相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続財産清算人の選任の申立てを検討するケースとは?
このごろ相続財産清算人の選任の申立てを依頼されたり、自分が清算人に選任されたりすることが増えています。
統計を確認したわけではないのでこれが一般的な傾向かどうかわからないのですが、私の扱う案件だけが増えるなどということはないはずなので、件数も増加しているのではないかと思います。
そこで今回は、相続財産清算人の選任申立てを検討すべきなのはどのようなケースか、などについてご説明したいと思います。
相続財産清算人とは、相続人がいない相続財産(遺産)について、被相続人の債権者に被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させる役割を担う人のことをいいます。
被相続人が死亡すると遺産は相続人に承継されますが、相続人が複数いる場合、遺産分割によって個々の相続財産がだれに帰属することとなるかが確定するまでには一定の期間を要します。
それまでの間、遺産は相続人が相続財産の管理を行うことになります。しかし、相続人の間でだれが遺産を管理するか争いになったり、あるいは相続人がだれもいないような場合に(相続人全員が相続放棄した場合を含む)、相続財産をどのように管理すべきかが問題となることがあります。
そのような場合に相続財産清算人が選任されることになります。
相続財産清算人は家庭裁判所が選任します。
選任の申立てを行うことができるのは、利害関係人(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など)と検察官です。
私が最近申し立てたものでは、被相続人が所有していたマンションの賃貸管理を行っていた賃貸管理業者が申立人になったというものもありました。
相続財産清算人が選任されると、その者は、相続財産を管理するとともに、相続人の調査をして相続人の存在不存在を確定し、相続人の不存在が確定したときは不動産や株式など相続財産を処分したり債権者や受遺者に支払を行うなどの清算をしたうえで、残った財産を国庫に引き継ぎます。
相続財産の管理にあたっては、預貯金については「亡A相続財産清算人 B」という名義で口座を作り、不動産については「亡A相続財産」という名義に変更します。
では、具体的に相続財産清算人(管理人)の選任を申し立てることを検討すべきなのはどういった場合でしょうか。
たとえば次のような場合が考えられます。
① 共同相続人の間で遺産分割の方法について争いがあって、相続財産を管理していない相続人が第三者による管理を求めるケース
② 相続人が相続財産(たとえば不動産など)を放置して管理が行われていない場合に、相続債権者や不動産の周辺住民が適切な管理を求めるケース
③ 後見人が選任されていた者が死亡した場合に、その共同相続人の間で相続財産の管理方法について争いがあるため、後見人が相続財産の引渡しができないケース
④ 相続人全員が相続放棄をしたが、事実上管理していた相続財産についてだれかに管理を引き継ぎたいケース
これらのほかにも、たとえば先にあげた賃貸管理業者の例では、物件のオーナーとコンタクトがとれなくなった後に死亡が判明するまでの間、オーナーの死亡が確認されてからその相続人を調査した結果、相続人がいないことが判明するまでの間、それぞれ一定の期間を要しました。
その間に、入居者が退去したり入居者から貸室について補修の要請があったりなど、物件管理上さまざまな事務処理が必要となり、そうしたことが継続することが見込まれたため相続財産清算人の申立てを行うこととなりました。
ただし、相続財産の管理や債権者に支払をしたりなど、相続財産の清算には費用が発生します。そうした費用や相続財産清算人の報酬に充てるため、相続財産に十分な現預金のないときなどは、申立てにあたって予納金の納付を命じられますので注意が必要です。
予納金の額は、裁判所にもよるとは思いますが、100万円程度となることが多いようです。
もっとも、清算処理が終わり、報酬の支払が完了しても相続財産に余裕があるときは、予納金は返金されますので、予納金の納付をしても必ずしも持ち出しになるわけではありません。
相続財産清算人の申立てをした方がよいか迷ったりしたときなどは、申立にあたって提出すべき書類も多いため、弁護士や司法書士など専門家に相談するのがよいでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。