相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺言書のすすめ~遺産分割では、親との同居は評価されない!
あけましておめでとうございます
今月から相続の法律のコラムを担当させていただくことになりました銀座第一法律事務所の弁護士大谷郁夫です。同じ事務所の鷲尾誠弁護士とともに、毎月相続を巡る法律問題をテーマとしたコラムをお届けします。
当事務所は、相続と不動産が業務の中心となっているため、私も鷲尾弁護士も、常時十数件の相続事件を担当しております。その経験から、読者の皆様のお役に立つ情報や興味を引く話題を提供できるものと思っております。
よろしくお願いいたします。
さて、初回のテーマは親との同居の評価です。
遺産分割事件を多数お引き受けしていると、必ず直面するのが、親との同居の評価の問題です。
昨年担当した事件ですが、私の依頼者のAさんと奥様は、東京都区内の土地上の1戸建てにお母様(お父様は10年前にご他界)と同居されていましたが、お母さまがご他界され、相続が開始しました。
相続人は、AさんとAさんの弟2人で、また、遺産は50坪の自宅土地、自宅建物の共有持ち分2分の1(残りの2分の1はAさんの所有です。)及び預貯金1200万円です。
このように兄弟や姉妹のうちの1人が親の土地上に建物を建てて親と同居しているという状況は、世の中ではごく普通のことですが、これが遺産分割となると厄介な問題となります。
遺言書がなければ、遺産は原則として法定相続分で分けることになりますが、法定相続分は、同居していた兄弟も同居していなかった兄弟も同じですから、同居していなかった兄弟は、「土地と建物を法定相続分で分けろ」と主張します。
Aさんのケースでも、Aさんの弟2人は、自宅土地建物の評価額の3分の1にあたる金銭を要求してきました。遺産分割における不動産の評価は、原則として遺産分割時の時価とするのが実務の取り扱いですので、Aさんと弟2人が、それぞれ不動産仲介会社に自宅土地建物を査定させたところ、4500万円から5500万円という評価が出ました(建物査定額は0)。
このため、Aさんがこの自宅土地建物を単独で取得して住み続けるには、2人の弟にそれぞれ1500万円から1800万円のお金(これを「代償金」といいます。)を渡さなければなりません。
しかし、Aさんは、会社員を定年退職された方で、年金で生活されていますので、とても合計3000万円から3600万円もの現金はありません。このケースでは、遺産の中に1200万円の預貯金がありましたが、この中のAさんの取り分400万円を全部つぎ込んでも、まだ全く足りません。
このような状況で、Aから、「長年親と同居したことの寄与分を主張できないのか。」と言われました。
確かに、Aさんは、20年近く前から自宅土地建物でご両親と同居され、ずっとご両親のお世話をされました。
お父様は、10年前に75歳で亡くなられましたが、亡くなる前2年間は、病院の入退院を繰り返され、入院先の病院の手配や入退院の手続きはもちろん、入院中のお世話も全てAさんとAさんの奥さんがされました。退院されたお父様は、普通に生活できましたが、お母さまも高齢であったため、ご両親の食事の用意や洗濯など日常の家事は、AさんとAさんの奥さんがされました。
また、お母さまは、お父様が亡くなられてから8年間は、自宅建物で生活されていましたが、従前どおり、お母さまの食事の用意や洗濯など日常の家事は、AさんとAさんの奥さんがされました。その後、亡くなるまでの2年間は、特別養護老人ホームに入居されていました。もちろん、Aさんは、いくつもの特別養護老人ホームを回って申し込みをし、入居後は、毎週1回面会に行かれ、入居後の月1回の職員との打ち合わせ、定期的に行われる行事などにもすべて出席されました。
しかし、寄与分とは、共同相続人のうちで、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与(貢献)をした者があるときに、その貢献をした者に相続財産のうちから相当額の財産を取得させるもので、共同相続人間の不公平を是正するための制度です。
この説明からわかるように、寄与分が認められるためには、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与(貢献)をしたことが必要です。単なる寄与ではなく、財産の維持または増加という結果をもたらす特別の寄与(貢献)でなければならないのです。
日常の家事は、民法の定める親族間の助け合いの義務を超える特別の寄与とは言えず、また、被相続人の財産の増加はもちろん維持にも明確な効果があるとも言えないので、寄与分は認められないのが一般的です。
私としては、Aさんのお話から、AさんとAさんの奥さんのご苦労はよくわかったのですが、Aさんの希望どおり寄与分の話を調停委員にしても、調停委員が寄与分を取り上げることはないだろうと思いました。
案の定、調停委員は、Aさんが両親に対して長年お世話をしてきたことは認めるが、寄与分を認めることはできないという意見でした。
親の世話で寄与分が認められるには、おそらく要介護度の高い親を、ヘルパーなどに頼らずに長期間自宅で介護したというような事情が必要でしょう。このような事情があれば、公的介護保険で認められたサービスの報酬額を基準として、相当額の寄与分が認められます。
結局、Aさんは、自宅土地建物を単独で取得し、そのかわり、弟2人に代償金を1500万円ずつ支払うということになりました。Aさんは、このお金を、自分の預貯金と銀行からの借入金で用意しました。
なんとなく釈然としない話ですが、これが現在の寄与分についての実務の取り扱いです。
親と同居をして親の介護や世話をしている方は、このような結果を防ぐために、できれば親に遺言書を書いてもらい、親と同居しない兄弟よりも多くの遺産をもらえるようにしておくべきです。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。