相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺言書の探し方
身近な方が亡くなって相続が発生したという場合、まずは遺言書があるかどうかを確認する必要があります。今回は、この遺言書の探し方についてお話します。
遺言の方式は民法で定められていて、普通方式の遺言と特別方式の遺言があります。特別方式の遺言は、死期が迫っていて普通方式の遺言をする余裕がないなどの特別な状況のもとで用いられるもので例外的ですので、ここでは一般的な普通方式の遺言に絞ってお話しします。
普通方式の遺言にも、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
【自筆証書遺言の場合】
自筆証書遺言は、自分1人でいつでも作成することができますので、明確な作成件数に関する統計はありませんが、もっとも多く利用されているのではないかと思います。
せっかく自筆証書遺言を作成しても、そのことをだれも知らなかったり保管場所を教えていなかったりしたため発見されないままに終わってしまうこともあり得ます。先に見つけた人が遺言書を隠したり書き換えてしまったりするおそれも否定できません。遺言書を隠したり偽造したりすると相続資格がなくなってしまうのですが、そうしたことがあり得ないとは言い切れません。
この点に関しては、遺言書保管法という法律があって、令和2年7月10日からは法務局が遺言書保管所として遺言書を保管してくれることとなりました。この保管制度を利用していれば、遺言者が死亡した後はだれでも遺言書が存在するかどうかを調査することができますし、遺言書の紛失や隠匿といった事態を防ぐことができます。
この遺言書保管制度については以前に詳しく説明していますのでご確認ください。(2019年9月号 自筆証書遺言の保管制度~その1)
ただし遺言書保管法は、自筆証書遺言を作成したら遺言書保管所に預けることを義務づけているわけではありません。そのため、遺言書保管所に遺言書が預けられていることを確認できなかった場合には、相続人がいわば自力で探さざるを得ません。
自宅に金庫があったり貸金庫の契約をしていた遺言者であればまずはその金庫、そこにもなければ大切なものが保管されていそうなところ、たとえば仏壇や書斎の机の引出し、本棚などにしまわれている場合もあります。また、生前に依頼していた弁護士や税理士などに預けている場合もありますので確認するとよいでしょう。
【公正証書遺言と秘密証書遺言の場合】
公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の内容を伝えて公証人が作成する遺言書です。
秘密証書遺言というのは、内容を秘密にしたまま遺言書の「存在」だけを公証役場で証明してもらう遺言です。自分で作成した遺言に封をして公証役場に持っていき、公証人と2人以上の証人に自分の遺言書であることを証明してもらいます。封がしてあるので内容を知られるおそれはありません。ただし公正証書遺言と違い、公証役場では遺言書の保管はしません。
平成元年以降の公正証書遺言と秘密証書遺言であれば、遺言検索システムによってデータが一元管理されているため、全国のどの公証役場で作成されたものでも検索することが可能です。
公証役場で公正証書遺言を保存する期間は原則20年とされていますが、遺言者が死亡するまで保管されていないと意味がないので、実際には20年を経過しても保存されていることが多いようです。
検索システムでは、遺言書の有無がわかり、遺言書がある場合はどこの公証役場に保管されているかがわかります。また、遺言書が保管されている公証役場に謄本を請求することで遺言書の内容も確認することができます。
遺言検索システムを利用できるのは、生前は遺言者本人に限られ、死後は相続人や遺言執行者など法律上の利害関係のある人に限られます。相続人であれば戸籍謄本により簡単に相続資格があることを証明できます。
これに対し、利害関係人となると明確ではありません。たとえば、故人と生前に親しくしていて、「あなたにも財産がいくようにきちんとしてあるから」などと言われていたが、本人は故人の相続人ではないといったケースがあります。
こうしたケースでは、相続人ではないが利害関係があるということを証明しないと遺言検索システムを利用して検索することはできないことになります。利害関係があることの証明としてどの程度のものが必要かは明確ではなく、公証役場と相談しながら進めることになります。
私が過去に扱ったケースでは、生前の遺言者との関係、遺言者とやり取りした手紙やメール、遺言者が生前に税理士に相談していた内容などの資料を持参して遺言書の存在を確認しました。
自筆証書遺言の場合には、あるはずと思っていた遺言書がどうしてもみつからないということもあって、こうした場合は、遺言は存在しないものとして遺産分割の話合いをせざるを得ません。
遺言書が無意味なものとならないよう、公正役場や遺言書保管所を利用するなどの方法により確実に遺言が実現されるように備えたいものです。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。