相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
田舎のじいちゃんの土地をどうする?所有者不明土地問題への施策~その1
新型コロナウィルスの東京都の感染者数は、下げ止まりどころから再増加に転じています。このままでは、4月には再び1000人に達してしまい、そうなればオリンピックどころではなくなってしまうのではないでしょうか。そのときの経済への影響が心配です。
さて、今回は、所有者不明土地問題に対する施策についてお話ししたいと思います。
最近、相続してしまった地方の土地についての相談が増えています。
たとえば、Aさん(男性60歳)は、母親が20年前に祖父から相続した地方の土地とその上の建物の対応について、相談にきました。「母親が相続した」と言っても、あくまで母親と母親の兄弟3人の合計4人で共同相続したもので、未だに遺産分割が終わっておらず、登記もAさんの祖父名義のままです。もちろん、この家には誰も住んでおらず、廃屋となっています。
この20年の間に、Aさんの母親の兄弟のうち2人は亡くなり、さらに、その子供も亡くなっている家もあるそうです。
Aさんとしては、自分の母親が兄弟の中で一番の年長者であり、また、自分の子供達にこの問題を残したくないので、自分が元気なうちに、この問題を片づけたいということでした。
もちろん、Aさん自身は相続人ではないので、Aさんの母親を依頼者として、この問題を解決することになります。
このような場合、戸籍の取り寄せによって相続人を確定することになりますが、20年前に亡くなったAさんの祖父の出生から死亡までの戸籍及びその相続人の戸籍を全て取り寄せることになりますので、相当大変な作業です。
また、相続人が確定できたとしても、全員の行方が把握できるのか、認知症等によって遺産分割協議ができない人がいるのではないか等、協議を開始する前に、越えなければならないハードルは、たくさんあります。
別の相談では、こんなものもありました。
Bさん(女性55歳)は、子供のころに地方の土地を相続させられ、現在も所有者として少額の税金を支払っているが、この土地を自分の夫や子供に相続させたくないので、今のうちに何とかしたいということでした。
Bさんが考えた対策は、自分のめぼしい財産は、生前に全て夫と子供に贈与し、自分が亡くなったら、法定相続人全員に相続放棄をしてもらうというものでした。
確かにこの方法によれば、Bさんが所有する地方の土地は、Bさんの法定相続人が相続することはありません。
しかし、この方法によると、Bさんは、自分のめぼしい財産を、生前に全て夫と子供に贈与することになりますので、贈与税をどうするのか、また、夫や子供との関係が悪くなったときに、困らないのか等の問題があります。
前者の問題は、相続時精算課税で対処できそうですが、後者の問題は、将来の人間関係は予測できませんので、少し心配です。
相続した土地や建物は、それが価値のあるものであれば、通常は遺産分割によって所有者が決定します。
しかし、地方都市の郊外や山間部にある土地など、あまり価値がなく、換価が困難なものについては、相続があっても遺産分割が行われずに放置されたり、相続放棄をされたりして、所有者が決まらないことがあります。
このような状態が長期間継続すると、先ほどのAさんの例のように、所有者を確定することが困難となり、所有者不明土地となるのです。
この所有者不明土地の問題について、政府は、民法や不動産登記法の法改正によって、この問題に対応しようとしています。
新聞報道等によると、法改正を行う概要は、次のようなものです(正確な法改正の内容については、別の機会に取り上げたいと思います。)。
・相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として特別受益や寄与分についての民法の規定を適用しない(この結果、特別受益や寄与分を考慮せず、法定相続分による遺産分割をすることになる。)。
・不動産の登記名義人の相続が開始したときは、相続によってその不動産の所有権を取得した者は、所有権の取得を知ってから3年以内に登記申請しなければならず、これを怠ると10万円以下の過料を科す。
・死亡した所有権の登記名義人の相続人による申出を受けて登記官がする登記として、相続人申告登記(仮称)を創設する。
・所有権の登記名義人の氏名や住所について変更があったときは、 その所有権の登記名義人は、その変更があった日から2年以内に、氏名や住所についての変更の登記を申請しなければならず、これを怠ると5万円以下の過料を科す。
・登記官が住民基本台帳ネットワークシステムなどから 所有権の登記名義人の氏名及び住所についての変更の情報を取得し、これを職権で不動産登記に反映させることができるようにする。
・裁判所が所有者不明土地・建物や所有者による管理が不適切な土地・建物について、管理人を選任して管理させる制度を設ける。
・一定の条件を満たした場合には、相続等により取得した土地所有権を国庫への帰属させる制度を創設する。
政府は、今国会で上記改正の関連法案を成立させ、公布後2年以内の施行を目指しているとのことです。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。