相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
沢山もらった人が全部負担するのでは?「遺留分侵害額の負担割合」
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。
私は、今年の2月に65歳になるので、区役所から介護保険証が送られてきました。
これまで、沢山の高齢者の方々の成年後見人となり、その方々の介護保険証を管理してきましたので、介護保険証は、お年寄りのものという感覚でした。
自分としては、今も50代のころと同じように働いており、そんなに年を取ったと思っていなかったのですが、お年寄りの仲間入りをしましたよと言われたようで、少しショックでした。
さて、新年最初の相談は、遺留分侵害額の負担割合についての相談でした。
相談者Zの相談内容は、次のようなものでした。
Zは、昨年亡くなった母親Aの次男ですが、Aの公正証書遺言により、評価額6000万円の土地を相続しました。
Aの夫は2年前に無くなっており、Aには、長女X、長男Y及び次男Zの3人の子供がいますが、Aの公正証書遺言には、Xが相続する遺産については何も書いてなく、Zが取得する土地を除いた残りのAの遺産の全部(評価額合計2億4000円)を、Yに相続させると書いてありました。
つまり、Aの公正証書遺言は、総額3億円のAの遺産のうち、評価額6000万円の土地だけをZに相続させ、残りの2億4000円の遺産は、全てYに相続させるというものでした。
当然のことながら、Aの公正証書遺言は、Xの遺留分を侵害する内容ですので、Xは、Y及びZに対して、遺留分侵害額請求ができます。
しかし、Zとしては、「Xが何も相続できないのは可哀想だが、自分が相続した土地の評価額は6000万円であり、Yの4分の1なので、Xが侵害された遺留分については、全てYが支払うべきではないか。」と思っています。
そこで、Yは、私の所に相談に来ました。
まず、Xの遺留分額は、Aに相続債務がなく、また、相続人の誰も生前贈与を受けていないとすると、次の計算により5000万円となります。この遺留分額は、X、Y及びZの3人とも、同額です。
3億円 × 1/2 × 1/3 = 5000万円
そして、Xは、Aの遺産を何も相続しておらず、この5000万円の遺留分全額を侵害されていますので、5000万円の遺留分侵害額請求をすることができます。
では、Xは、この侵害されている5000万円の遺留分を、誰に対して、いくら請求すればよいでしょうか。
ここからは、少し難しい話になりますが、我慢して読んでください。
まず、Aの公正証書遺言で遺産を取得したYとZは、自分が取得した遺産の価額から、自分の遺留分額を差し引いた額を限度として、Xの遺留分侵害額について責任を負います。
Yは、2億4000万円の遺産を取得していますので、この2億4000万円から自分の遺留分額5000万円を差し引いた残額の1億9000万円を限度として、Xの遺留分侵害額について責任を負います。
また、Zは、6000万円の遺産を取得していますので、この6000万円から自分の遺留分額5000万円を差し引いた残額の1000万円を限度として、Xの遺留分侵害額について責任を負います。
このように、Yも、Zも、Xの遺留分侵害額について責任を負いますが、YとZの具体的な負担額は、いくらでしょうか。
YとZの具体的な負担額は、それぞれが取得した遺産の評価額からそれぞれの遺留分額を差し引いた額、つまり遺留分を超過する額の比率で決まります。
Yの遺留分超過額は、1億9000万円であるのに対して、Zの遺留分超過額は1000万円ですので、Yの負担額は、次の計算により、4750万円となります。
5000万円 × 1億9000万円/1億9000万円 +1000万円
= 4750万円
これに対して、Zの負担額は、次の計算により、250万円となります。
5000万円 × 1000万円/1億9000万円 +1000万円
= 250万円
この結果、長女Xは、Yに対して、4750万円を請求でき、また、Zに対して、250万円を請求できることになります。
次男Zの相続した遺産の評価額は、長男Yの相続した遺産の評価額の4分の1に過ぎませんが、自分の遺留分を超える遺産を取得している以上、Xが侵害された遺留分の一部を負担しなければなりません。
このように、遺言で遺産を取得した複数の相続人の中に、極めて沢山取得した人と少しだけ取得した人がいる場合でも、極めて沢山取得した人だけが遺留分侵害額について責任を負うとは限りませんので、遺留分侵害額請求をする側も、される側も、注意が必要です。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。