

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
亡くなった方の未支給年金や還付金て受け取ってもいいの?
身近な人が亡くなったときに、その財産が遺産にあたるかどうかよくわからないとか、財産を受け取るとしてもだれが受け取るべきかがわからないことがあります。
そうした財産のうちよく知られているものとして生命保険と死亡退職金がありますが、ここではもう少しマイナー(?)ですがよく登場する公的年金と還付金を取り上げてみたいと思います。
1 未支給年金
公的年金(国民年金、厚生年金)は、偶数月の15日ころに、その前月までの2ヶ月分が支払われます。
たとえば2月に支払われる年金は、前年12月分と当年1月分の2ヶ月分ということです。
年金を受給していた方が3月20日に亡くなったとすると、2月15日には年金が支給されているはずですが、その年金は12月分と1月分なので、2月分と3月分は受け取れていないことになります。
これが未支給年金で、遺族が請求することにより支給を受けることができます。
未支給年金はこうした場合だけでなく、年金を受け取ることのできる年齢に達していたけれども給与などの稼ぎがあったなどのため受け取りを請求しないでいるうちに亡くなったような場合にも発生します。この場合も、遺族が年金を請求することができます。
未支給年金を請求することができる遺族は、受給権者の死亡日にその者と生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、それ以外の3親等内の親族で、優先順位もこの順となります。
生計を同一にしていたと認められる典型的なケースは一緒に住んでいた場合です。事情によって別居していても、仕送りを受けていたとか健康保険の扶養親族であったなどの事情があれば認められます。
未支給年金を受け取った人に対して、他の相続人からそれも故人の財産なのだから遺産として分割すべきといった主張がなされることがあります。しかし、未支給年金は受取人である遺族の固有の財産であって相続財産ではありませんので、遺産分割の対象とはなりません。
また、未支給年金を受け取っても相続放棄の妨げとはなりません。
2 遺族年金(遺族基礎年金 遺族厚生年金)
遺族年金は、国民年金または厚生年金の被保険者の配偶者や子など、被保険者によって生計を維持されていた方に支給される年金です。
生計維持というのは、亡くなった被保険者と生計を同一にしていた者で、その者の収入が一定の基準以下の状態をいいます。
国民年金から支給される遺族年金は遺族基礎年金、厚生年金から支給される遺族年金は遺族厚生年金といいます。被保険者の年金の納付状況によって、どちらか一方または双方の支給を受けることができます。
受給することのできる方は次のとおりです。
(1) 遺族基礎年金
遺族基礎年金を受け取ることができるのは、国民保険加入者によって生計を維持されていた子のある配偶者と子です。
ここでいう子とは、18歳到達年度の3月31日までの方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級にあたる方です。
(2) 遺族厚生年金
遺族厚生年金を受け取ることができるのは、厚生年金加入者によって生計を維持されていた遺族です。
この場合の遺族とは、配偶者、子、父母、孫、祖父母で、優先順位の高い方が受給することができます。
遺族年金は、未支給年金と同様、相続財産ではなく受取人である遺族の固有の財産です。
したがって、遺族年金も遺産分割の対象とはなりませんし、受け取っても相続放棄の妨げとはなりません。
3 寡婦年金、死亡一時金
遺族年金の受給要件を満たさない場合でも、寡婦年金や一時年金を受け取ることができる場合があります。
(1) 寡婦年金
寡婦年金とは、自営業者や農業者など国民年金の第1号被保険者の夫との婚姻関係(事実婚を含みます)にあり、死亡当時にその夫に生計を維持されていた妻が60歳から65歳までの間、受け取ることのできる年金です。
(2) 死亡一時金
死亡一時金は、故人が第1号被保険者(国民年金加入者)として保険料を36月以上収めていた場合に、生計を同じくしていた遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父亡、兄弟姉妹のうち優先順位の高い方)に支給されるものです。
寡婦年金や死亡一時金も固有の財産として遺産分割の対象とはならず、これを受給していても相続放棄をすることができます。
4 還付金
亡くなった方が納めすぎた税金や医療費などが遺族に還付されることがあります。
(1) 所得税等の還付金
源泉徴収や予定納税などによって所得税を払いすぎてしまった場合、その超過分は還付を受けることができます。
所得税等の還付金は被相続人の財産の一部として相続財産に含まれますので、遺産分割の対象となります。
また、相続人がこれを受け取ると相続放棄ができなくなるおそれがありますので注意が必要です。
(2) 高額医療費の還付金
医療費の自己負担額が一定の基準を超えた場合、その超過分は高額療養費として還付を受けることができます。
高額療養費は被保険者本人に支給されるものですが、本人が亡くなってしまった場合は相続人が請求して還付を受けることができます。
ただし、高額療養費は世帯主(国民健康保険の場合)または被保険者(健康保険の場合)が請求することのできるものですから、亡くなった方が世帯主や被保険者であった場合、高額療養費は相続財産となります。
そのため、亡くなった方が世帯主や被保険者の場合、遺族が高額療養費を受け取ると相続放棄ができなくなるおそれがあります。
ただし、亡くなった方が世帯主や被保険者でなければ、世帯主や被保険者が亡くなった方の高額療養費を請求しても相続財産を取得したわけではありませんので、相続放棄することができます。
ここにあげたもの以外にも還付を受けられるものがあり、くわしい手続や必要書類などは専門家や役所などに確認するようにしてください。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。