相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続人の調べ方について(戸籍調査)
相続が発生して遺産分割協議を行う場合には、相続人全員で話し合って分割方法を決めなければなりません。相続人の一部が漏れていたり、本来相続人でない人が参加していたりした場合、そのような遺産分割協議は無効とされ、再度相続人間で協議をやり直さなければなりません。
そのため、遺産分割協議を行う前提として、戸籍謄本などを揃えて相続人について調べておくことが必要です。
出生、離婚、死亡、認知、養子縁組など身分的に重要な事項はすべて戸籍に記載されますので、戸籍を確認することによって相続人を確定することができます。
戸籍には、現在戸籍、除籍、改製原戸籍があります。
現在戸籍は、現に使用されている戸籍です。本籍として届け出た市区町村に戸籍簿として保管されています。
現在戸籍の謄本は、戸籍がコンピュータ化されている市区町村では横書の体裁の登記事項証明書という形で出てきます。コンピュータ化されていないところでは、縦書の戸籍謄本(登記簿謄本ともいいます)となりますが、どちらも証明内容は同じです。
除籍というのは、戸籍に記載されている人が婚姻や死亡などで全員除かれた場合や、転籍などで新しい戸籍が編製されることによって、全員がその戸籍から除かれた場合に作成されるものです。
改製原戸籍(かいせいげんこせき、「はらこせき」と呼ばれることもあります)は、法改正によって戸籍の改製(作り直し)が行われた場合の、改製される前の古い戸籍のことです。
平成6年の改製で、それまで和紙に記載して保管していた戸籍をコンピュータ処理できることになり、順次、改製(コンピュータ化)が行われています。たとえば東京都港区では、平成16年7月31日にコンピュータ化が行われていますので、それ以前の戸籍は改正原戸籍ということになります。
昭和32年の改製では、それまでの戸主を中心とした戸籍から夫婦とその未婚の子どもを単位とする戸籍に切り替えられました。この書換前の戸籍も改製原戸籍です。
改製された後の戸籍には、その当時戸籍に記載されている人については記載されますが、改製前に死亡や婚姻などでその戸籍から除かれていた人の情報は記載されません。これらの情報が必要な場合は、改製原戸籍をとることになります。
さて、被相続人の死亡の事実と相続人の確定のため、戸籍を揃えるわけですが、具体的には、まずは被相続人の本籍地の市区町村役場で被相続人の相続開始時の戸籍謄本(または除籍謄本)を取り、その後、順次、出生から死亡まで連続した戸籍謄本をとっていくことになります。
兄弟が相続人となりそうな場合は少し注意が必要です。
被相続人に子ども(第一順位の相続人)がおらず、両親(第二順位の相続人)もともに亡くなっている場合は、兄弟(第三順位の相続人)が法定相続人ということになります。ただし、両親と書きましたが実はそれは正確ではありません。法律では、「親」ではなく「直系尊属」と定められていて、直系尊属のうち親等(しんとう)の異なる者の間ではその近い者が相続人になるとされています。
したがって、両親が亡くなっている場合には、さらにその両親(被相続人の祖父母)が亡くなっていることを確認してはじめて兄弟が相続人であると証明できることになります。
また、兄弟が相続人となる場合は、両親についても出生から死亡までのすべての戸(除)籍や改製原戸籍の謄本をとり、ほかに兄弟がいないかも確認しておく必要があります。
このようにして相続人が確定できれば、今度はその相続人自身の戸籍を取り寄せます。そして最後に、一覧して分かるよう相続人関係図を作って、相続人の確定作業は終了です。
相続人が多かったり本籍地を頻繁に変えている人がいたりすると、戸籍を揃えるだけでも大変な作業になります。また、思いもよらない相続人が判明して依頼者がびっくりすることもあります。
先日も、兄が死亡した旨の連絡を役所から受けたという方から、相続放棄の依頼がありました。兄とは長く音信不通だったし、役所の人の話だと税金の滞納もあり、他にもどんな債務があるかわからないため相続放棄したいということでした。
そこでお兄さんの戸籍を取っていったところ、依頼者も知らなかったことでしたが、お兄さんは養子をもらっていたことが判ったということがありました。養子がいれば依頼者は相続人ではないということになります。
しかし、その養子の方の状況もまったくわかりませんので、まずはお兄さんが亡くなったことをお知らせしてみようということになりました。
ともあれ、相続が発生した場合には、相続人の調査はなるべくすみやかに、確実に行うようにすべきでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。