相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
不動産の果実はだれのもの?
今回は、不動産の果実についての話です。
遺産の中に、賃貸マンションや第三者に貸して地代を受け取っている土地などの収益物件が含まれていることがあります。
賃料や地代のように、不動産の使用の対価として受けとる金銭などを、民法では、「果実(かじつ)」と呼んでいます(果実を生み出す財産は不動産に限りませんが、ここでは果実についての詳しい説明は割愛して、不動産を例にとります)。
日常会話などで使う場合の「果実(くだもの)」とは意味合いが異なります。
相続が発生し、遺産のなかに収益物件がある場合、その果実である賃料や地代などは、誰のものになるのでしょうか。
これには最高裁判所の判例があって、相続財産である賃貸不動産から生じた賃料債権は、遺産とは別個の財産となり、各共同相続人が、その相続分に応じて分割して取得する、とされています。
つまり、相続人が複数いるときは、相続開始から遺産分割が成立するまでの不動産の帰属が確定していない間は、その不動産から生じた果実は、相続人間で法定相続割合に応じて分割しなければならないのです。
具体的に考えてみましょう。
生前、収益不動産をいくつか所有していたX(被相続人)が死亡しました。法定相続人は、長男Aと二男Bだけです。収益不動産以外の遺産はないものとします。
Xは、「私の遺産すべてを、長男Aに4分の3、二男Bに4分の1の割合で相続させる」という遺言を作成していました。
このように、遺言では割合だけが示されていて、Aがどの不動産を取得してBがどの不動産を取得するというように各相続人が受け取る不動産について特定されていない場合、その遺言だけでは遺産の分割は確定できないことになり、遺産すべてが共有状態となってしまいます。
そうすると、それぞれの不動産から生じた果実は、判例にしたがって、遺産分割が成立するまでは、Aが4分の3、Bが4分の1ではなく、AもBも2分の1ずつ取得することになるのです。
賃料が高額な場合、Bは、遺産分割が成立するまでの間、すべての不動産の賃料の2分の1を受け取ることができることになるため(固定資産税その他の不動産管理等に要する経費も2分の1を負担することになりますが、通常、収益の方が大きいでしょう)、遺産分割の成立に協力的ではなくなるかもしれません。
また、遺産分割が成立しない間も、被相続人のどちらか一方(たとえば設例のA)が収益物件を事実上管理することが多くあります。
こうした場合、Aから不動産収益の2分の1に相当する額がBに毎月支払われればよいのですが、スムーズには支払いが行われないこともあります。
また、支払いが行われても、不動産全部の賃料の額や経費の詳細がきちんと開示されず、支払われた額が適正かどうか分からないとか、開示されたとしても、修繕費など経費が過大に計上されているように思えるなど、他の相続人から不満や疑問が出ることも少なくありません。
果実の帰属は、遺産分割とは別の問題ではあるのですが、実際には、果実の金額の妥当性やその分配についても、遺産分割の協議と並行して話し合われることが多いため、こうしたことも、結果的に遺産分割の成立を遅らせる原因となったりします。
設例のようなケースでは、複数ある不動産のうちからBの希望するものを与えても、早く遺産分割を成立させて各不動産の帰属を確定させた方が、Aの所有となった不動産の賃料全額を受け取ることができるようになるため、Aにとってもメリットとなることも多いです。
私がAのような立場にあった方の代理人として携わったあるケースでも、そうした解決で落ち着いたことがあります。
意外に思われるかもしれませんが、設例のような割合だけを指定した遺言書に接することは意外に多いです。
私の印象では、とくに、「生前に家長としてふるまっていて家族全員がその言うことを聞いていた」というような環境下で生活されていた被相続人がこうした問題の生じやすい遺言書を作成されることが多いように思います。
まさか自分の死後に遺産の帰属についてトラブルが発生するとは、思ってもみないのかもしれません。
ですが、やはりプロに相談するなどして、紛争の芽を残さないような遺言書を作成するのがいいですね。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。