相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
こんな遺言書の作成方法もあるの?病気による入院と危急時遺言
猛暑が終わるとともに、第7波のピークも過ぎ、徐々に感染者数が減少しています。もっとも、全国の1日の感染者数は1万人を超えていますので、まだまだ油断は禁物です。
私も、今できる対策として、先日4回目のワクチン接種をしました。感染を防ぐ効果は低いという話ですが、重症化は防ぐことができるということですので、一安心しています。
さて、今回は、病気による入院と危急時遺言のお話です。
先日、私の昔の依頼者のAさんから、こんな電話がありました。
「自分のおじさんが病気で入院して、あと数日で亡くなるかもしれないと医者に言われています。意識はあって、なんとか話すことはできますが、もう手の力がないので、字は書けません。おじさんは、亡くなる前に遺言を作りたいと言っていますが、なんとかなりませんか。」
遺言をしたい人が病気で入院している場合に遺言書を作る方法としては、通常は、次の2つが考えられます。
一つは、公証人にお願いして、病院に来てもらい、遺言公正証書を作ってもらうという方法です。
もう一つは、遺言をしたい人が、たとえ病気でも字を書くことができるならば、遺言をしたい人が自筆で遺言書を書くという方法です。
本人や家族が、「遺言書なんて、どう書いたらいいかわからない。」という場合は、弁護士が希望する遺言の内容を聞いたうえで遺言書の案文を作成し、その通りに書いてもらいます。時間的な余裕がない場合は、弁護士が病室まで出かけ、希望する遺言の内容を聞き取ってすぐ案文を作り、その場で遺言をしたい人に書いてもらうことになります。
しかし、公証人に病室に来てもらう場合は、希望する遺言書の内容を公証人に伝えるだけでなく、基本的な資料(遺言をしたい人の本人確認や遺産の確認のための資料)を取り寄せて公証人に渡し、公証人に遺言書の案文を作ってもらう時間が必要です。また、公証人が病院に行ける日の調整もしなければなりません。
このため、遺言書作成の依頼を受けてから数日しか時間的余裕がない場合は、到底間に合いません。
また、自筆証書遺言の場合は、遺言をしたい人が字を書くことができなければなりませんから、字を書くことができないという場合は、この方法はとれません。
今回の相談は、病気で死期が迫っていて時間的余裕がなく、しかも、本人は字を書けないということなので、上記の2つの方法のいずれも使えないということになります。
では、今回の相談のような場合、遺言書を作成する方法はないのでしょうか。
実は、このような場合でも遺言書を作る方法があります。それは、民法976条に定める死亡の危急に迫った者の遺言の方法です。この方法による遺言は、危急時遺言と言われています。
条文には、次のように定められています。
第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
この条文によれば、3人の証人が一緒に病室を訪れ、証人の中の1人が、遺言者の遺言内容を聞き取り、その場でその遺言内容を文章にし、その文章を遺言者と他の2人の証人に読み聞かせるか、閲覧させて、遺言者の話した内容とその文章が一致していることを確認したうえ、3人の証人が署名捺印しなければなりません。
また、この危急時遺言は、遺言の日から20日以内に、裁判所に確認手続の申立をしなければなりません。
3人の証人を集めるのは、親族でも何とかできそうですが、遺言者の遺言内容を聞き取り、その場でその遺言内容を、法律的に効力のある文章にするのは、なかなか素人には難しいことです。
このため、この方法による遺言は、弁護士が依頼されることが多いと思います。
実は、私も、10年ほど前に1度この危急時遺言を作ったことがあります。
このときは、かつての依頼者が病気になり、この依頼者の親族から電話で連絡を受けました。相談を受けた日の翌日に、早速事務スタッフ2人を連れて病院に行き、危急時遺言を作成しました。
その時連れて行った事務スタッフ2人のうち1人は、新しく採用され勤務を始めたばかりだったので、いきなり病院での遺言という緊張する場面に連れて行かれ、びっくりしていました。
もちろん、私も、初めての危急時遺言作成だったので、もし自分の知識が不正確で、遺言書の作り方を間違えてしまえば、作成した危急時遺言が無効になり、依頼者の最後の意思を残すことができなくなってしまうと思い、とても緊張したことを覚えています。
ちなみに、今回の依頼は、前回と同様に翌日病院に駆け付けることにしましたが、残念ながら、その前に亡くなってしまったため、危急時遺言の作成をすることができませんでした。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。