相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
また、連れ去り?親の連れ去り事案と対応策
新型コロナウィルスの感染者数がまた増え始め、いよいよ第8波が始まったと言われています。私の周りでも、「感染した!」という話が、毎日のように出ています。
しかし、余り重症にならないと言われているからなのか、あるいは慣れっこになってしまったのか、あまり危機感がありません。どこに行っても人がいっぱいで、みんなが外出を控えている様子もありません。
人々の新型コロナウィルスに対する感覚も、インフルエンザと同じようになってきたのでしょうか。
さて、今日は、親の連れ去りに関するお話です。
最近、親の連れ去りに関する相談が、何件か続いています。
私が、このコラムで、親の連れ去りについて1度か2度とりあげたので、「このコラムを読んだ。」と言って、相談のお電話をかけてくる方もいらっしゃいます。
親の連れ去りでは、ほとんどのケースで、将来親が亡くなったときにその遺産を相続する法定相続人の中の1人が親を連れ去り、他の兄弟が会えないようにしてしまいます。
このようなことをする動機は、いろいろですが、中には、親の財産を使うためや親に遺言書を書かせて、その遺言書を変更させないために親を連れ去る人がいます。
このような場合、他の兄弟にできる対抗手段としては、親族間の紛争調整を求める調停申立、親の後見開始の申立、面会妨害禁止の仮処分などがあります。
しかし、親族間の紛争調整を求める調停申立は、親を連れ去った相手方(以下、単に「相手方」といいます。)が出頭しなければ、何も話し合いができずに終わってしまいます。
また、親の後見開始の申立は、親の居所が分からず、後見申立に必要な診断書もないという場合は、申立そのものが困難であり、仮に申立をしても、家庭裁判所は、調査や鑑定ができないので、後見開始の必要性について判断することができません。
上記の2つの申立は、家庭裁判所に対するものですが、地方裁判所に、面会妨害禁止の仮処分の申立をするという方法もあります。
過去に、裁判所がこの仮処分命令を出した事案がありますが、この事案は、親が認知症であることを示す資料があり、さらに、親族間の紛争調整の調停申立や後見開始の申立も行い、親の居所もある程度分かっていたというものでした。
従って、面会妨害禁止の仮処分の申立も、簡単にできるものではありません。
このように、本人の居所が分からないという場合は、実際は、何もできないというのが実情であり、残念ながら、調査会社等を使って、本人の居所を突き止めるしかないのではないかと思います。しかし、調査会社の費用は、かなり高額ですので、一般の人が調査会社を利用するのは、容易ではありません。
では、少なくとも本人の居所は分かっているというケースでは、どうでしょうか。
本人の居所が分かっているというケースでは、ほとんどの場合、相手方は、親をどこかの施設に入居させてしまい、その施設の入居の際に、入居させた親の保証人兼身元引受人になります。親が認知症の場合は、相手方が、入居契約者となっていることもあります。
そして、相手方は、施設のスタッフのいるところで、親に、「○○には会いたくない。」と言わせ、施設のスタッフに、「本人がこう言っているので、○○が来ても、面会させないでください。」という申し入れをします。この結果、施設のスタッフは、その親族が来ても会わせないという対応を取ることになります。
この場合は、先ほど上げた3つの手段を、順番に進めていくことになります。
私が最近取り扱った事案では,幸い本人が認知症であることを示す診断書がありましたので、この診断書を利用して後見開始の申立を行いました。
この申立に対して、家庭裁判所からは、親の認知能力について鑑定を行いたいので、相手方及び施設と折衝して、鑑定医の訪問日の調整をするように指示がありました。
しかし、当然のことながら、相手方は協力しません。
そこで、今度は、親族間の紛争調整を求める調停申立を行いました。
この時点で、相手方に弁護士がつき、この弁護士が調停に出頭し、「本人が会いたくないと言っているので、会わせることができない。」と回答したので、本人が認知症であることを示す診断書を示し、本人の意思確認が必要であり、後見開始の申立もしているので、鑑定に協力して欲しいと申し入れました。
弁護士は、習性的に、こうした根拠のある合理的な申出に対しては、理由もなく拒絶できません。このため、最終的には、相手方が家庭裁判所の選任した鑑定医の施設への訪問に協力することになりました。相手方が、弁護士に依頼したことが、結果的に、こちらにプラスとなりました。
私としては、当初は、本人が認知症であることを示す診断書、親族間の紛争調整の調停申立が相手方の不出頭により不調に終わったこと、後見開始の申立に相手方が協力しなかったことなどの材料を揃えて、面会妨害禁止の仮処分の申立をする予定でしたが、家庭裁判所の選任した鑑定医が施設を訪問し、本人を診察できることになったので、その鑑定意見を待つことになりました。
このように、親の連れ去りの事案では、親の居所が分かることと親が認知症であることを示す資料があることが、有効な対応の材料となります。
親が認知症であることを示す資料は、診断書があれば一番ですが、診断書がなくても、日頃から、ケアマネさんやデイサービスの人が作成した書類の写しを取っておくなどの対策が考えられます。
一方、親の居所を探すのは、なかなか難しいですが、最近の日経新聞の記事に、親と会うことを妨害した兄弟に対して、他の兄弟が不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こしたところ、裁判所が損害賠償を認めたという記事がありました。
判決の内容を見ていませんので、詳しいことは分かりませんが、こうした訴訟を起こすことにより、親の居所を教えない相手方に圧力をかけるという方法も考えられると思っています。
ここまでは、親の連れ去りについて、連れ去った相手方が悪者のように書いてきましたが、もちろん、連れ去られた側に問題があるケースもありますので、簡単にどちらに非があるとは言えないことも多いのが実情です。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。