考えられます。
したがって、売主Aが現在の隣地所有者の境界確認を得て作成された確定測量図を期限までに交付できない場合には、売主Aの債務不履行を理由として、あなたは売買契約を解除できるものと考えられます。
1 確定測量図の交付義務
(1)確定測量図とは、対象地と隣地との境界について、全ての隣接地の所有者の立会いを得て境界確認を行い、測量士等により測量し作成された測量図をいいます。
対象地と隣地との境界について隣地所有者と見解の相違があるケースでは、境界をめぐる法的紛争に発展し、境界が想定と異なる位置に判断された場合には、地積に影響が生じ、越境等の問題に発展することもあるため、全ての隣地所有者から境界確認を得ていない土地は、これを得ている土地よりも売買価格が低く評価される傾向にあります。
そのため、土地の売買契約においては、残代金決済前に隣地所有者との間で境界確認を行い、それに基づき測量士によって作成された確定測量図を交付することを売主の義務とする場合があります。
(2)本件売買契約では、残代金決済日までに隣地所有者の境界確認を得た確定測量図を交付することを売主の義務と定めており、売主Aは、対象地の引渡し義務の他、確定測量図の交付義務を付随的義務として負っています。
売買契約上の付随的義務が履行されない場合、付随的義務が売買契約の要素となっており、契約の目的達成に必須である様な場合には、付随的義務の不履行を理由として売買契約を解除することができると考えられています(最判昭和36年11月21日判決)。
売買契約の際に隣地所有者の境界確認を得た確定測量図が作成された土地であるか否かは、土地の価格評価や隣地との紛争の有無等に係る重要な事項であるため、特約において隣地所有者の境界確認を得た確定測量図の交付義務が売主に定められた場合には、同義務は売買契約の目的達成に必須であり、買主は、確定測量図交付義務の不履行を理由として売買契約を解除することができると考えられます。
2 裁判例
名古屋高判令和元年8月30日では、本件設例と同様に、残代金決済日までに確定測量図を交付することを売主の義務と定めていた事案において、売主が残代金決済日までに確定測量図を交付できなかったため、買主は、同義務の不履行を理由として売買契約の解除を主張しました。これに対し、売主は、過去に当該隣地の前所有者との間で境界確認を行い確定測量図が作成されており、これにより分筆登記が可能であるから、当該隣地の現所有者の境界確認が得られていなくとも確定測量図として不足はないと反論しました。
しかし、前記高裁判決は「過去に作成された確定測量図が存在し、分筆登記が可能であったとしても、本契約において売主は特段の留保を付すことなく義務を負うことを約している以上、改めて隣地所有者の立会を得て作成された確定測量図を交付する義務を負っていた」とし、この売主の確定測量図交付義務が債務不履行である以上、売買契約は解除されるとして、買主の主張を認めました。
3 まとめ
土地の売買において、対象地が現在の隣地所有者との境界確認を得て確定測量図が作成された土地であるのか否かは、その後に生じうる近隣トラブルや土地の利用計画に直結する問題であり、重要な要素となります。一方、売主にとっては、全ての隣地所有者が境界確認に協力的でないケースもあるため、確定測量図の交付義務を定める場合には、不履行の際の解除条項を設ける等の注意が必要です。
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