相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
自筆証書遺言に作成方式の改正
今回は、相続法の中でも便利な改正が行われた自筆証書遺言の作成にかかわるお話です。
遺言書の作成方法には、大きく分けて、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言と遺言を作成する人が自分で遺言書を書く自筆証書遺言があります。
実際にこうした遺言を作成する人がどれくらいいるかをみてみましょう。
自筆証書遺言については、遺言書の保管者は、相続の開始を知ったときは、遅滞なく家庭裁判所に提出して、検認を請求しなければならないという民法の定めがあります。公正証書遺言は、検認の必要はありません。
平成29年度の家庭裁判所における遺言書の検認事件数は、司法統計によると、17,394件です。もっとも、現実には、自筆証書遺言のすべてについて検認の申立てがなされるわけではないため、自筆証書遺言の作成件数と検認の件数が一致するわけではありません。
これに対して、平成29年度の公正証書遺言の作成件数は、日本公証人連合会の公表によると、110,191件でした。
そして、どちらの件数も、徐々に増加する傾向にあります。
しかし、自筆証書遺言については、その作成について、民法が厳格な方式を要求していたため、遺言書の作成に消極的になってしまうという弊害が指摘されてきました。
どういうことかというと、改正前の民法では、自筆証書遺言は、その全文を自書しなければならないと定められていたため、遺産が多数あって、それぞれの遺産を相続人ごとに分け与えたいという場合、分配する遺産すべてをもれなく自書するのは面倒な作業だったのです。
しかも、誤記があったり内容を修正する必要があったりして遺言を訂正する場合には、内容を変更した場所を指示し、変更した旨を付記して別途署名し、かつ、変更した場所に押印しないと変更の効力が生じないとされているため、修正も容易ではありません(この修正方法は、改正後も同様です)。
そこで、今回の改正では、自筆証書遺言に遺産や遺贈の対象となる財産の目録を添付する場合には、その目録については自書しなくてもよいということにして、自筆証書遺言の作成を容易にするための改正が行われました。
具体的には、財産目録は、パソコンで作成してもいいし、他人に代筆してもらってもいいのです。また、目録の作成方法について、改正法はとくに定めていませんので、不動産の内容をパソコンなどで記載するかわりに不動産の登記事項証明書を目録として添付したり、預金の内容を記載するかわりに預金通帳の表紙などのコピーを添付するのでもよいことになります。
ただし、手書きでない目録を遺言書に添付する場合には、その目録の各ページ(1枚の紙の表と裏に記載があるときは、表と裏の両方)に署名と押印をしなければなりません。
そうしないと、後から第三者によってパソコンで作成した目録を勝手に添付されるというような不正の事態が生じかねないからです。
目録の各ページに署名押印がないと、遺言が無効ということになりかねませんので注意してください。
財産目録を添付する方法に関しては、改正法は、自筆証書と一体のものとして目録を添付することとしていますが、ここでいう「一体のもの」とは、物理的に一体であることまでを意味するものではないとされています。
そのため、自筆証書の本文と財産目録とを綴じたり契印したりすることは、法律上は要求されていません。
なお、この遺言書の作成方法に関する改正は、他の相続法の改正より先に、平成31年1月13日から施行されています。
私の依頼者にも、一旦作成した遺言書について、何度か細かく内容を変更されている方がいます。あげようと思っていた財産を処分してしまったので代わりの物をあげることにしたいとか、相手の人があまり自分のことを気にかけてくれていないので、遺贈する財産を変更したいなど、変更したくなる理由は様々です。
最初に作成した遺言は公正証書遺言なのですが、細かい修正の都度、いちいち公証人に依頼するのは手間ですし費用もばかになりません。
そこで、これまでは変更する内容についてなるべく簡潔な文章を私の方で考えて、公正証書遺言の内容を一部変更するという自筆証書遺言を作成して対処していました。
しかし、先日の何度目かの遺言書の修正の際は、パソコンで変更の対象となった不動産の目録を作成し、これを添付して自筆証書遺言を作成しました。
依頼者には「楽になった」と喜ばれましたが、修正がさらに頻繁になるのではないかと少し心配しています。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。