

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺産分割の調停が突然取り下げられた!?
相続人から遺産分割と寄与分の調停の申立てがあり、これに対応して調停を重ねて1年になろうとするころ、ようやく大きな争点だった遺産の額について合意が成立する見込みとなった段階で、いきなり裁判所から、「申立人が調停事件を全部取り下げたので次回に予定されていた期日はなくなりました」と電話連絡があり驚いたということがありました。
このように、遺産分割調停の申立てがあっても、首尾よく調停が成立して一件落着する場合ばかりとは限りません。そこで今回は、調停が終了するいくつかの場合について簡単にご紹介します。
遺産分割調停の手続が終了する場合としては、①調停の成立 のほか、②調停不成立、③調停に代わる審判、④調停をしない措置(なさず)、⑤調停の取下げ、があります。
① 調停の成立はわかりやすいですね。当事者の間で合意が成立して終了する場合です。
調停で合意が成立すると裁判所が調停調書を作成し、これにより調停が成立して終了となります。
② 調停不成立というのは、当事者間に合意が成立する見込みがないとして調停手続を終了させる場合です。
調停は家庭裁判所で行われますが、話合いにより合意の成立を目指すものですので、双方が同じ不動産の取得を希望してともに譲らないとか、あるいはそもそも調停手続に参加しようとしない相続人がいるなどの事情で合意に至らず、調停が不成立となることがあります。
調停が不成立となった場合には自動的に審判手続に移行し、裁判所が遺産の内容や種類など一切の事情を考慮して遺産分割について判断することになります。
③ 調停に代わる審判というのは、調停が成立しない場合に家庭裁判所が職権で事件解決のため審判をするものです。
これは、最終的な合意には至っていないけれども家庭裁判所が審判をすれば双方ともこれに応じる可能性が高い場合を予定しています。
出頭する当事者は調停案に合意していて、出頭しない当事者も事実上合意の意向を示しているとか、感情的な対立などで調停で合意を成立させることは拒否するが裁判所の判断には従うので審判してほしいと当事者が望む場合などに用いられます。
④ 調停をしない措置というのは、事件が性質上調停を行うのに適当でないと認められるときなどに、裁判所が調停をしないものとして手続を終了する制度です。「なさず」による終了ともいわれます。
たとえば、当事者が調停を進行させる意欲を喪失している場合や当事者が調停を不当に引き延ばしている場合などになされます。
また、遺言書の解釈や有効性についての争いとか、財産が遺産に属するかどうかの争いといった遺産分割の前提となる問題があって、それが話合いで決着しない場合、こうした前提問題が解決しなければ遺産をどう分けるかという遺産分割の話には進めませんから、まず前提問題について訴訟で決着をつけなければなりません。
こうした場合、裁判所は申立人に調停を取り下げるよう勧めるのが通常で、大抵はこれに応じて調停は取り下げられます。
しかし申立人が取下げに応じないときには、調停期日を重ねても無駄ということになるため、調停をしない措置がとられて終了となることがあります。
⑤ 最後に、調停の取下げによる終了です。
申立人は、調停事件が終了するまではいつでも遺産分割調停の申立てを取り下げることができるとされています。取り下げるにあたり、理由を示すことは必要ありませんし、相手方の同意も必要とされていません。
したがって、冒頭の例のように、調停期日を重ねたあげくに突然申立てを取り下げられてしまうということもあり得てしまうのです。
ただし例外があって、令和3年の法改正により、遺産分割調停の取下げは、相続開始から10年を経過した後は、相手方の同意がなければ取り下げできないという制限が設けられています。
もちろん、申立人が調停を取り下げても遺産分割事件はなにも解決していませんから、取り下げて終わりということにはなりません。
こんどは相手方だった当事者から遺産分割調停の申立てがなされることもありますし、取り下げた申立人自身があらためて調停を申し立てることも可能です。
それまで誠実に調停に応じてきた他の相続人にしてみれば、取下げなどという無駄なことはやめてほしいと思いたくもなりますが、対抗手段としてはすみやかに自分の方から調停を申し立てるしかなさそうです。
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大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。