相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
こういう高齢者は、きっと大勢いるはず。最近担当した成年後見人の仕事
先日、有料老人ホームにいる母親に会うために、実家の新潟に帰省しました。
私は、65歳になったので、JRの割引サービス(このサービスの名前まで書くと、広告のようになってしまうので、やめておきます。)を使うことができ、新潟往復の新幹線代が、3割引になりました。
65歳になって、介護保険証が送られてきたり、介護保険料が多くなったりして、なんとなく後ろ向きの気分でしたが、「いいこともあるんだな。」と思った出来事でした。
さて、今回は、最近担当することになった成年後見人の仕事のお話です。
成年後見人の仕事というのは、簡単に言えば、認知症等が原因で認知能力が低下し、自己の財産を管理する能力がなくなってしまった人の代わりに、その人の財産を管理するとともに、その人の生活について、法律面のお世話をする仕事です。
たとえば、あるおじいさん(Aさん)が、認知症で、自分の財産を管理することができなくなると、Aさんは、銀行へ行って預金を引き出したり、その引き出たお金で、いろいろな支払いをしたりすることができなくなってしまいます。
このような場合、Aさんの奥さんやお子さんが、Aさんの代わりに、Aさんの財産を管理することが多いと思います。
キャッシュカードで引き出せるような金額の引出や支払いであれば、銀行などの金融機関は、Aさん自身ではなく、Aさんの奥さんやお子さんが引出をしても何も言いませんが、もう少し大きなお金になると、Aさん自身が銀行に来るか、Aさんが委任状を出すなどしないと、預金の引き出しを受け付けないことがあります。
しかし、Aさんが認知症の場合、銀行に行ってもちゃんと話せなかったり、委任状が書けなかったりして、銀行の要求に応じることができません。
ここまでくると、成年後見人の選任が必要ということになり、奥さんやお子さんが、Aさんの精神能力に関する診断書(裁判所のWebサイトに書式があります。)を医師に書いてもらい、その他の必要書類と一緒に、Aさんの住所地を管轄する家庭裁判所に、後見開始の申立をすることになります。
この申立があると、家庭裁判所は、Aさんの精神能力を診断書等から確認し、後見が必要と判断すれば、後見開始と成年後見人の選任の審判をします。
このとき、誰が成年後見人になるかというと、Aさんの親族間にAさんの財産の管理を巡る対立等がなければ、申立の際に、申立人が成年後見人候補として指定した人が成年後見人になることも可能です。よくあるのは、息子などの子供が申立人となり、自ら候補者となるというパターンです。
一方、上記のような候補がいない場合や親族間にAさんの財産の管理を巡る対立等がある場合は、家庭裁判所が、家庭裁判所の持っている弁護士などの専門職のリストの中から、その事案にふさわしい人を選任します。
ちょっと、前置きが長くなりましたが、ここまでの説明から分かるように、成年後見人が選任される場合というのは、ご本人にそれなりに財産があって、その管理をすることが必要な場合ということになります。
しかし、最近担当することになった成年後見人の仕事では、少し事情が違っていました。
ご本人(Bさん)は、一応一人で日常生活を送ることができますが、年金収入しかなく、もちろんまとまった預金もありません。つまり、管理を必要とするようなまとまった財産はないのです。
それでは、誰が、何のために、Bさんの後見開始の申し立てをしたのでしょうか。
実は、Bさんは、複数の友人からお金を借りていて、年金が入るとすぐ全部返済に充ててしまい毎日の食事もままならない状態でした。
また、住んでいるアパートの家賃も払っていなかったうえ、介護保険料や後期高齢者医療保険料の支払いを滞納していました。
つまり、Bさんは、自分の年金収入をうまく配分して、自分の生活を組み立てることができなかったのです。
Bさんの年金額は、多くはありませんが、生活できないほど少ないわけではありません。ですから、これに〇〇円、これに〇〇円と配分して、自分の年金の範囲内で生活を組み立てることができるはずであり、実際に多くの年金暮らしの高齢者の方は、そのようにしているはずです。しかし、Bさんは、精神的な疾患のせいで、それができなかったのです。
Bさんは、お金がないために食事ができなくなり、区のお年寄り相談センターに助けを求めたようです。
お年寄り相談センターのスタッフの方々が、食事などのBさんの当面の生活の手当てをしながら、Bさんからいろいろと聞いたり、調べたりしたところ、複数の友人からお金を借りていること、年金が入るとすぐ全部返済に充ててしまい毎日の食事もままならない状態であること、住んでいるアパートの家賃も払っていないこと、介護保険料や後期高齢者医療保険料の支払いを滞納していることなどが分かりました。
上記の問題のうち、複数の友人からお金を借りていることや住んでいるアパートの家賃も払っていないことは、法的なトラブルであり、お年寄り相談センターのスタッフでは手に負えません。
そこで、区長の権限で、Bさんについて、東京家庭裁判所に後見開始の申立てをしたところ、私が、Bさんの成年後見人に選任されたのです。
今まで、たくさんの人の成年後見人をしてきましたが、その全てが、ご本人が持っているまとまった財産を管理して、ご本人の生活に必要な契約をしたり、支払いをしたりするという仕事でした。
しかし、今回は、Bさんの借入れ、滞納、未払いなどを調査し、それぞれの債権者(友人、区、大家さん)と交渉をして、本人が払える限度の分割払いにしてもらうというのが、メインの仕事です。
分かり易く言えば、Bさんがもらっている年金で生活できるように、やり繰りをするということです。
早速、Bさんから、お金を借りている友人たちの名前と電話番号を聞き、その友人たちに電話をかけて、分割払いをお願いするという作業を始めました。
弁護士として、サラ金や闇金を相手したことは何度もあり、そういう相手には、強く出ることができました。
しかし、今回の相手は、Bさんに頼まれてお金を貸してくれた友人たちですから、強く出ることはできません。とは言え、お金がないので決して妥協できないというしんどい交渉でした。
友人の方々は、怒りながらも、最後は理解してくれたので、なんとか話はまとまりました。
今回は、成年後見人としては、とても珍しい内容の仕事になりました。
しかし、よく考えてみると、まとまった預金などなく、年金だけで暮らしている高齢者の方は沢山いて、その方々は、かなりの確率で認知症になるわけですから、Bさんのような人は、ほかにも大勢いるのではないかと思います。
弁護士としては、こうした方々への対応の仕事が、これから増えていくかもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。