相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続で利用される3種の財産管理人~相続財産清算人、不在者財産管理人及び遺産管理人
少し前の話になりますが、連休中に、孫を連れて行楽地に行ってきました。子供は、ほぼ全員、大人も半分くらいは、マスクをしていませんでした。
人気の飲食店は長蛇の列、アウトレットは人だらけで、アフターコロナを実感しました。
さて、今回は、相続財産清算人、不在者財産管理人及び遺産管理人という3種の財産管理人のお話です。
私は、現在、この3種の管理人をやっていますが、それぞれどのような仕事かお話しします。
まず、相続財産清算人です。
これは、相続人がいるのか、いないのか明らかでないときに、申立により、家庭裁判所が選任します。
たとえば、Aさんが亡くなり、自宅土地建物と預金が残されたが、戸籍上、Aさんには妻子がなく、また、一人っ子で親もすでに亡くなっているという場合、戸籍上、Aさんには、相続人がいないことになります。
また、Aさんに相続人がいても、相続人全員が相続放棄をした場合にも、Aさんには、相続人がいないことになります。
このような場合に、利害関係人や検察官の申し立てにより、裁判所が選任するのが相続財産清算人です。
利害関係人とは、Aさんにお金を貸している人(相続債権者)、Aさんの遺言書で、Aさんの自宅土地建物をもらうことになっている人(特定遺贈を受けた人)、Aさんの生前にAさんのお世話をして、Aさんの財産の分与を受けることができる人(特別縁故者)などです。
また、こうした利害関係人がいない場合でも、Aさんの遺産の管理が必要な場合、検察官も申立をすることができます。
相続財産清算人は、亡くなった方の遺産を管理、保存しながら、相続人、相続債権者、特定遺贈を受けた人を探します。探すと言っても、原則として、官報で「この人の債権者や遺贈を受けた人はいませんか?」という内容の公告をするだけです。
相続人が見つかれば、相続財産の管理をする必要がなくなりますので、そこで相続財産清算人の仕事は終わります。
一方、相続人が見つからない場合でも、相続債権者がいれば、相続債権者に支払いを行い、また、特定遺贈を受けた人がいれば、対象となる財産を、その人に渡します。
こうした手続きを経て残った財産があれば、国庫に帰属させることになりますが、その際、特別縁故の申し立てがあれば、家庭裁判所は、申立人に被相続人の財産を分与すべきかどうか決定します。
次に、不在者の財産管理人ですが、もともと住んでいたところからいなくなり、行方が分からなくなっている人について、その人の財産を管理するために、利害関係人や検察官の申立により、家庭裁判所が選任します。
たとえば、Bさんが自宅からいなくなり、その後、長期間行方が知れないという場合です。
利害関係人とは、Bさんの配偶者、Bさんにお金を貸している人(債権者)、Bさんの相続人などです。
また、Bさんの父親Cが亡くなり、Cの遺産分割をしなければならないが、相続人の一人であるBさんの行方が分からないので、遺産分割ができないという場合は、CのBさん以外の相続人も、申立をすることができます。
こうした利害関係人がいない場合でも、Bさんの遺産の管理が必要な場合、検察官も申立をすることができます。
不在者財産管理人は、不在者の遺産を管理、保存しながら、債権者への返済などを行います。
また、裁判所の許可を得れば、不在者の不動産を売却したり、遺産分割協議を成立させたりすることもできます。
不在者財産管理人は、不在者が戻ってくれば財産の管理をする必要がなくなりますので、そこで仕事は終わります。
また、不在者の死亡が明らかとなったときは、不在者の財産は相続財産となりますので、不在者の財産を相続人に引き渡して仕事は終わります。
さらに、不在者の行方が分からず、生存も確認できない場合には、不在者について失踪宣告の申立をして、不在者が法律上死亡したことにしてしまい、不在者の財産を相続人に引き渡して仕事を終わりにすることもあります(詳しくは、2018年12月号参照)。
最後に、遺産管理人ですが、これは、相続が開始してから遺産分割が終了するまで、遺産を管理する仕事です。相続財産清算人とは異なり、相続人がいることが前提となっています。
「相続人がいるのに、なぜ管理人が必要なのか?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。
しかし、相続人が複数いる場合、遺産を構成する財産は、複数の相続人の共同所有となり、遺産分割によりどの財産を誰が取得するのかが決まりますので、相続開始から遺産分割の終了までの間は、複数の相続人が共同して遺産を管理することになります。
この共同管理は、複数の相続人の関係が悪い場合は、上手くいきません。
また、一部の相続人が、遺産を使い込んだり、処分したりすることもあります。
逆に、実際に遺産を管理している相続人が、たとえば遺産であるアパートの修理をしなかったり、家賃の集金をしなかったりなど、遺産を適切に管理しないこともあります。
こうした場合に、相続人の申立、あるいは家庭裁判所の職権で選任されるのが、遺産管理人です。
この遺産管理人の選任は、原則として遺産分割調停または審判の申立があることが前提です(なお、遺産分割調停または審判の申し立てがない場合でも、裁判所が、遺産の管理のための処分として遺産管理人を選任することがありますが、ここでは割愛します。)。
遺産管理人の仕事は、遺産分割が終わるまで遺産を管理することです。
従って、原則として、相続財産を把握したうえ、相続財産を維持したり、被相続人の義務を履行したりすること(保存行為及び管理行為)しかできず、遺産である不動産の売却など管理行為を超える行為をするには、裁判所の許可が必要です。
このように遺産管理人の仕事は、相続が開始してから遺産分割が終了するまで、遺産を管理することですから、遺産分割が終了すれば、遺産管理人の仕事も終了します。
相続で利用される3種の財産管理人について、ご理解いただけたでしょうか。
この3種の財産管理人が、どんなときに選ばれて、どんな仕事をするのか。この点について知識あると、相続が発生したときに役に立つかもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。