相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続人の廃除
今回は、廃除という制度についてお話しします。
廃除については、あまりご存知ない方が多いかもしれません。どういうものかというと、遺留分を有する推定相続人(配偶者、子、直系尊属)に被相続人に対する虐待や重大な侮辱などがあった場合に、被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格を剥奪するという制度です。
遺留分のない相続人(兄弟姉妹)については、遺言でその相続人に財産を与えないようにすればいいので、廃除の対象者から外されています。
被相続人が、ある相続人には財産を分け与えたくないと考えて遺言でその者以外に全財産を譲るようにしても、相続人の遺留分までは奪うことはできません。しかし、例外として、廃除が認められれば、その相続人は相続資格を失い、遺留分を主張することもできなくなるのです。
被相続人がある相続人を廃除したい場合、生前に家庭裁判所に廃除の申立てを行う方法と、遺言で廃除の意思を表示しておき、死後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立てを行う方法と、二つの方法があります。
生前であっても死後であっても、単に被相続人が「この相続人を廃除したい」としていたというだけでは効力が認められず、家庭裁判所に申し立てをして、審判で廃除を認めてもらわなければなりません。
実際にどれくらい廃除の事件が行われているかというと、平成28年度の全国の家庭裁判所における「推定相続人の廃除及びその取消し」事件数は310件でした。そのうち平成28年度中に結論が出たものが210件で、その内訳は、認容が48件(22.9%)、却下や取下げなどで認容されなかったものが160件程度です。
廃除が認められるためのハードルは高いのですが、それでも申し立てられた事件のうち20%以上で廃除が認められたようです。
2つの方法があると書きましたが、生前に廃除の申立てがなされることは少なく、私にはその経験がありません。
遺言によって廃除をする場合は、特定の相続人を廃除する意思が遺言によって明確になっていれば足ります。ですから、遺言書に「遺言者は、長男●●を廃除する。」と書いておけば一応足りるということになります。
しかし、実際に廃除の効力が認められるためには、家庭裁判所にその相続人は廃除するのが相当だと認めてもらわなければなりません。そこで、なぜその相続人を廃除することにしたのかという具体的な事情を遺言書に記載しておくことが有用です。実際にも、程度の多少はあってもそのような記載がなさされているのが一般的だと思います。
遺言書で、ある相続人を廃除することとされていたときは、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てを行うことになります。遺言執行者の定めがなければ、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう必要があります。廃除を認めてほしいのであれば、遺言執行者を遺言書で指定しておき、その遺言執行者の候補者に廃除を求めたい事情をよく説明しておくことが大切です。
廃除が認められる事情として、民法は、相続人による被相続人への①虐待、②重大な侮辱、③その他の著しい非行、の3つを定めています。
廃除すべき事情として主張される具体的な例としては、被相続人に対する長年にわたる暴力行為、被相続人の不動産や預貯金など財産の無断の処分、犯罪を犯して被相続人に被害者らへ謝罪や被害弁償をさせる、自分の多額の借金の返済を被相続人に肩代わりさせる、被相続人が長年にわたり病気療養しているにもかかわらず面倒を一切みずに放置していたなど、様々なものがあります。
ある相続人を廃除したいというからには、遺言者には、当然それなりに切実な事情や理由があるはずです。
しかし、上記の統計にも表れていますが、廃除が認められるとその者は相続権を失って遺留分の主張さえできなるなくという重大な効果をもたらすだけに、廃除はそう簡単に認められるわけではありません。
実際に家庭裁判所で廃除が認められるためには、廃除を求めるに至った事情について、できる限り具体的で裏付けのあるエピソードを主張、立証できるように用意しておくことが大切です。客観的な裏付けとなるような資料がなくても、数行程度でも出来事を記した手帳やメモなどをつけていたのであれば、そうしたものも遺言執行者に預けておくとよいでしょう。
廃除を認める審判が確定すると、その相続人は被相続人の死亡の時から相続人の資格を有していなかったことになります。
ただし、廃除が認められても、廃除された相続人に子がいたときは代襲相続が認められることには注意が必要です。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。