相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
令和6年4月から相続した不動産についての相続登記義務が課されます
不動産登記簿をみても所有者がすぐにわからない。所有者が判明してもその所在がわからず連絡がつかない。こうした「所有者不明土地」が年々増えています。
産学官の有識者による所有者不明土地研究会は、こうした土地の面積は2016年(平成28年)時点で九州本島をも上回る410万haあり、何の手も打たなければ2040年には約720万haに達するという衝撃的な報告を行っています。
所有者不明土地が大量に発生する要因は、平成29年度の国土省の調査によれば、相続登記の未了が66%、住所変更登記の未了が34%と公表されております。
相続登記の未了というのは、所有者が死亡して相続が発生しても、だれがその土地を相続したかを明らかにする相続登記が行われないまま放置された状態です。
なぜ相続登記が行われてこなかったのか。
それは、これまで相続登記を行うことは義務ではなく、これを行わなかったからといって不利益を被ることは少なかったという事情が一番の原因でしょう。それ以外にも、過疎化が進んだ地方などで不動産価格が低下して利用価値もない土地は誰も欲しがらず、所有者がだれかも不明になってしまうといったことも指摘されています。
実際に相続案件を扱っていると、土地の名義が何代か前のご先祖のままになっていて、遺産分割によってその土地の名義を変更しようと調査したら共有者が何十人にもなっていたというケースもあり、こうした土地の処理は大変です。
それだけでなく、所有者不明の土地は、管理されないまま放置されてゴミの不法投棄先となるなど周辺に迷惑を及ぼしたり、都市開発を行う際の大きな障害になったりするなど弊害が大きく、その改善が急務となっています。
すでに政府もその対策に乗り出しています。
たとえば平成30年11月からは、法務局の登記官が職権で、所有権の名義人が死亡した後にもかかわらず長期間相続登記がされていない土地である旨を「長期相続登記等未了土地」と登記に付記し、さらに法定相続人に相続登記の申請を行うよう勧告することができるようになっています(法務局から「長期間相続登記等がなされていないことの通知(お知らせ)」という郵便が届くようです)。
しかしこれはあくまで勧告にとどまり、登記には長期間相続登記未了であるという事実が記載されるだけで具体的な法定相続人などの氏名は記載されませんので、所有者不明土地の解消という面からは不十分でした。
そこで、所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化を図ってさらに総合的に見直しが行われています。今回は、その中でも相続にからんで多くの人に影響する相続登記の義務化について見ていくことにします。
先に述べたとおり、これまでは相続により不動産を取得した相続人であっても、相続登記を行う義務はありませんでした。
これが見直され、改正不動産登記法は、相続登記の申請を義務化したのです。
実はこれまでも、相続が発生しても遺産分割がなされないような場合、相続人の1人が単独で法定相続分での相続登記を行うことは可能でした。しかし相続登記は義務ではありませんでしたし、この登記を行うには、法定相続分の割合などを明らかにするため、被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本などの書類をそろえる必要があり、その負担は少なくありませんでした。
そこで今回の改正法では、申請を義務化する一方で、相続人が申請を簡易に行うことができるようにするための、相続人申告登記という新しい登記を設けました。
これは相続人が、①不動産所有権の登記名義人について相続が開始したこと、②自分がその相続人であることを、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記官に申し出れば申請義務が履行されたことになる、というものです。
申出を受けた登記官は、審査したうえで、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に記載します。この相続人申告登記では、相続人の持分までは登記されません。
この申出をする場合には、相続人全員を確定するための戸籍謄本・除籍謄本等すべてをそろえる必要はなく、申出をする相続人自身が相続人であることがわかる戸籍謄本を提出すれば足りるものとされています。
相続登記義務の内容は、次の二つです。
まず、不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務づけられました。
そして、遺産分割が行われたときは、その内容をふまえた登記申請をすることも義務づけられています。
正当な理由なくその申請を怠った場合は、10万円以下の過料に処せられる場合があります。
具体的に相続人が行うこととなる登記申請は、次のようになります。
① 3年以内に遺産分割が成立しなかった場合
3年以内に相続人申告登記の申出をする(従来の法定相続分での相続登記も可)。
その後に遺産分割が成立したときは、遺産分割成立の日から3年以内にその内容にしたがった相続登記の申請を行う。
② 3年以内に遺産分割が成立した場合
3年以内に遺産分割の内容にしたがった相続登記の申請を行う。
それが難しいときは、3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記も可)を行ったうえで、遺産分割成立の日から3年以内にその内容にしたがった相続登記の申請を行う。
③ 遺言書があった場合
遺言によって不動産を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に遺言の内容にしたがって登記の申出(相続人申告登記の申出でも可)を行う。
この改正法は、令和6年4月1日から施行されます。
注意しなければならないのは、令和6年4月1日の施行日前に相続が発生していたケースでも登記の申請義務は免れないとされていることです。
たとえば、令和元年1月に相続で不動産を取得したことを知ったが相続登記を行わないままでいたという場合でも、令和6年4月1日以降、3年以内に相続登記の申請をすべき義務が課されます。
ただしこの3年以内というのは、施行日である令和6年4月1日と申請義務の要件を充足した日のいずれか遅い日から数えます。上記の例でいえば、改正法が施行される令和6年4月1日から3年の間に相続登記または上に述べた相続人申告登記の申出を行えばよいのです。
まだこの改正法の施行前ではありますが、遺産のうち不動産についてだけ相続人間で協議がまとまらず相続登記も済んでいないようなときは、もうすぐ登記が義務化されることを説明して協議を促すのも有効かもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。