相続についての法律制度の中には、民法と相続税法の相続財産を巡る取扱に違いがある等、理解するのは難しいものとなっていますが、基本的な知識を手軽に得ることができるように解りやすく解説しています。
相続分
相続分とは、積極財産と消極財産の両方を含む相続財産全体に対する各相続人の持分です。
相続分は、遺言で指定することができます。また、遺言で、相続分の指定を第三者に委託することもできます。
遺言で相続分の指定がない場合は、民法の定める相続分(法定相続分)となります。
法定相続分は、次のとおりです。
ただし、これは昭和56年1月1日以降に相続が発生した場合です。
なお、子供、直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合は、その人数で上記の相続分を割ったものが各相続人の法定相続分です。
ただし、片親のみを同じくする兄弟姉妹の法定相続分は、両親を同じくする兄弟姉妹の2分の1です。
嫡出子というのは、結婚(内縁は除く)している男女の間に生まれた子供です。
これに対して、結婚していない男女の間に生まれた子供を、婚外子といいます。
婚外子を父親である男性が認知した場合、婚外子には相続権があり、摘出子と婚外子の法定相続分は、同じです。
Aには、妻がいますが、子供はいません。Aの両親はすでに亡くなっていますが、弟と妹は元気です。また、Aの亡父は、Aの母親と結婚する前に、前の奥さんと離婚しており、前の奥さんとの間に、息子がいます。
Aが亡くなりました。相続人は誰ですか。また、法定相続分はどれだけですか。
Aの妻が相続人になります。また、Aには子供がおらず、両親も亡くなっていますので、Aの弟と妹が相続人となります。
さらに、Aの亡父と前の奥さんとの間の子供もAの兄弟ですので、相続人となります。ただ、Aとは親の一方を共通にするだけの兄弟(半血兄弟姉妹)ですので、法定相続分は、親の両方を共通にする兄弟(全血兄弟姉妹)である弟と妹の半分となります。
相続分の放棄とは、諸説ありますが、相続財産に対する共有持分権を放棄する意思表示であるとするのが、実務の取り扱いです。
相続放棄と相続分の放棄との違いは、相続放棄をした相続人は、最初から相続人ではなかったことになりますので、相続財産に対する共有持分権はもちろん借金などの相続債務も負担することはありませんが、相続分の放棄をした相続人は、相続人としての地位を維持しますので、相続財産に対する共有持分権は失いますが、借入金債務などの相続債務の負担を免れることはできません。
また、相続分の放棄があった場合、相続分の放棄をした相続人の相続分は、残された相続人に法定相続分の比率に応じて配分されます。
たとえば、妻と長男及び二男の2人の息子がいるAが亡くなった場合、法定相続分は、妻が2分の1、長男及び二男がそれぞれ4分の1ですが、二男が相続分の放棄をすると、二男の法定相続分の4分の1は、妻と長男の法定相続分の比率2:1に応じて妻と長男に配分されます。この結果、妻と長男の相続分は、妻が3分の2、長男が3分の1となります。
相続分の譲渡とは、相続人が他の人に対し、相続財産全体に対する自分の共有持分あるいは相続人としての地位を譲渡する意思表示です。分かりやすく言えば、自分の相続人としての権利も義務も、全てそのまま他の人に譲り渡すということです。
たとえば、妻と長男及び二男の2人の息子がいるAが亡くなった場合、法定相続分は、妻が2分の1、長男及び二男がそれぞれ4分の1ですが、二男が妻に対して相続分の譲渡をすると、妻の相続分は4分の3になります。
この場合、相続財産の中に債務があるときは、二男は、相続分の譲渡によってその債務を妻に引き受けてもらうことなりますが、この債務引受には債権者の同意が必要です。
なお、相続分の譲渡は、相続人に対してだけでなく、第三者(法定相続人ではない人)に対しても行うことができます。