相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺留分を減らす方法は?遺留分減額を目的とする養子縁組の効力
1月も後半になり、少し遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
年が明けて、感染者数も少しずつ減少し始めているように見えますが、実際には、検査を受けていない隠れ感染者が多いのではないかと言われています。
亡くなる方も多く、そのほとんどが高齢者の方で、介護施設等で高齢者の介護に携わっている方々は、日々感染防止対策にご苦労されているようです。
一日も早く、第8波が終息することを願うばかりです。
さて、今日は、遺留分を減らす方法について考えてみたいと思います。
遺留分とは、一定範囲の相続人のために法律上必ず留保(遺留)しなければならない遺産部分です。
遺留分を有する相続人を遺留分権利者といいますが、遺留分権利者は、被相続人の配偶者、子(子の代襲者、再代襲者を含みます)、直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分はありません。胎児も生きて生まれれば、子としての遺留分を持ちます。
遺留分の計算の仕方などについては、今回のコラムの主題ではありませんので、相続の法律Q&Aを読んでいただくこととして、具体例で考えてみましょう
(なお、以下の内容は、平成元年7月1日以降に相続が発生し、改正された民法が適用されることを前提とします。)。
たとえば、妻に先立たれたAが、相続財産すべてを長女Yに相続させる遺言を残して死亡し、他の相続人は次女Xだけというケースでは、総体的遺留分の割合は2分の1であり、次女の法定相続分は2分の1ですから、遺留分割合は4分の1(1/2×1/2)となります。
仮に、Aの遺産の総額が1億円であり、生前贈与や相続債務がないとすると、次女Xの遺留分は、2500万円ということになります。
そして、次女Xは、Aの遺言によって全く遺産を相続できませんので、Xの遺留分である2500万円全額をAの遺言によって侵害されていることになります。
従って、次女Xは、長女Yに対して、遺留分侵害額請求として、2500万円を請求できることになります。
では、もしAの生前、AとYが、Xの遺留分を減らしたいと考えていたとすると、どのような方法があるでしょうか。
よく使われる方法は、生命保険契約の締結と生命保険料の一括払いです。
これは、Aを契約者兼被保険者、Yを受取人として、保険料を一括して支払うタイプの生命保険契約を保険会社と締結して、保険料をAの財産から支払うというものです。
裁判所は、被相続人が死亡した場合に支払われる生命保険金は、原則として民法903条1項に規定する遺贈又は贈与にあたらない、つまり特別受益とならないと考えています。
このため、Aが生前に支払った保険料も、YがAの死亡によって受領する死亡保険金も、特別受益にならないため、その分、Aの遺産を減らすことができます。
例えば、Aの財産の中の預金2000万円を保険会社に保険料として支払ってしまえば、Aの遺産は8000万円に減りますので、この状態でAが亡くなると、Xの遺留分は、2000万円ということになります。
もっとも、このような契約を締結するには、まとまった預金や現金が必要ですから、遺産のほとんどが自宅土地建物である場合には、この方法はとれません。
また、仮に多額の預金や現金がある場合でも、生命保険金が余りにも高額になるときは、これを特別受益として扱わないと相続人間に著しく不公平が生じるため、例外的に生命保険金を特別受益に準じて扱い、遺産額の算定に当たって、生命保険額を持ち戻しの対象にするというのが最高裁判所の考えです。
このため、生命保険金額が被相続人死亡時の遺産額より多くなるような場合は、生命保険金を特別受益に準じて扱い、遺産額の算定に当たって、生命保険額を持ち戻しの対象にされるおそれがあります。
もう一つ、Xの遺留分を減らすためによく使われる方法は、養子縁組です。
たとえば、Yに子供が2人いた場合、この2人の子供をAの養子にしてしまえば、Aの子供は4人になりますので、Xの遺留分割合は、4分の1から8分の1になり、金額としては、1250万円になってしまいます。
この方法をとった場合の問題点は、養子縁組無効確認訴訟が提起されるおそれがあるということです。
養子縁組が有効であるためには、縁組届出当時、縁組の当事者の双方が縁組みをする意思をもっていなければなりません。
しかし、他の相続人の遺留分を減らす目的で養子縁組をした場合、縁組の当事者双方に養子縁組をする意思がなかったと考えることができます。
そこで、これを理由として、養子縁組によって遺留分を減らされた相続人が、養子縁組無効確認訴訟を提起するおそれがあります。
このような養子縁組を有効とした最高裁判例もありますが、この最高裁判例は、かなり古いもので、その後、養子縁組を無効とした高等裁判所の裁判例がいくつかあります。
おそらく、他の相続人の遺留分を減らす目的で、そのためだけに養子縁組をしたと認められるような事情があれば、養子縁組は無効になるのではないかと思います。
今回は、他の相続人の遺留分を減らすために、よく使われる方法を2つ取り上げました。
もっとも、このコラムは、このような方法をとることを推奨しているのではありません。
実際、私の依頼者が、このような方法をとったことはありません。
逆に、このような方法をとられた他の相続人の方のご依頼を受けたことは、何度かあります。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。