相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
親の土地の上に家を建てて住んでいるのは、特別受益?親の土地を使用している相続人の相続分の計算
明けまして、おめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
新年早々、おめでたい気分に浸る時間もなく、緊急事態宣言となってしまいました。
未知のウィルスで、どんなことをすれば感染拡大を防げるのか、正解は誰にもわからないのかもしれませんが、それにしても、もう少し計画性のある政策はできないものなのでしょうか。
さて、今回は、親の土地の上に家を建てて住んでいた相続人の相続分の計算の仕方のお話です。
昨年暮れに、Aさんから、次のような相談を受けました。
2年前に父が亡くなり、父の遺産の分割について相続人間で協議しているが、話がまとまらない。
相続人は、次男である自分と、長男B、長女Cの3人であり(母親は3年前に亡くなっている。)、また、遺産は、土地(更地評価6,000万円)と預貯金900万円だが、土地の上には、10年前に長男Bが父の了解を得て建てた建物が建っている。
Bは、当然、自分が所有する家を手放す気持ちはないので、父からこの土地を自宅敷地として無償で使用する権利をもらっていると主張している。
私は、Bの家を取り壊せとまで言うつもりはないので、Bに対して、土地の私の相続分3分の1を買い取ってほしいと言っている。代金額は、土地の評価額が更地なら6,000万円なので、その3分の1にあたる2,000万円と考えている。
また、自分の考えでは、Bは、父の土地を10年間無償で使用してきたので、少なくともこの分の利益を得ており、この10年間の土地使用料(近隣の地代相場からすると年間100万円程度)の生前贈与を受けたとして、遺産分割に当たっては、この生前贈与も考慮してほしい。
私の考えは、間違っているでしょうか。
子供が親の土地に家を建てて親と同居するということは、よくあることですが、こうしたケースでは、親が亡くなった後の遺産分割がとても難しくなります。
上記の相談事例は、こうしたケースの典型であり、Aさんの考えはもっともだと思いますが、裁判実務の考え方は、Aさんの考えとは、少し違います。
まず、土地の評価について考えてみましょう。
被相続人が、生前に相続人に対して、被相続人の土地上に相続人所有の建物を建設して所有することを許容し、無償で被相続人の土地を使用することを認めている場合は、原則として、その土地に、被相続人を貸主とし相続人を借主とする使用貸借権が設定されたと考えられます。
使用貸借権というのは、簡単に言うと、無償で物を借りる権利です。賃料を払って物を借りる場合は、賃貸借ですが、賃料を払わないで物を借りた場合は、使用貸借となるのです。
本件でも、遺産である父親の土地の上には、長男が建てた建物が建っており、父親は、生前この建物で長男夫婦と同居していたのですから、父親を貸主としBを借主とする使用貸借権が設定されたと考えられます。
土地に使用貸借権が設定されると、その土地は、使用貸借権を持っている人を追い出さない限り、自由に使用することができなくなりますので、その分価格が下がります。
これは、言い方を変えると、使用貸借権が設定された土地は、何も設定されていない土地の価格から使用貸借権の価格分だけ価値が下がることになります。
では、使用貸借権の価格は、一体どれくらいなのでしょうか。
裁判実務の取り扱いでは、使用貸借権の価格を、更地価格の10から15パーセントとみています。
これによると、本件のBの持っている使用貸借権の価格は、土地の更地価格の10から15パーセントに当たる600万円から900万円であり、遺産である土地の価格は、更地価格6,000万円から、この600万円から900万円を差し引いた5,400万円から5,100万円ということになります。
もっとも、本件のBの持っている使用貸借権600万円から900万円は、生前に父親から無償でもらったものですので、原則として特別受益とされ、具体的相続分の計算に当たっては、持戻免除が認められない限り、持ち戻しをする必要があります。
では、Bが父の土地を10年間無償で使用してきたことによる土地使用料相当額1,000万円(100万円×10年)は、生前贈与として、持ち戻す必要があるでしょうか。
この点については、否定するのが一般的です。
その理由は、使用期間中の使用による利益は、使用貸借権から派生するものであり、使用貸借権の価格に中に織り込まれていると考えられるからです。
なんとなく釈然としない方もいるかもしれませんが、使用貸借権ではなく所有権で考えると、よくわかります。
Bが父親から土地の生前贈与を受けてその上に家を建て、10年間居住したとしましょう。遺産分割に当たっては、当然この土地の生前贈与は特別受益となりますので、持ち戻すことになりますが、持ち戻されるのは、あくまで生前贈与を受けた土地の価格だけです。この場合、10年間の土地の使用利益を持ち戻せという議論にはなりませんが、使用貸借権の場合も同じです。
以上を前提に、本件のAさん、B及びCの具体的相続分を考えると、次のようになります(なお、使用貸借権の価格は、更地価格の15パーセントの900万円とします。)。
この結果、Bが遺産である土地全部を取得したいときは、預貯金全部をAさんとCに渡したとしても、計算上は、AさんとCに1,850万円ずつ代償金を支払わなければならないことになります。
Aさんの考えどおりとはいきませんが、Aさんがかなり有利な事案です。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。